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D-Drive  作者: Ирвэс
新天地アウロラ編
9/14

Act8:魔導と恐竜が織り成す幻想(前編)

お待たせしました。今回は前後編でお送りします!

それでは先ず、前編からどうぞ!

コルの魔導研究所に入るなり、其処で働くオルニス族達が主人の帰りを出迎えるべく一斉に殺到する研究員のオルニス族達。その1人1人をレキが眺めると、内訳としてはオウム型が多く、フクロウ型も少数ながら存在していた。


(まぁ、カラスのコルは鉄板として、オウムのオルニス族は妥当だな。どれもトップクラスに頭の良い鳥だしよ…)


昔からペットでお馴染みのインコやオウム、ヨウムと言った鳥は地球でもカラスと並んで(・・・・・・・)最も賢いと(・・・・・)される鳥(・・・・)であり、特にヨウムは数字を覚える上に人間の言葉も単なる物真似ではなく、意味をキチンと理解して人間と会話まで出来る(・・・・・・・・・・)程に知能が高い!そんな鳥のオルニス族が研究員の様なホワイトカラーの役職と言うのは、実に理想的な鳥人選だとレキは思っていた。


(只、フクロウは微妙だよなぁ…。“知恵の象徴”なんて人間から言われてる割には余り賢くねーし……)


対してフクロウは昔からギリシャ神話のアテナの使いとされ、「森の賢者」と呼ばれる等、賢い鳥の印象を人間は持っているが、思考能力自体は其処まで高くなく、寧ろ鳥の中では平均的。只、左右非対称に付いた耳やパラボラアンテナの様な頭部、目の機構のお陰で聴覚や視覚はズバ抜けているのは事実。オルニス族ならば狩りは元より、研究でもその自らの能力をフル活用出来れば実験で僅かなエラーも見落とさず、改良や改善に貢献する卓越したエンジニアに化けるであろう。

総括すれば、オウムとフクロウはどちらも研究及び開発に於いて最も有能な人材ならぬ鳥人材足り得るだろうと言うのがレキの考えであった。

すると研究員のオルニス族達が改めてこちらの方を向き直り、ヨウム型の研究員が代表して口を開く。


「それで、他のCWSの皆さんも御揃いの様ですが今日は一体何の御用………って、えぇっ!?」


平常運転で社交辞令と思しき言葉を発するヨウムの研究員だったが、レキの姿を見て思わず驚きの声を張り上げる。


「だ、誰!?」

「まさか、オルニス族やサウルス族じゃない別世界の知的生命体!?」

(やれやれ、こいつ等もかよ………)


無論、彼を含めて他の研究員達も一斉に同様の反応を見せた。至極当然と言えばその通りのリアクションだが、最初に城で衛兵達に似たリアクションをされた手前、似た様な反応にレキは不快感を覚える。

だが、こんな事で一々腹を立てても仕方が無い。彼等の立場なら、自身も間違い無く同じリアクションを取っていただろうし、そもそも今の自分はこの世界の住人にとっては生まれも姿形も全く違う、異世界の別の種族。徹底的に異分子扱いされても仕方が無いのだ。幸いにも言葉が通じる点と、国の要人達から迫害される事無くまともに扱って貰えている点だけでも良しとせねばならない。

そう自分に言い聞かせて気持ちを落ち着けていると、興味本位にヨウムの研究員が近づいて来る。


「へぇ、これは珍しいね。まさか次元門から異世界のお客さんが来るなんてさ!」


頭を上下に振りながら、ヨウムの研究員はレキの事を頭の上から足元まで余す事無く視線を送る。頭だけで無く、体もブンブンと振っているが、これは楽しい時や興奮している時に出るヨウムのボディーランゲージだ。コル同様、レキに興味津々なのだろう。

取り敢えず話し掛けてみよう。そう思ってレキは言葉を発する。


「……お前、俺が怖くねぇのか?知らねぇ異世界から来た異種族の俺は、お前等からすりゃおっかねぇ化け物なんだろ?」

「まさか!コル様や他のCWSの皆さんなんてご機嫌に最強な方達も近くに居るんだから、別に大丈夫でしょ?」

「そりゃ確かにこんな奴等を敵に回したら俺も命が幾つ有っても足んねーわな……つーか、流石は天下のCWSってか?」


改めてアドリア達がこの国で最強の一軍である事が、このヨウムの言葉からも理解出来る。同時にコルもこの研究所の職員のリーダー格らしいが、人間態を見る限り16歳位の少女だった。こんな人間年齢に換算しても自分より年下の小娘が此処の元締めとは、余程天才的な頭脳と魔法関係の技術力の持ち主なのだろう。改めてコルの凄さが伝わる瞬間が其処に有った。

