表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
D-Drive  作者: Ирвэс
プロローグ
2/14

Act1:黒の一団を追跡せよ

早速2話目です。

時系列は今から2年前――――当時高校2年生だったレキが化石を発見した時に遡る。


『御覧下さい!頭部から尻尾まで、完全な保存状態で発見されたこの恐竜の化石!発見したのは何と、地元の高校に通う高校2年生・竹内歴さんです!!』


新種の恐竜の化石と共に、福井恐竜博物館の前で館の職員やマスコミ達に囲まれながら、レキはその取材に応じていた。

その時レキは記者から、その化石の発見の経緯について尋ねられてこう答えた。


“まるで天から降って来た神の声に導かれ。無我夢中になって掘り起こした”、と。


化石を見つけたその日、レキは自身の趣味であるバードウォッチングの為、山へハイキングに出掛けていた。

山を飛んでいる鳥を双眼鏡で観察していると、不意に何処からか声が聞こえたと言う。曰く――――


『私の声が聞こえし者よ、どうか私を掘り起こして下さい』


――――と。

最初は単なる空耳だとばかり思っていたが、少しずつその声は頭の中にダイレクト且つ鮮明に響く様になり次の瞬間、山の近くに在る切り立った崖の映像がフラッシュバックしたと言う。

その後の事は詳しく覚えていなかったが、気が付けばレキは弾かれる様に駆け出して一目散に現場へ急行しており、謎の声が脳内に大きく響く岩壁をスコップで掘り始めた。因みにスコップはハイキング用に常備していた装備の1つである。


凡そ1時間程かけて掘り続けた後、今までに感じた事の無い手応えをスコップから感じ、其処から柄に恐竜の(・・・・・)頭部らしき飾りが(・・・・・・・・)付いた奇妙な銅剣(・・・・・・・・)と一緒に例の化石を採掘したと言う。

この事が後日、市や県から大きく評価され、レキは一躍時の人となった。取材を受けた時、マスコミはレキの父が著名な恐竜学者たる竹内快(たけうちかい)博士の息子である事を引き合いに出した上で、こんな質問をしている。


『竹内さんはあの竹内博士のお子さんだそうですが、やっぱり将来はお父さんと同じ恐竜学者になりたいですか?』


その問いに対してレキは自分がなりたいのは鳥類学者だと答えている。理由を尋ねられた時、レキはこう返した。



「確かに僕は恐竜が好きで、小さい頃は確かに恐竜学者になりたいって思ってました。でも8歳の時、父が庭に飛んで来た鳥を見て僕に言ったんです。『レキ、知ってるかい?恐竜は本当は絶滅してないんだ。鳥になって生きてるんだよ』って。『鳥は恐竜其の物。カラスも恐竜なら、スズメも恐竜なんだよ』って……。恐竜はもう大昔に絶滅してもうこの地球にはいないって思ってた僕にとって、それは大きな衝撃でした。同時に僕達は恐竜と一緒に暮らしてるって分かって、嬉しくなりました!だから僕は鳥類学者になって、現代に生きる恐竜である鳥達の事を知りたい!そしてそれは、逆説的に大昔に絶滅した恐竜達を知る事に繋がるって思うから!」



幼い頃に父から教えられた真実――――恐竜が本当は絶滅しておらず、鳥となって生きていると言う事。自分達は鳥と言う、現代の獣脚類達と同じ時を生きていると事実。それはレキの人生に多大な影響を及ぼし、鳥類と言う現代の恐竜の視点から太古の恐竜を知ろうと言う発想を齎した。それこそが、鳥類学者になりたいと言うレキの原点であった。

この化石の発掘自体は、鳥類学者の夢には直接の繋がりは無い。だが、将来的には鳥から恐竜の研究に携わりたいと思っている彼にとって、それは大いなるスタートでありゴールと言っても過言では無い、大事な心の原点となっていたのである。


東京へこれから上京する前に、今一度その化石を見ておきたいと言うレキの気持ちは、至極真っ当な物だったのだが………。



「………只今」


その日の夕方、レキは失意の内に自宅に帰って来ていた。


「お帰りなさいレキ……」

「兄さん、残念だったね……」


出迎えた母と、弟の和智(かずち)を横目に、トボトボとレキは2階に在る自室へと昇って行く。

力無くベッドの上に倒れるレキの目には、疲労と喪失感が漂っていた。

警察や博物館の職員達から事情説明を受けた上で、自身の化石が展示場から忽然と消えて無くなったのを目の当たりにし、込み上げて来たのは大切な原点を失った喪失感と悲しみと犯人への怒りと言う三位一体の負の感情だった。直後にマスコミからも、自身の発見した化石が盗難に遭った事への心境を訊かれ、気分は完全にゲンナリ。夢への第一歩を盛大に踏み外し、あまつさえ足を捻挫した気分であった。

