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D-Drive  作者: Ирвэс
竜の試練編
14/14

Act13:再び恐竜の世界へ

お待たせしました。今回はネタバレ回前編!そして最後辺りに簡単なバトルが有ります。

「は、始まりの竜?それで、お前等のご先祖様で本物の神様だって?あの化石が………?」


コルの口から告げられた言葉に、レキは目が点になるばかりだった。最初に会った時から彼等が自分の発掘した化石を神呼ばわりして神聖視していたのは分かるが、未だ会った事の無いサウルス族やオルニス族の先祖と言う初めて聞く事実には言葉も無かった。


「ま、まぁ確かにあの化石の竜は肉食恐竜の祖先だっつーエオドロマエウスにそっくりだったがよ、だからってお前等の祖先ってのは飛躍し過ぎ……」

「嘘じゃないわ。本当の事よ!アウロラ様がこの世界に来た際、地球は竜が滅ぶ前後の時代だったの!其処からあの化石の姿で長い間眠り続け、テレパシーを送ってたの!遠い未来、英雄の素質を持った知的生命体が自分の前に現れる様にってね!!」

「なッ!?顔近ぇよ!!」


至って真剣な眼差し説明しながら顔を近付けるコルに、レキは思わず後ずさりする。


「取り敢えず竜が滅ぶ前後って事は、恐竜が絶滅した6500万年前(・・・・・・・)か?ってか其処から人類が生まれて、更にその中から英雄とやらが生まれるまで待ってただ!?ますます意味分かんねーよ!それに誰だよスーリャって!?ついでに俺が英雄ってんなら、他にそれらしい証拠が有って言ってんだろうな!?」

「ゴチャゴチャ質問して面倒臭い奴だねこいつ……」

「そうか?分からない事をそのままにして思考放棄する馬鹿よりかはマシだと思うが?」


レキとコルの遣り取りにチェンとマルクが思い思いの感想を漏らす中、コルは目に強い使命感を漲らせながらレキの最初の質問に答える。


「良いわ。教えてあげる。スーリャ様はね、今から6500万年前(・・・・・・・)のサウルス族の(・・・・・・・)英雄(・・)よ!ティラノ型のね!」

「ろ、6500万年前の英雄だと!?」


自分の世界で6500万年前は丁度恐竜が絶滅した時代だが、同じ時代の惑星アウロラにはそんな英雄が実在したと言うのか?だが、ならば何故そんな存在がいたと言うのだ?恐竜が絶滅する様な事が無かった代わりに、違う大事件(・・・・・)でも有ったのか?それこそ英雄が必要とされる様な由々しき事態が………。

それと同時にこの恐竜絶滅の年代である“6500万年前”と言う単語(ワード)から、レキは惑星アウロラに対して自身が抱いていた仮説の正しさを感じていた。後は確かな物的証拠を見つけるだけだが、今はそんな事はどうでも良い。コルの説明をしっかりと聞いて全てに納得しなくてはならないからだ。

するとコルは徐にスマホ型の魔導具(デヴァイス)を取り出し、中に保存していた画像データをレキに見せた。それは、遥か大昔に石板に書かれた絵入りの文献であった。


「証拠ならちゃんと有るわ。先ずはこれを見て」

「何だこりゃ?お前等の世界の文献か?」


すると其処には鎧を纏ったティラノサウルスの恐竜人が大きく描かれ、他の恐竜人達と共に黒い蝶の大群(・・・・・・)と戦っている構図の絵が映っていた。

更にコルが画像をスライドさせ、その英雄の亡骸から自分が見つけたのとそっくりな剣が作られる様子が描かれた絵と、その剣を太陽に翳す赤い鳥人(・・・・)の絵をレキに見せる。

何れの絵にも、主要人物の傍らには白い(・・)エオドロマエウス(・・・・・・・・)らしき恐竜が佇んでいた。


「この絵を見れば分かるけど、レックスカリバーはスーリャ様の遺骨から作られた剣だったの。そして最後のこの絵に書かれた一文にはこう書かれてるわ。『アウロラの神は我々の住まう世界と似て非なる世界より、竜の魂を持つ英雄を連れて戻って来る。英雄の資格持つ者、神と魂を共鳴し、その御心を知るだろう』ってね。私達の世界じゃ誰もが1度は聞いた事が有る位有名な話よ?」