それと同時に目の前のヨウムの事もレキは内心「可愛い」と思った。レキの半分程度しか無い低身長に加え、円らな目と少年らしき声と言う特徴が好感度に繋がっていたのである。

何にせよ、取り敢えずは自己紹介をしよう。


「名前、未だ名乗ってなかったな。俺の名前は竹内靂!レキで良いぜ」


レキが名乗ったのを受け、ヨウムの研究員も自己紹介を始めた。


「僕の名前は『ニッキ』。宜しくねレキ!」


ニッキと名乗ったヨウム型のオルニス族に続き、残るオウムやインコ、フクロウ型と言った総勢9名の研究員が順繰りに名乗り始めた。

フクロウ型はメンフクロウの『レスポナ』、ウサギフクロウの『クラマット』、モリフクロウの『ウラル』、ベンガルワシミミズクの『ユゴ』の4名、残るオウム型はミヤマオウムの『カレリア』、コンゴウインコの『アスディア』、キバタンの『カガレ』、オカメインコの『ルチアーノ』、ルリメタイハクオウムの『ハク』の5名がその内訳である。

カラス型がコルだけなのは意外だが、どの道種族レヴェルからして既に頭脳明晰そうな面子が揃っている為に良しとしよう。そんな風にレキが思っていると、徐にコルはレキの傍に来て告げる。


「早速だけど、こいつの事について皆に説明するわ。と言っても、国の最高機密だから今は誰にも話さない事!分かったわね?」

「「「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」」


研究員達がコルの指示を了承する返事を返すと、早速彼女は今日出会ったレキの事について説明した。彼が別世界の知的生命体であるホモ・サピエンスである事、アウロラの化石を発掘した人物であり、その声を聞いてテレパシーでも啓示を受けた男である事、そしてこの世界にやって来た経緯。全てを有りのまま、脚色無しでコルは全員に伝えたのである。

話が終わった後、一同は当然の如く驚き、その感情の余り言葉も出なかった。何を隠そう、彼等もまた“アウロラ神が異世界より英雄を連れて戻って来る”と言う伝説を知っていたのである。となれば、それに該当すると思しき異世界の住人がやって来たとなれば至極当然の反応だった。


「う、嘘でしょう?」

「まさか……そいつがアウロラ様の御声を聞いた英雄かも知れないだなんて………」

「って言うか本物のホモ・サピエンスをこの目で見る日が来るとは……」

「過去の記録でホモ・サピエンスの事は知っていたが、我々の英雄になるであろう個体を連れて来るとは流石コル様とCWS………」


レキは未だ伝説の事も何も知らされていないが、嘗てアウロラ神の声を聞いた点と此処に来る前にコルがサラッと口にした“英雄”と言う単語(ワード)から、自分がオルニス族にとって無視出来ない存在になりつつあるのではと言う予感は薄々感じていた。


(何だ?コル達だけじゃなく、こいつ等まで俺の事を英雄かも知れない人物呼ばわりすんのか……?勘弁してくれよ。俺は今年大学生になる学者志望の一般人だぜ?事情は分からんが、たかが化石1つ掘り起こした位でお前等の英雄なんてのに祭り上げられたって迷惑なだけなんだよ……)


そもそも“アウロラ様”だの“英雄”だの、一体何の事なのだろう?これまでの話からも彼等があの化石を御神体として大層有難がっているのは間違い無いが、百歩譲ってあの化石がこの世界にとって御大層な物だったとして、何でそんな大事な(・・・・・・・・)物が自分の(・・・・・)世界に存在(・・・・・)しているのだろうか?この時点で既に意味不明である。