尚、警察が調査した所によると、犯行現場には鳥の羽根と思しき物が数種類、然も複数散らばっていたと言う。然もこれは侵入経路と思しき博物館の裏口からも複数見つかったそうである。カラスの羽根やキジ目の鳥類と思しき物の様だが、鑑識に掛けても何の変哲も無い鳥の羽根で、犯人に繋がる有効な証拠にはなり得ないと言うのが警察の判断だった。

ただ、監視カメラに映った映像では、犯行が有ったとされる早朝5時頃、何処からか全身黒ずくめの怪しい人影が3~4人現れた次の瞬間、監視カメラの映像が途絶えたと言う。


「誰だよ、俺の化石盗んだ糞野郎共は……!?捕まったら思いっ切りブン殴ってやるかんな………!!」


警察も化石の捜索と一緒に犯人の逮捕に全力を尽くすと言ってくれたが、やっぱり自分が捕まえられるなら捕まえたいとレキは思っていた。

だが、その一方で疑念も残る。化石と言っても、あれだけ大きな岩塊を普通の人間が数人掛かりで、況してや誰にも気付かれずに運び出せるとは思えない。

然も警察の話によると、化石の盗難が明らかになったのは博物館の職員が出勤して来た時であり、それまでの時間帯にそれらしい物を抱えて歩く不審人物の目撃情報は街の何処からも寄せられていない。

これだけでも十分不可解なのに、犯人が脱出したと思われる正面の扉にも、何か強い力で無理矢理破壊された形跡が有ったと言う。手口からしてとても人間業とは思えず、それこそ恐竜の様な大型の生き物の突進でもない限り有り得ない壊れ方だった。


(けど一体何モンだよ、化石盗んだ連中は……?つーかそもそも、化石なんか盗んで何しようってんだ?)


普通に考えれば、盗んだ化石を闇のルートで何処かに転売するのが目的だろう。だが、あんな物を欲しがる様な買い手が本当に居るのだろうか?余程の好事家でもない限り有り得ないのだが………。

幾等考えてもまるで分からない。と言うかそもそも自分の原点を失ったショックの方が大き過ぎて、これ以上何も考えたくない。思考を完全に手放したレキは暫く不貞寝した後、何時もの様に夕飯に舌鼓を打ち、恐竜関係の本を渉猟した後で風呂に入って床に就いた。

TVのニュースでも例の窃盗事件が取り沙汰されたが、結局犯人に繋がる確証は何も見つからなかった様である。



だが数日後、こんな信じ難い出来事が有った余韻も醒めぬまま、再び不可解な事件が地元を襲った。


「おいおい、嘘だろ……!?」


レキがTVを点けた時、ニュースで報道されたのはまるで鳥と爬虫類の中間の様な奇妙な怪生物が、勝山市を中心に福井の各地で相次いで発見されたと言うニュースだった。

その外見は、6500万年の大昔に絶滅した羽毛恐竜―――即ち獣脚類其の物と言っても過言では無い。然もこの謎の生物の発見と共に、地元では電線に停まったり家の庭に飛んで来る鳥の姿が見えなくなったと言うのだ。


「何なのよこれ?気持ち悪いわね……」

「これってもしかして、恐竜…って、兄さん?」


TVの報道に思い思いの感想を述べる母と弟を他所に、レキは一目散に家を飛び出して行く。何故飛び出したのかと聞かれれば、「無意識」と答える以外無いだろう。

恐竜が鳥の先祖と言うのは始祖鳥の発見に端を発した学説の1つで、当時は誰も信じる者は無かった。だが、1996年に発見された化石に羽毛の痕跡が発見されたのを受け、それまで二足歩行の爬虫類の類だと思われていた恐竜のイメージは覆され、その後の研究によって漸く鳥は恐竜の子孫、其処から発展して鳥は恐竜其の物と言う認識へと至った。

理由は分からないが、それを証明する生物が現れたとなれば、未来の研究者として見過ごす訳には行かない。この目で確かめねば!理屈ではなく本能でそう悟ったレキは気が付いたら自転車を走らせ、勝山橋の近くまで来ていた。すると視界に飛び込んで来たのは、『我こそは生きた恐竜の発見者となってやろう!』と息巻く勝山市民達が河原の周辺で怪生物を捕まえようと草の根を掻き分けて探し回る光景だった。