「そ、その連れ帰るべき“竜の魂を持つ英雄”とやらが俺だってのか?大昔の神話か伝承にしちゃ出来過ぎてんな……」


6500万年前の大昔からそんな話が現代に語り継がれている事に、レキは言葉も無かった。思う事が有るとしたら、精々途方も無くスケールのデカい超々古代の神話と言う位が関の山だ。

出来過ぎなまでに良く出来た作り話(フィクション)だと思いたくなるレキだったが、残念ながらここに一堂に介する特殊部隊の鳥達の存在や、次にコルが伝える事実は嫌でもそれを許さなかった。


「神話じゃないわ。歴史的事実よ。アウロラ様は6500万年前、遠い未来のあんたの世界に私達の世界を救う(・・・・・・・・)英雄が生まれる事を未来予知で知ったの。そしてその英雄を見つけて連れ帰る為にこの世界に来て、見つかったのがあんただったって訳!」

「6500万年前からの未来予知って、また途方も無ぇ予想だな………。余りに信じられねぇ話だが、本物の神様って言われりゃ納得するしか無ぇのかな?さっきの“神と魂を共鳴し、その御心を知る”って下り、化石から聞こえたテレパシーとシンクロしてるしよ……」


改めて例の化石について思い返すと、レキは度々あの化石を近くで見る度に空耳ながら女性の声が聞こえるのを感じていた。自分が化石を掘り起こした時に聞いたのと同じ声を―――――。


「つーか、それ以上に俺が本当に英雄だってんなら、お前等でも持てなかったこの剣持ち上げた以外に何か確かな証拠が有んだろう?でなきゃ俺も納得出来ねぇよ!」

「証拠なら見せてあげるわ。先ずはこれから見て」


そう言うとコルは、自身の魔導具(デヴァイス)でDNAの塩基配列のデータを二重螺旋の立体映像と共に映しながら言う。


「このDNAのデータは3日前にあんたの家に行った時、あんたのお母さんの髪から採取した物なの。他にも此処に来る前に何体か他のホモ・サピエンスのも調べたけど、一般的なDNAのデータは皆殆ど同じだった。違うのは極一部だけの雀の涙位ね」

「まぁ……人間のDNAってのは99.9%同じで、個体ごとの違いは僅か0.1%程度だからな…ってかお前、何時の間にお袋の髪拾ってやがったんだ?ついでに他の人間のまで調べてたのかよ……」

「レキ、前にも行ったと思うけど、こいつはDNA集めが趣味なんだよ」

「あー、そう言やそんな事言ってたな……」


母親のDNAを採取していた事に呆れるも、レグランから補足されてレキは納得していた。あの時は別段何とも思わなかったが、改めてそう言う趣味を持っていると知ってレキは言葉も無い。カラスが蒐集癖の有る鳥である事は有名だが、DNAを集めるのは如何な物だろう?人間の感覚で言えば光り物の方が未だマシと言いたいが、コルにはコルの価値観が有る手前、こちらからどうこう言う資格は無いので黙っているしか出来ない。


「じゃあレキ、普通のホモ・サピエンスの遺伝子がどう言うのか分かった所で、次はあんたのを見せてあげる」


するとコルは次の瞬間、本題とばかりにレキのDNAのデータを見せた。二重螺旋の立体映像を観察すると、塩基配列の中に明らかに普通の人間と違う部分が随所に見受けられた。全体的には他の人間と同じだったが、それでも立体映像を見る限りでは0.1%処か5%も目に見えて違っている。


「何だこりゃ?俺のDNA、可笑しいだろ?どうなってんだ?」

「その変わってる部分に備わった遺伝子の情報を解析したら、あんたの中に元々存在する鳥の因子から(・・・・・・)変化した物(・・・・・)だって分かったの」

「と、鳥の因子!?俺の中に!?」


人間は母親の胎内で受精すると、子宮の中で古生代から中生代、新生代と言う進化の記憶を辿って人間の胎児の形になると言う。つまり、人間の遺伝子にはあらゆる生物の(・・・・・・・)進化の記憶が(・・・・・・)眠っている(・・・・・)と言っても過言では無い。

レキはその中で、鳥に関する進化の記憶が因子として発現していた様だった。


「た、確かに俺等人類は母親の子宮の中で進化の歴史をトレースしてこの形になるがよ、まさか俺の中に鳥の因子が有ったとは驚きだぜ!」


将来鳥類学者を目指す自分としては少しだけ嬉しくなるレキだったが、此処でレキはとても重要な事実に気付く。


「あれ?って事は何か?お前は今さっき俺の中に鳥の因子が有るっつったが、それってつまり俺の中には恐竜の因子が(・・・・・・)含まれてる(・・・・・)って事だよな?」