自分は化石を返して欲しくて此処に来ただけなのに、何やら雲行きが微妙に怪しくなって来ている様で、レキは一抹の不安を覚える。

だが、今そんな事を考えていても仕方が無い。不安を少しでも解消する為にも、これから魔法の事も含めてこの世界の事を教えて貰うべく此処に居るのだから。


「と、取り敢えずこの世界の魔法の事について教えてくれよ。此処に来る前にもD-Driveなんてのも2回も見た訳だし……」

「そうね。じゃあ早速説明するから取り敢えず多目的室に行きましょう。付いて来て」


コルに促され、レキはアドリア達の衆人環視の下に2階に有る多目的室へと通された。中は結構広く、50人くらいは収容出来るだけの面積が有り室内には12台の机、壁にはホワイトボード、壁際にはTVと思しき機材が存在している。それ以前に此処へ来る前から、研究所内には精巧な恐竜や鳥人型のロボットが動く様子がレキの目には入っていたが、魔法と言う存在から察するにあれはゴーレムの類なのだろう。更に部屋毎に新たな魔法薬(ポーション)魔導具(デヴァイス)等、様々な分野の研究・開発が行われている様子が伝わって来る。こんな見事な自宅兼研究施設(ホーム&ラボラトリー)に住んでるコルが羨ましい。未来の鳥類学者として、本気でレキはそう思っていた。

さて、ホワイトボードの真ん前の机にレキが座ると、コルはその前に立ち、教鞭を執る姿勢に入る。因みにアドリア達はレキの座る机の周りを取り巻いていた。

するとコルは何処からか指示棒を取り出すと、それを右手に持って勢い良くレキに突き出し、こう告げる。


「それじゃあレキ、ご要望通りあんたには魔法やこの世界について、今開示出来るだけの事は一通り教えてあげるわ。先ずは魔法について説明するわね」


そう言うと同時に、コルは早速左手に光の玉を生成して見せた。早くも本格的な魔法らしき力を目の当たりにし、レキは「おぉ~っ!」と歓声を挙げる。


「私達オルニス族やサウルス族は勿論の事、惑星アウロラにおける恐竜や鳥類、爬虫類、両生類、魚類と言った様々な生物は“魔力”と呼ばれるエネルギーが多かれ少なかれ秘めているわ。それを自身のイメージ通りに操り、行使する技術こそが“魔法”。其処から更により機能的に運用するそれが“魔導”なの。」

「なら早速質問するが、お前が此処に来る前に言ってた魔法適性ってのは何なんだよ?」


いきなりその質問をするか?本当はもう少し順を追って説明したかったのだが、全くレキの着眼点は良くも悪くも飛躍している……。気を取り直してコルは答えた。


「魔法適性って言うのはね、その名の通り自身の内に宿る(・・・・・・・)魔力がどの(・・・・・)属性の魔力を(・・・・・・)行使するのに(・・・・・・)向いてるか(・・・・・)って言う指標よ。例えば私はこうやって光の玉を出して見せたけど、それは私の魔法適性が光だから出来る事なの」

「じゃあアドリア達は?」


するとアドリア達も同じ様に身体からオーラを放ち、手から何かしらの力を具現化させつつ答えた。


「私の適性は“風”だ」


そう言ってアドリアは手の上で頭程のサイズは有ろうかという旋風を起こして見せる。


「俺は“金”だよ」


続いてフェサは光る宝石を両手で生成して見せた。そしてレキに放って見せると、それは何とも見事なルビーやサファイアであった。


「因みに僕は“火”や“水”や“雷”、“土”、“光”、“風”、“氷”、“金”、何でもござれさ!」


ラククは何と火の玉や水の玉、雷の球や冷気と様々な属性のエネルギー体を次々と繰り出して見せた。その様子にレキは大いに感心し、同時に理解した。先程外で見掛けたバガケラトプスも魔力を持っていて、コルと同じ光属性の魔力だったからあんな風に光になって超スピードで走る事が出来たのだと―――――。

だがその直後、レグランだけ様子が可笑しい事にレキは気付く。何も出す素振りを見せていないのだ。


「あれ?レグランだけ何もしてねぇが、まさかこいつ……」

「そうさ。恥ずかしながらオイラは魔力を持ってない(・・・・・・・・)んだよ………」

(は?魔力が無い?じゃ俺等を襲ったあのドラゴンをティラノサウルスに完全竜化して噛み砕いたのは魔法じゃねぇのかよ……?)