「何やってんだよ?どうせ普段は恐竜なんてそんな興味無い癖に……」


地元住民だからって、普段は恐竜に対しては興味のキョの字も無かった癖に、都合の良い時だけ湧き立つ。数を頼って自分では何も考えない、思考停止の馬鹿揃い。そんな大衆の愚かさには呆れて声も出ない。


「まっ、ニュースに踊らされてこんなとこ来てる俺も大概だろうけど……って、ん?」


そんな彼等の姿を半眼で眺めるレキだったが、次の瞬間何かが自分の直ぐ傍を物凄い速さで通り過ぎて行くのに気付く。それは全身を黒ずくめのコートで覆い、顔を白いペストマスクで隠した怪しい集団だった。


「今の何だよ……ってこの羽根……まさか!?」


窃盗団と思しき黒の一団が通り過ぎた後には、カラスやニワトリ、キジやタカと思しき鳥の羽根が残っていた。それは犯行の有った博物館に落ちていたのと同じ羽根。然も周りには鳥らしい影は何処にも無い。これはもう先程の集団が化石を盗んだ窃盗団であると見て間違い無い。

羽根を拾ってその匂いを嗅ぐと、レキは再び自転車を走らせて先程の黒い集団を追跡する。何を隠そう、レキは人並み外れた嗅覚の持ち主であり、その匂いを元に犬宜しく探し物を見つけた事が過去に何度も有るのだ。

怪しい集団は既に遠ざかって見えなくなっていたが、道路に複数落ちていた羽根とその匂いを頼りに全速力で自転車を走らせて追跡すると、そのまま街の近くの森へと入って行く。その森の景色に、レキは既視感(デジャヴ)を覚えていた。


「あれ?この森の景色って……」


実は前日の夜、レキは或る奇妙な夢を見ていた。何処とも知れない森の中を歩いていると、不意に声がするのだ。


『私を掘り起こせし者よ、私は此処にいます――――』


2年前に自分が化石を発掘した際に聞いたのと同じ声。その後も自身が発掘した化石見たさに博物館へ足を運んだ時、何度か耳にした声だったがその時のレキは空耳だと思って流してしまっていた。

話を戻そう。夢の中でその声のした方へ向かって行くと奇妙な洞窟に辿り着き、中に入ると自分が発掘した化石が安置されているのだが、その時点で夢は覚めてしまい気付いたら朝になっていた訳である。

そして今のレキが歩いているこの森の景色は、丁度その夢の中で歩いていた森の中と景観が一致するのだ。


「まさか、本当に夢の通りの景色だってのか?って事はもしかしてこの先に……」


昨夜の夢は本当に予知夢だったのだろうか?それを確かめる意味でもレキが前に進んで行くと、やがて断崖に大きく口を開けた洞窟の入り口へと辿り着いたではないか。となるとやはり化石もこの奥に……?


「洞窟マジで有ったよ…。つーかこの山にこんな洞窟有ったっけか……?」


取り敢えず夢の通り事が運んだのは良いが、その一方で何か危険が待ち構えていると言う予感が一緒にレキの脳裏を過る。それでも上京する前に自分の大切な原点を取り戻したいと言う、自らの強い想いで湧き上がる恐れを押し殺すと、レキは自転車を降りて洞窟へと飛び込んで行く。だが、この時レキは気付かなかった。近くの森の木の上から自身を見つめる怪しい影の存在を………。

一方、それに気付かぬままレキはスマホの明かりを頼りに奥へ進んで行くと、盗まれた化石は果たして其処に安置されていた。


「有った!やっぱ此処に有ったのか!!」


見事に盗まれた化石を発見したが、これだけ大きな物は自分1人では持ち出せない。それに、何時犯人達が此処に戻って来るか分からないのだ。どちらにせよ、此処は一旦戻って警察に通報するのが1番だろう。


「良し、俺1人じゃ運び出せないから取り敢えず警察呼ぶか」


意を決したレキが引き返そうとした……その時だった!


「ぐあッ!?」


突然レキの後頭部に衝撃が走る。何者かが背後から彼を殴ったのは火を見るよりも明らかだ。遠のいて行く意識の中でレキの目が最後に捉えた物は、スマホの光に照らされた、例の黒い集団の1人の姿であった―――――。

次回で第一章は終了です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