鳥類のDNAを解析した結果、実は鳥類は恐竜からの進化の過程で、新たな遺伝子を獲得していない事が研究で明らかとなっている。それはつまり、鳥は遺伝子的に(・・・・・・・)祖先の獣脚類達(・・・・・・・)と比べて(・・・・)変わっていない(・・・・・・・)と言う事に他ならない。そんな鳥類が現在の姿になったのは、元々恐竜から受け継いだ遺伝子の使い方を変える事で現在の形に進化して来たからなのだ。

こうした遺伝子的観点からしても、やはり鳥は恐竜其の物。進化の過程で新たな遺伝子を獲得していたのなら子孫と言う形容で良かったかも知れないが、遺伝子的に新しい物が無いならやはり恐竜其の物と言った方が正しいだろう。

横道に反れたが、レキの中に鳥の因子があると言う事は畢竟、彼の中に恐竜の因子が存在していると言う事になる。


「まぁ、そうなるわね。後この前D-Driveした時に鳥の姿になったのも、あんたの遺伝子に備わっていた鳥の因子が活性化して起こった変化なのは間違い無いわ。極めれば鳥から竜になる事も夢じゃないかもね」

「マジかよ、そりゃ堪んねぇな!けど……それにしたってこの塩基配列の形は変だろ。どう見たって地球上の生物のDNAの形じゃねぇよ」


コルの回答に対し、レキは胸のときめきを感じると共に至極真っ当な見識を述べる。すると、コルは次の瞬間極めて核心的な言葉を口にした。



「当然よ。何故ならこの塩基配列は惑星アウロラに棲息する、D結晶及び(・・・・・)E鉱石で(・・・・)超生物へと(・・・・・)進化か変異した(・・・・・・・)生き物の(・・・・)DNAのそれ(・・・・・・)なんだから……」



その言葉に、レキの表情は凍り付いた。周りのアドリア達も無言のままその様子を見守っていた。


「嘘……だろ………?俺が…お前等の世界の石でそんなバケモンに………?」


そう言葉を取り戻すレキに対し、コルは極めて真剣な眼差しで告げる。


「残念ながら事実よ」


するとレキは信じられないとばかりにこう反論した。


「ふざけんじゃねぇよ!一体俺が何時D結晶でそんなバケモンになったってんだよ!?確か哺乳類はD結晶に選ばれねぇ筈だろ!?それとも何か!?哺乳類でも遺伝子に鳥の因子が有りゃ選ばれるってのか!?だったら俺じゃなくたって別に良いし、それ以前に俺はお前等の世界に行った時だってそんなD結晶やE鉱石になんか触れちゃいねぇ!なのに俺がお前等の世界のバケモンになるなんざ可笑しいじゃねぇか!?仮に百歩譲って触れたとして、俺が何時何処でんな石に触れたってんだよ!?」


感情に任せてそう一気に捲くし立てるレキに対し、コルは無言でレキの手に握られたレックスカリバーの宝石を指差した。宝石は窓から差す陽の光を受け、朝日色の輝きを放っていた。

その宝石を目の当たりにした時、何と他のCWSの面子は口を開けて唖然となったではないか。中には神や王の様な、己の生殺与奪を握る存在の前に引き立てられたかの様に、恐怖に身震いする者まで出る始末である。


「おい、その剣の宝石はまさか……!?」

「伝説でしか聞いた事無ぇが、まさか実在したってのか……!?」

「レキはそんなとんでもない物に選ばれたホモ・サピエンスだったのかよ……!!」

「こんな猿が…!?有り得ないでしょ!?」


恐ろしい物を見る様な驚愕と畏怖の声音でアドリアやマルク、レグランやチェンはなけなしの言葉を振り絞る。レックスカリバーの宝石は、どうやら極めて稀少で伝説とされる程のD結晶或いはE鉱石らしい………。


「は……?マジかよ………まさかこの剣のこの宝石って………D結晶だったのか?じ、じゃあ俺は2年前からこの石で…………」


そう言えばこの剣を手に入れてから、ずっとレキは疲れと言う物を感じた事が無かった。本来D-Driveは慣れない使用者に物凄い負荷と疲労を齎すと聞いていたが、初めて鳥になった時に全く疲れなかったのは、レキ自身がこのD結晶で人ならざる者になった為なのか?いや、それだったら元々D結晶に適合した存在であるコル達だって疲れない筈で、自分が特別疲れなかった説明にはならない。と言う事は、このD結晶は選ばれた者にしか(・・・・・・・・)適合しない(・・・・・)特別なそれ(・・・・・)と言う事になる。そんな物に選ばれた自分なら、英雄の素質を持ってると言われれば納得せざるを得ないのだろうか?