そう思った次の瞬間、コルが口を開いて言う。


「レグランは確かに魔法適性上、残念ながら魔力を持ってないけど、その代わり卓越した身体能力と格闘能力が物凄い有るからそれで補ってるの。だからCWSに入れたのよ」


成る程、|魔力だけが全てじゃない《・・・・・・・・・・・》と言うのはそれはそれで良い事だろう。持たざる者でも持つ者と良い勝負が出来て勝ちを拾える。戦局を引っ繰り返し得る。特化して優れた技量が大きな強みになるのは何処の世界でも一緒の様だ。

だが、今自分が気になるのは其処では無いのでレキはまた質問する。


「それはそれで凄ぇのは分かるが、じゃあこいつが魔導具無しでティラノサウルスになったD-Driveは何なんだよ?あれは魔法じゃねぇのか?」


此処でその質問か?全く…こいつの世界にも学校が有って、教師と呼ばれる職業の者が居るのは事前調査で知っていたが、このホモ・サピエンスは中々に教師泣かせの生徒だったのでは無かろうか?溜め息を吐きつつコルは答える。


「D-Driveは確かに魔導の技術だけど、それはあくまで私達の中に有る竜の遺伝子を呼び起こして、より強靭な膂力と生命力を持ったサウルス族に先祖返りし、更に其処から完全竜化出来る様にする為の切っ掛けに過ぎないの。最初言ったでしょ?竜化は本来オルニス族が(・・・・・・)潜在的に(・・・・)持ってる能力(・・・・・・)だって!そして後天的に竜化の力を引き出す技術こそD-Driveってだけで魔力の有る無しは其処には関係無いし、生まれ付き出来る奴にはそもそも必要無い!分かった?」

「あ、あぁ。一応分かった……」


D-DriveのDが「恐竜(Dinosaur)」を表すだろう事は感じていたが、話を聞く限り強ち間違いでは無いらしい。


「因みに言っておくと、私は生まれながら(・・・・・・)にD-Driveが出来るオルニス族なの。それで、他のアドリア達はこの専用魔導具(デヴァイス)を使って竜化を繰り返す内に自力でそう出来る様になったって訳!ついでに言っとくけど、私があんたと同じホモ・サピエンスになって見せたTechnical-D-Driveは、こうした遺伝子操作による竜化の研究の過程の中で、極々最近に(・・・・・)なってやっと(・・・・・・)完成した技術(・・・・・・)だからね」

(成る程、そう言う事か……と言う事は!?)


コルからの一連の説明を受け、レキは漸く得心が行った様だった。魔法が使えない(・・・・・・・)鳥でも(・・・)遺伝子を弄って(・・・・・・・)恐竜に先祖返り(・・・・・・・)出来る力こそがD-Driveの本質。そう理解したレキだったが、次の瞬間とんでもない事を閃く。


「そうか……だったらコル、1つ実験させてくれよ」

「は?実験?何の?」


レキの口から出た実験と言う言葉の前に、コルは首を傾げた。因みに同じリアクションはアドリアやニッキ達も取っている。このホモ・サピエンスは一体何を考えているのだろう?

一同が頭に疑問符を浮かべる中、レキは次の瞬間、とんでもない言葉を口にした。



「コル、俺に(・・)D-Driveを(・・・・・・・・)施してくれ(・・・・・)!」



レキのこの言葉に、室内の全オルニス族は一斉に凍り付いた。


「な…何ですって!?」

「お、お前……正気か!?」

「同じオルニス族やサウルス族は兎も角、ホモ・サピエンスにD-Driveなんて聞いた事無いよ!?」


人間にD-Driveと言う前代未聞の実験を提案されて唖然となる一同だが、レキは至って大真面目な表情で言う。


「別に魔力も何も持たないレグランだって、その力でティラノサウルスになれる様になったんだろ?だったら同じ様に普通の人間(・・・・・)である(・・・)俺にだって(・・・・・)同じ事は(・・・・)出来る(・・・)筈だぜ?まぁ、恐竜にはならねぇかもだけどな!」


するとコルは気を取り直して言った。


「あ、あんた馬鹿じゃないの!?そんな事してあんたの身にもしもの事が有ったらどうすんのよ!?D-Driveによる竜化は相当身体に負担が掛かるのよ!?あんたみたいな只のホモ・サピエンスじゃ命落とすかも知れないのに馬鹿な事を…」

「そんなんやって見なきゃ分かんねーだろ?それに俺、身体はそれなりに鍛えてるから決して柔じゃない心算だぜ?」


全くぶれる事無くそう言い切るレキの様子に、コルを始めとしたその場のオルニス族達は完全に呆れ果ててしまった。特にアドリア達としては、これから元の世界に帰して竜聖剣を見つける為に利用すると言う当初の目標が狂いそうで不安しか無い。だが、本人がこうも強く言っているのだから応じない訳には行かない。