彼等の神であるアウロラの声を聴き、この剣やそれについた宝石に選ばれてDNA、延いては遺伝子的に人ならざる者に変貌した―――――こうした諸々の点から考えると、認めたくはないがやはり自分は彼等にとっての英雄足り得る存在と言う事になる。少なくとも、既に自分が並の人間では無くなっている事だけは否定し様の無い事実だ。

落ち着いて深呼吸すると、レキは改めてコルと向き合う。そして先程彼女が事実として告げた情報の数々をより詳しく知るべく、更なる質問を投げ掛けようとする。


「取り敢えずコル、このD結晶は何なんだ?アドリア達も凄ぇ驚いてるが、そんなにヤバいモンなのか?」

「ヤバいなんて次元じゃない。とんでもない代物よ。先ず第一に、そもそもこれはD結晶じゃないわ。極めて稀少なE鉱石なの。これの魔法適性を得た者は、2億6000(・・・・・・)万年の(・・・)歴史の中で(・・・・・)後にも先にも(・・・・・・)1体だけ(・・・・)って言われてるわ――――」

「じゃ一体こいつは何のE鉱石なんだ?俺と同じくこの石に選ばれた奴ってのは?ついでにお前、“私達の世界を救う英雄”っつってたが、それも一体どう言う事なんだよ?」


石に選ばれた相手は大体見当が付くが、それ以上にレキが疑問を抱いたのは、先程コルが口にした“世界を救う”と言う言葉だ。彼女達の世界は何か危機に瀕していると言うのか?


「……そうね。先ずこのE鉱石についてだけど―――――」


コルが説明しようとしたその時だった。突如アパートの外からけたたましいまでのサイレンの音が鳴り響く。サイレンの音と共に、人々の騒ぐ声まで聞こえて来た。


「むっ、何だ?外が騒がしいぞ?」


アドリア達が何事かと思ってレキのアパートの窓を開けた次の瞬間、彼女達は鋭い眼差しで窓の外に広がる光景を睨み付けた。


「一体どうしたんだよお前等?窓の外に一体何が―――――って何じゃありゃ……!?」


一緒にレキが窓の外を覗くと、余りに信じられない物がレキの視界に飛び込んで来た。

何と、自分のアパートから遠く離れた場所で人間より巨大な黒いアゲハチョウが3匹、市街地を飛び回りながら街を破壊しているでは無いか。羽を強く羽ばたると、3匹はそれぞれ猛毒の瘴気や極寒の冷気、流星群の如き灼熱の火球を街へと撒き散らして行く。

街は当然ながら恐怖に駆られて逃げ回る人々でパニックに陥り、既に死傷者まで出ている。まさに地獄絵図と呼んでも過言では無い惨状がレキの視界に広がっていた。アパートの近くにも、避難して来たと見られる人々が息せき切って走る姿が少なからず見受けられ、事件の生々しさを如実に物語っている。


「何だよあれ?黒くてデカい蝶みてぇだけど……」


至極真っ当な疑問を浮かべるレキの横で、他のオルニス族達は驚きつつも鋭い眼光で眼前の蝶を睨み付けていた。


「パルナシウス…!?まさかこの世界に………!?」

「嘘でしょ?私達の世界だけじゃなく、こっちにまで出て来るなんて……!!」


フェサとカサリアがそう呟くと、事情を知らないレキが尋ねる。


「お前等、あのバケモンについて知ってんのか?」


するとレグランが険しい声音で応える。


「知ってるも何も、あいつ等はパルナシウスっつって、オイラの世界に大昔からちょくちょく出て来る悪魔だよ!」

「パルナシウス!?悪魔!?」


レグランの説明を受け、レキは先程コルが見せた画像を即座に思い出す。彼女が見せた大昔の英雄スーリャの絵は、彼等が空から来る黒い蝶の大群と戦っている構図だったが、遠くで暴れている黒い蝶達はまさしく絵のそれと酷似していたのだ。


「そうよ……あんたをこっちの世界に送り帰した後、私達はあいつ等と戦ってたの。ついでに3日前に急用が出来てあんたのとこに直ぐ来れなかったのも、私達の世界であいつ等が発生してその殲滅任務に当たってたからよ!」

「成る程、そう言う事だったのか……」


3日前にこっちに来て電話した時、急に用事が出来て来れなくなったのはレキも知っていたが、まさかあの化け物がコル達の世界に現れていたからと言うのなら納得だった。

だが、それと同時に何やら名状し難い恐怖が自身の中に込み上げて来るのをレキは感じていた。


(けど、こいつ等の世界のバケモンが何で俺の世界に……?つーか英雄がどーたらこーたら言ってたがこいつ等、俺にこれからあんなのと戦えってのかよ………!?)


自分が神に選ばれ、コル達の世界を救う英雄と言うなら、必然的にレキはあんな化け物とこれから戦う事になり、レックスカリバーもその為の武器。状況証拠だが、流れ的にそうした運命がこれから自分を待ち構えている可能性は極めて高い。

すると次の瞬間、アドリアが窓に足を掛けて飛び出す姿勢に入る。気付けば他のCWSのメンバーもその後ろで順番待ちをしている。


「えっ、アドリア?お前、何を…」

「レキ、お前は此処に居ろ。奴等は私達が何とかする!」


周りのオルニス族を見ても、彼等があの化け物達とこれから戦おうとしているのは明らかだった。


「待てよ!だったら俺も…」

「てめぇは来るんじゃねぇよ!戦う力も無ぇ足手纏いが!」

「うっ……!!」


強い語気でマルクが発した言葉の前に、レキは押し黙る事しか出来なかった。残念だが、今のレキは戦う力も技術も持たない只の一般人なのだ。戦場に出しゃばった所で何も出来ない処か、彼等の足手纏いにしかならない。


「神様に選ばれた英雄って言っても、今の君はヒヨコ処か生まれる前の胚も同然なんだから大人しくしてなよ雑魚」

「くっ、五月蠅ぇよ。悪かったな……!」


チェンからも同じ事を言われ、レキは悔しさで一段と顔を歪ませる。こんなムカつく相手にまで、守られる者としての弱さを指摘されるのは甚だ不本意で屈辱で業腹だが、今のレキには何も言い返せない。言われたくないムカつく相手に指摘される程の弱さに、レキは強く歯噛みするばかりだった。

そんなレキを励ますかの様にレグランとラククが言う。


「心配しなくても、オイラ達は何度もあいつ等と戦って来たんだ。サクッと倒して直ぐ戻って来るよ!」

「君の所にあいつ等を来させないから、安心して待ってて」


ラククがそう言い終わると同時に、アドリア達は窓から一斉に飛び出し、パルナシウスの元へ向かって行く。レキは窓からそんなCWS10名の後姿を遠くから見守っていた―――――。


(糞ッ…何だよこの想いは?俺はそもそも一般人で、英雄ってのにも何の興味も無ぇけど、だからって何も出来ねぇで守って貰ってるだけ、見てるだけなんて、そんなの………!)



一方、3匹のパルナシウスは尚も街で破壊の限りを尽くしていた。駆け付けた警察は返り討ちに遭って全滅し、破壊されたパトカーの無残な姿が其処には有った。そしてその様子を、上空からピエロ姿の妖しい女性がほくそ笑みながら傍観する。


「ウフフフフッ!ワタシのメラノククリから生まれたパルナシウス達、良い感じに壊しまくってるわねぇ♪」


どうやら、この蝶達は先程この女性が落とした黒い繭から誕生した物らしい。因みにメラノ(Melano)はギリシャ語で「黒」、ククリ(kukuri)は「繭」を意味する。