「…全く、ホモ・サピエンスってのは種族レヴェルでこんな馬鹿揃いなのかしら?レスポナ、記録ノート付けといてね?」

「えっ?あっ、はい!」


本日もう何度目とも知れぬ溜め息と共に、意を決したコルはメンフクロウのレスポナに記録役を命じると、再びスマホ型の魔導具(デヴァイス)を取り出してレキの胸元に押し付け、起動させる。


「どうなっても知らないからね?」


瞬く間にレキの足元に魔法陣が形成されたかと思うと、やがてレキは其処からせり上がる光の柱に全身を包まれたでは無いか!

それと同時に、全身から力が漲る感覚が湧き上がって来るのをレキは感じていた。やがて光の柱がフェードアウトしたかと思うと、レキの身体は何も変化が無かった。


「ありゃ?」

「…何も起こらないわね。オルニス族以外の種族には効果が無いのかしら?」


レキとコルが首を傾げた次の瞬間、不意にレキの身体を強烈な違和感が襲う。


「おっ、な、何だ!?この感覚…うおアァァ~~~~~ッ!!」


何と、レキの身体が見る見る縮んだかと思うと、そのまま全身に白い羽毛が生え始め、頭に鶏冠が生え始めると共に、尻の辺りからも長い尾羽で覆われ始めたでは無いか!


「な、何だとォッ!?」

「えぇっ、これって!?」

「嘘だろ!?」

「信じられない!こんな事って……!!」


アドリア達もこの様子に驚きを隠せない。更に入り口前に控えていたニッキ達は更に目を大きく見開いて事の成り行きを観察、記録していた。


(え……何?)


それと同時にレキの直ぐ傍にいたコルは薄っすらと感じ取っていた。D-Driveによって姿が変わって行くレキの身体から、極々微細ながら(・・・・・・・)奇妙な物が(・・・・・)発せられている(・・・・・・・)事を―――――。


(近くにいても注意しなきゃ分からない位小さいけど、こいつの身体から発せられてるこれって―――――魔力(・・)?)


レキの世界に魔法が存在しない事は、彼が発見した化石を捜索する過程で調査していた為にコル達は知っていた。そんな世界の住人であるレキが魔力を持っているなんて有り得ない!だが、D-Driveを掛けると同時に薄っすらとだが彼には魔力が発現している。これは一体どう言う事なのだろう?

頭の中に湧き上がる疑問にコルが戸惑う中、やがてその場に散らばったレキの衣服の中からモゾモゾと抜け出て来たのは、何と1羽の等身大の(・・・・)白いクジャク(・・・・・・)!そう、レキはD-Driveで白いクジャクとなってしまったのだった!


「アァ―――――ッ!!何だこりゃ!?だいぶ身体縮んじまったが、一体俺はどうなってるんだ!?」

「…レキ、鏡見なよ?」


一先ず人語は話せる様だが、当のレキは自分の身体に起きた異変を確かめられない。そんな彼の為に、フェサは金属を司る自身の魔法によって鏡を生成。それでレキの姿を映し出す。数秒間の沈黙を置いた後、レキは漸く自身の身に起きた変化を理解した。


「え…えぇ――――――ッ!?俺、等身大のクジャクになっちまったのぉ~~~~ッ!!?」


まさか自分がクジャクになるとは夢にも思わなかった……。興味本位で自らの身体を実験台にした事を後悔したレキだったが、直ぐにコルが助け舟を出す。


「落ち着きなさいよ馬鹿猿!慌てないで先ずは人に戻った自分の姿をイメージするの。最初は難しいだろうけど、こう言う力のコントロールはイマジネーションが肝心よ」

「お、おう…ならやってみるわ」


落ち着いて元の人間の姿をイメージするレキ。最初は何の変化も無かったが、それから5分経った頃に身体が少しずつ変化して行くのを感じる。背が伸び、翼は人間と同じ両腕になる等、見る見る内に外見は人に近付いて行く。

そうして体の変化が止まった頃、改めて鏡を見ると、何とレキの姿はクジャク型の鳥人(・・・・・・・・)へと変わっているでは無いか!