この女が何者で、一体何を目的にこんな破壊活動を行っているかは定かでは無いが、明らかに人間では無い存在で、世界に対する明確な悪意からの破壊なのは確かだった。

すると其処へ風の刃や雷、火炎弾や水球、レーザー光線や冷凍波と言った攻撃が飛んで来て彼等に直撃する。

思わぬダメージに負傷し、よろめくパルナシウスの視界に入って来たのは、この世界に本来いない筈の鳥人達が飛んで来る姿だった。


「あれれ?あれあれぇ?見た事無い変な奴等が飛んで来ちゃったわねぇ…」


女性が目を丸くしてアドリア達を見遣る中、CWSはパルナシウスの掃討に乗り出す。


「行くわよ、ストラ!」

「任っかせてカサリア!クエェェ―――――――ッ!!!」


先陣を切ってカサリアとストラがジャンプキックで炎を撒き散らすパルナシウスを蹴飛ばすと、氷のパルナシウスをフェサとマルクとアドリアが、毒のパルナシウスをチェンとコルとラククが相手取る。そしてファロマは、離れた場所から魔力を込めた羽根を飛ばして援護射撃に徹していた。


「先ずはその邪魔な翅からだな……ギュオアァァァァァッ!!!」


そう言うとマルクは勢い良く飛翔し、上空からマッハを超えるスピードで腕の翼を叩き付ける。元々マルクは炎の魔法適性を持っていた為、この時既に彼の腕は炎の翼となっていたが、空気との摩擦熱によって炎は更に激しく燃え上がり、上空から落下する際のスピードの加重で威力を増強。速くて重い灼熱の力により、氷のパルナシウスの片翅を跡形も無く焼失させた。


「次はこっちの番だな!フェサ、仕上げは任せたぞ!」

「了解だ、アドリア!」


氷を撒き散らすパルナシウスが片翅を失い、然も火達磨となって墜落しかけた所へ、アドリアは翼の羽ばたきで勢い良く大竜巻を発生させて相手をその中へ閉じ込めた。そして竜巻の中でミキサーの様に揺さ振られるパルナシウス目掛け、フェサは力強く大地を蹴って勢い良く飛翔。自身の魔力でメタル化させたその鋭い嘴で身体を貫くと、氷のパルナシウスは黒い粒子となって消滅した。

続く炎のパルナシウスだが、カサリアとストラが蹴飛ばして地面へ叩き付けられて尚、態勢を整えて再び飛翔しようとしていた。


「飛ばせるかよ!コケケケケケケケケケケケケェェェ――――――――――――ッ!!!」


だが、其処へ追い討ちとばかりに走って来たレグランが怒涛のラッシュを浴びせて追い討ちを掛ける。その重い一撃一撃は、パルナシウスは身体の各部位を容赦無く破壊して行く。


「コケェェェ―――――――――ッッ!!止めだァッ!!!」


やがて思いっ切り空高くジャンプすると、レグランは心臓部の有る尾部目掛けて渾身の錐揉みキックを叩き込む。それと同時に、炎を撒き散らすパルナシウスも完全に消滅し、残りは毒のパルナシウスのみとなった。



(凄ぇ……3匹いた蝶の内、もう2匹も恐竜の姿にならねぇで倒しちまいやがった………)


この戦いの様子を遠くのアパートから眺めていたレキは、改めてCWSの実力の高さに感服するばかりであった。

だが観戦している間、レキは気付かなかった。彼の手元のレックスカリバーが淡い光を放っていた事を―――――。



「さぁ、後はこいつだけね!」


残る1体である毒を撒き散らすパルナシウスと対峙するコル達は、毒の瘴気を撒き散らす相手の羽ばたきを飛翔して空へ逃れる事で回避。飛べないラククは結界を張って身を護る。


「これでも喰らえッ!」


チェンが空から自身の羽根を投げ付けると、羽根はパルナシウスの身体に刺さって爆発。負けじとパルナシウスは口吻を鋭く伸ばして串刺しにしようとするが、素早くコルとチェンは左右へ逃げて回避。其処へ間髪入れずにファロマが雷と炎と氷の羽根を投げ付け、更に追い討ちを掛ける。


「次は私の番よ!!カアァァァァ―――――――――ッッッ!!!」


そう叫ぶなり、コルは物凄いスピードで縦横無尽に飛び回りながらパルナシウスを手に装備したレーザークローで切り刻み、渾身のキックで頭部を蹴り上げる。足には鳥のそれに合わせた形状のアーマーブーツを履いている為、手の爪と同様にパルナシウスの毒を受けない。

そしてその衝撃によってパルナシウスが上空にかち上げられるのを確認すると、ラククは勢い良くジャンプ。直前に特殊合金のアーマーで覆った自身の嘴を弾丸の様に突き出し、そのまま相手のドタマを粉砕。遂に最後の1体も消滅した。



「あ~あッ!折角のパルナシウスが全滅させられちゃった……!」


自身の生み出したパルナシウス達が全滅させられる一部始終を見届けたピエロ姿の妖女は、さも不機嫌そうに遠くからアドリア達を睥睨していた。


「てかあいつ等、確か大昔にもワタシ達の事邪魔してた蜥蜴達の仲間だったっけ…時空を超えてこんなとこにまで居るなんて思わなかったけど……ま、良っか今度潰せば!それに、向こうじゃジャルダも(・・・・・)きっと(・・・)目覚めてる(・・・・・)だろうしね♪」


嘗て自分達を退けたのと同じ連中に時空を超えて邪魔をされる……そんな因縁を感じながら、女は黒い蝶の群れとなって退散する。アドリア達が彼女の存在に気付かなかったのが、当人にとって幸いであった事は言うまでも無い。



「フゥ……これにて殲滅、完了!」


アドリアがパルナシウスの殲滅を宣言した時だった。


「皆、もう終わったのか?」


そう言ってレキがレックスカリバーを片手に駆け付けて来る。


「流石は最強の部隊ってとこだな。この前ドラゴン倒した時、アドリア達は恐竜の姿になってたが、それにならねぇで全滅させちまうなんてよ。今回もてっきり竜化すると思ったのに大したモンだ……」


自分が初めて惑星アウロラに連れて来られた時、襲って来たドラゴンをアドリア達5名は恐竜人の姿になって見事に仕留めた。だが、今回のパルナシウス達に限って言えば、彼等は誰1人として竜化する事無く3体とも倒している。改めて彼等の実力の高さを実感させられる瞬間が其処に有った。


「そりゃこんだけCWSのメンバーが揃ってれば楽勝だよ。ご先祖様の力なんて必要無いって!」

「まっ、さっさと片付けたくて竜化する時も有るけどね」

「そうかい。にしても酷ぇな、こりゃ……」


ストラとカサリアからの返答に対してそう適当に相槌を打つと、レキは改めて街の周囲を見渡した。全焼して無くなっていた家も有れば、凍ったり腐食して崩れかけている所も有る等、惨憺たる爪痕が残っていた。アドリアの起こした強風のお陰で火が消し止められ、火災の被害が拡大せずに済んだのは不幸中の幸いと言えよう。

今回の事でまた彼等の事情について分からない事が増えたレキは、改めてCWSに質問を投げ掛けんとする。


「お前等、元の世界じゃ何時もあんなのと戦ってんのか?それこそ大昔から……」

「悪いが質問は後だ。今は速やかにこの場を去らねばならない。この国の軍隊(・・・・・・)がこちらに向かって来ているからな」


だが、その言葉はアドリアによって遮られてしまう。遥か遠くを見る彼女の猛禽類特有の目は、今まさにこちらに駆け付けんとしている自衛隊のヘリや戦車隊の姿を彼方に捉えていたのだ。20分もすれば此処に到着するだろう。


「この国の軍隊って、自衛隊か?まぁ、警察でも手に負えない事態ともなりゃ当然か…」

「だったらもう直ぐ惑星アウロラに行きましょう!レキもレックスカリバーも揃ったんだし丁度良いわ」


するとコルが不意に手を上げて提案する。確かに、この場に留まっていても国に捕まって色々と面倒な事になるだけだ。幸いにもレキと竜聖剣を確保出来た訳だし、今直ぐにでも元の世界へ帰還する方が妥当だろう。

至って理に適ったコルの意見に、全員が満場一致で頷いた。


「お前等の世界に行くって、どうやってだよ?聞いた話じゃ次元門はメンテ中で未だ使えねぇって話だが、何か別な手段(・・・・・・)持ってんのか?」

「良く分かったわね。だけど此処じゃ誰に見られるか分かんないから、取り敢えず近くの建物に入ってから見せてあげる」


レキの問いに対してそう答えると、コルは一行を先導して近くのラーメン店に入る。幸い、店員も客もパルナシウスの襲来に慌てて逃げ出した為、店内はもぬけの殻だった。

最後に入店するレキが周囲に誰もいない事を確認して戸を締めると、早速コルは店の中央に立ち、奇妙な卵型の物体を取り出す。一見するとそれは、機械仕掛けの卵(・・・・・・・)と言うべき物であった。