「こ、これは……クジャクの鳥人になってやがる!」


まさか別世界のホモ・サピエンスが自分と同じオルニス族の姿に変貌するとは……その場にいる全員が驚きを隠せない。D-Driveとは、他の種族も鳥や竜に変える力が有るのだろうか?現段階ではレキしかデータが無い為に検証は出来ないが、これはこれで極めて貴重な研究データが採取出来たとコル達研究者達は思っていた。

だが、当のレキは鳥人間になった事で大きな問題を抱えてしまっていた。


「なぁ…尾羽や腕の羽が邪魔で服が着れないんだが……どうすりゃ良いんだ?」


地味だが切実な問題を提起され、その場の一同は思わずズッコケた。全く、先程から調子を狂わされっ放しで頭が痛くなって来る。ホモ・サピエンスとは此処まで理解に苦しむ生き物なのか?その場にいる全オルニス族は呆れて言葉を失っていた。


「…取り敢えず後数分は我慢しなさい。そうすりゃ魔導術式の効力は消えるから……」


レキにそう言い放つ一方で、コルはレスポナ達に命じて研究記録を纏める。それと同時に彼女は、或る気になる点を感じていた。


(でも変ね。確かにあの姿は白いクジャク型のオルニス族に酷似してるけど、あの体色は白いって言うより色が抜けてる感じ(・・・・・・・・)がする……)


改めてクジャク型鳥人になったレキの身体を見ても、そのカラーリングはアルビノとは言い難く、寧ろ画像編集ソフトで彩度を0にして灰色に変え、その上で明度を上げて白に近付けた感じである。

だが、それ以上にコルが気になっていたのはやはり鳥に変化してからレキの中から発せられた、極めて微細な魔力の波動であった。


(あいつの世界に魔力が存在しない事は向こう言った時に調査して分かってたけど、最初から魔力を持ったホモ・サピエンスなんて向こうに居るの?別世界の生き物でも、D結晶やE鉱石のエネルギーを長時間受けて適性が有れば宿るかもだけど…。って言うかD-Driveして初めて魔力が出て来るなんてあいつ、可笑しいわ。まるでそれ自体が(・・・・・)魔力を引き出す鍵(・・・・・・・・)になってるみたい……)


レキはアウロラ神の声を聞いて彼女を掘り起こし、然も映像と言う形で自身の居所をテレパシーで告げられて此処に居る。これだけでも彼がアウロラ神に選ばれし者なのは間違い無いが、それ以上の物をアウロラ神はレキに齎した気がしてならない。D-Driveによって遺伝子に秘められた因子を活性化する事で初めて感知出来るなんて、極微細とは言えどんな魔力だ?仮にレキに魔力が宿っていたとして、その総蓄積量はどれ位なのだろう?仮に彼が英雄とされる程の逸材だとしたら、自分達以上の物を持っている可能性は十分有り得る。これから自在に鳥化出来る様になればもっと引き出せるのだろうか?

余りに情報が少な過ぎる為、考えても分からないが、取り敢えず今はレキにこの世界の事を知って貰うだけに留めよう。コルはそう自分に言い聞かせてこれ以上の考察は止めにした。


それから10分後、漸くレキは元の人間の姿に戻れた為、大慌てで服を着る。自身の全裸の姿を見られて恥ずかしい想いで一杯だった為、思わず声を大にして叫ぶ。


「恥ずかしいからお前等出てってくれ!!」


だが、対するアドリア達は「何故?」と首を傾げるだけ。レキの言葉の真意が全く理解出来ていない様子だった。


「人間ってのは裸見られりゃ恥ずかしいモンなんだよ!!」


赤面しながらそう怒鳴るが、鳥人達は依然としてノーリアクションだ。表情に変化が無いので何を考えているか分かりかねるが、状況からして呆れ立ち尽くすだけであろう事は容易に想像出来た。


「心配しなくても私達、他の生き物の裸になんか興味無いわよ。てかそんなどーでも良い事気にするなんてホモ・サピエンスって馬鹿なの?」

「~~~~~~~もう良いよ!!着終わったから!!」


当たり前の話だが、コル達はオルニス族で人間では無い。人間でないなら当然物の価値観や考えだって人間とはズレていたり(・・・・・・)相容れない(・・・・・)点も多分に存在(・・・・・・・)する。ちょっと考えれば分かる事に気付いてバツが悪くなったのか、半ば自棄糞になったそうレキは怒鳴り散らす。尚、今回の実験で人間がD-Driveをすると竜化ではなく獣化するのではないかと、この時のレキは仮説を立てていた。


後編へ続きます。

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