「惑星アウロラへはこれで行くの」

「何じゃそりゃ?メカニカルな外見しちゃいるが卵か?」

「只の卵じゃないよ」


コルが取り出した機械仕掛けの物体を見て卵と思ったレキに対し、レグランは否定の言葉を投げ掛ける。だが、何も知らないレキからすれば他に形容し様が無く、ますます頭に疑問符が浮かぶばかりだった。


「只の卵じゃないって……じゃ一体何なんだよ?」

「良いから黙って見てなよ」


そうフェサから促され、レキがコルの手に乗った卵らしき物体に目を遣ると次の瞬間、卵は鳥の姿に変形。その手を離れて激しく翼を羽ばたかせた。


「おぉっ!鳥になった!」


思わぬ展開にレキが感嘆の声を上げる中、機械仕掛けの鳥は尚も翼をハチドリの如く高速で羽ばたかせる。羽ばたく度に周囲に神々しい光の粒子の様な物が発生し、やがて周囲の時空が歪んだかと思うと、目の前にワープホールらしきものが発生したでは無いか!


「凄ぇ…漫画とかで見た異世界へのゲート其の物だ……。まさかコル、お前等わざわざこれ作って2週間の時間を一気に縮めてこっちに来たのかよ?」


レキが尋ねると、コルはコクリと頷いて答える。


「そう。これは『クロノルニス』って言う携帯型の時空振動発生装置(・・・・・・・・)で、内部に組み込んだ高純度のD結晶や稀少な時属性のE鉱石の力でさっきみたく時空の歪を作り出す事で、別な場所へ時空を超えて瞬時にワープ出来るの。未だ試作段階だけど、次元門の簡易版としては充分高性能でしょ?」

「クロノルニス……“時の鳥”って意味か。そのまんまのネーミングだが、確かに良く出来てんな。まさか研究所の連中と一緒に作ったのか?」

「えぇ、本当は次元門のメンテが終わる2週間後にこっちに来る心算だったけど、あんたのDNAに有る英雄の素質を知ったら、レックスカリバーと一緒に1日も早くこっちに連れて来なきゃって思って、ニッキ達と一緒に急ピッチで完成させたの。さっきも言った通り試作品で改良の余地は未だ有るけど、3日前と今日でこうやって無事行き来出来て良かったわよ。試験運用だったけど、データもバッチリ取れたし♪」


コルの言葉にレキが「へぇ~…」と感心していると、ワープホールに歩を進めながらアドリアが言う。


「話の続きは向こうに着いてからにしろ。時間が無い。行くぞ…」


彼女から促されるまま、他のCWSのメンバーが異世界への入り口を潜って行く中、レキもコルに手を繋がれたままゲートの向こうへと入って行く。

全員が潜り終えると同時にワープホールは消滅。それと同時に店の外ではパルナシウスの出現を受け、出撃した自衛隊の戦車が走る音とヘリのローター音が響き渡った。

尚、店内にはアドリア達の羽根が残されており、後に避難先より戻って来たラーメン屋の店主からも当然ながら怪しまれた。だが、直ぐに店主は可笑しなゴミだと思ってそれ以上の疑問を持たずに捨ててしまった為、結果としてオルニス族の存在は思考放棄の一般人の愚かさによって知られずに済むのだった―――――。

来週、遂にレキは惑星アウロラへ!其処で全ての真実が明かされると同時に、レキが遂に覚醒します!



キャラクターファイル2


コル


年齢:16歳

誕生日:9月6日

身長:163cm

血液型:E型

種族:オルニス族(カラス型)

趣味:研究、遺伝子集め

好きな物:宝石


惑星アウロラの首府・ネオプテリクスが誇る特殊部隊・CWSの一員であるカラスの少女。メンバーの中では年少の部類だが身体能力は高く、それ以上に頭の回転が非常に速くて手先も器用。

遺伝子集めが趣味で、様々な生物のDNAを採取してはD-Drive技術の研究に役立てている。D結晶及びE鉱石の魔法適性は光で、光の弾やレーザー光線の他、自らを光の粒子に変えて光速で移動したりと、多彩勝つ強力な術の数々を行使出来る。

家は魔導研究所をやっており、普段は複数名の研究員達と共に寝食を共にしながら、惑星アウロラにおける民の生活から防衛の為の戦いまで、幅広い分野で魔科学の技術を開発している。

レキと出会ってから、最初は彼の事を興味深い相手と思っていたが、種族の垣根を超えて少しずつ彼に惹かれて行く様になる。

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