Act12:迎えに来た使者達
大変お待たせしました!此処から遂に物語が動き出します!
コルからの連絡を受けてから早3日、レキは何時来るとも知れない惑星アウロラからの使者の来訪を心配しつつも、何時も通りの大学生活を謳歌していた。
或る日の昼休み、何気無く図書館に足を運んでは面白い本は無いかと物色していると、偶然近くを歩いていた誰かと衝突した。
「キャッ!」
「あっ、すいませ……って、矢島さん!?」
「た、竹内君!?」
相手は小林同様、同じ学科の女子大生である矢島呉羽。将来の希望職種は学芸員であり、彼女自身も絶滅種込みで動物好き。無論、鳥類や恐竜も例に漏れない為、レキとも直ぐに親しくなった相手である。
「珍しいね。矢島さんが図書館に居るなんて…」
「あら?私だって本位読むわよ。今は新生代にハマってるわ♪」
「そ、そうなんだ……」
6500万年前の恐竜絶滅後、この地球に鳥と共に台頭した哺乳類達の時代を新生代と言う。哺乳類の繁栄こそ、その延長線上に位置する人類の歴史への大いなる一里塚となったのは言うまでも無い。
レキも恐竜程では無いにしろ、ディアトリマ等の鳥の進化と多様性と言う意味では興味のそそられる時代だったので最近勉強中である。
「竹内君って、鳥が好きなんだよね。恐竜の時代からもう居たみたいだけど、始祖鳥がそうなのかな?」
「違う違う。始祖鳥は確かに鳥っぽいけど鳥の先祖じゃないよ。まぁ、それでも恐竜が鳥へ進化する過程で生まれたプロトタイプって意味じゃ研究価値はデカいかな?」
大学の外のテラスで、何気無しに同級生の女子と言葉を交わすレキ。小林以外にも、こうやって鳥や古生物の事を語り合える仲間がいるのはレキにとって幸せな事であった。
然し、彼は気付かなかった。そんな自身の様子を、離れた場所から伺っている者達の存在を―――――。
「レキ――――こんな所にいたのね」
「あいつ、こっちの世界じゃ学生やってたのか」
「どうする、アドリア?」
「このまま拉致するのは簡単だが、それでは警察や周囲のホモ・サピエンスが動き回って余計な詮索を招く事になりかねん。あいつの住居は割れている。最寄りの駅で待ち受け、帰宅して来た所を狙って確保だ」
「うん、それが1番だね。良し、早速待ち伏せよう!マルク達にも伝えなきゃね!」
5名の何者かがそんな話し合いをしている事など知る由も無いレキはその日の講義を終えると、何時も通り帰宅の途に就く。行き付けの駅から電車に乗り、駅を6つ程過ぎた辺りで降りると、見慣れた商店街が広がっていた。
「何だよコルの奴、少ししたら来るっつってたのに全然何の音沙汰も無ぇじゃん……」
そうボヤきながら、商店街から離れた住宅街に在る自宅アパートまで帰ろうとした時だった。
「レキ――――待ってたわよ!」
果たして――――それは姿を現した。レキの眼前に立っていたのは、黒いセミロングの髪に紫の瞳をした知的感漂う端正な顔立ちをし、紫色のノースリーブのブラウスとミニスカート、茶色いショートブーツに身を包んだ女子高生位の少女だった。レキにとって決して忘れも見間違えもしないその声と姿の持ち主は、向こうの世界で人間の姿に変身して見せたカラス型の鳥人の少女――――――――コル本人であった。
「コル?お前―――――」
「私だけじゃないわ」
コルがそう言うと、彼女の周りには更に4人組の人間の男女が姿を現した。何れも初めて見る顔だが、Technical-D-Driveで人間態に変化したオルニス族であり、コルの仲間である事は直ぐに分かった。
青い軍服の様なコートに身を包み、凛々しい顔立ちに抜群のスタイルをした長身で金髪の女性。
童顔で少年のあどけなさが残る赤い髪の活発そうな少年と、青い髪にローブを纏った大人しい印象の少年。
そして緑色の髪に赤い瞳が特徴の、和服っぽい姿の青年。
これ等の人物がそれぞれ誰であるか、何と無くではある物の、第一印象からレキは分かってしまった。
「なぁ、お前以外のこの4人って、もしかしてアドリア達か?」
「あぁ、その通りだ」
レキがコルに尋ねると、真っ先に答えたのは金髪の女性=アドリアであった。凛とした雰囲気と声は人間態になっても変わらないが、印象としては軍人と言うよりは女騎士の方がしっくり来る感じにレキは思えた。「くっ、殺せ」と言うセリフとシチュエーションが似合いそうである。と言っても本人は頼まれたって絶対に言わないだろうが……。
「オイラ達も初めてホモ・サピエンスにD-Driveしてみたけど、どうかな?似合う?」
「しょ、正直僕は恥ずかしいけど、何処も変じゃないよね?」
「安心しろ。パッと見、何処も変なとこは無ぇよレグラン、ラクク!寧ろ人間としちゃその姿は好感すら持てるぜ」
「本当かい!そりゃ良かった!」
ニワトリとドードー鳥の姿の時から感情が豊かだった物の、表情の変化が少なくて取っ付きにくくかったレグランとラククだが、人間態になって感情表現が豊かになった分、自分と年恰好が近い事も有って両者に対するレキの親近感は鰻登りだ。違和感無く人間社会に溶け込めていると分かって嬉しそうにする2人の様子を、レキは微笑ましく見つめていた。
「フェサも結構似合ってるぜその人間の姿。寧ろそっちの方がイケメンじゃねーか?」
「それはホモ・サピエンスの感覚で言えばの話だろ?まぁ、外見=第一印象って等式が成り立つなら、こっちの世界でも何とか通用しそうで何よりだよ。そう言われて確信した!」
一週間と数日間振りに出会った5羽と1人はそう言葉を交わし、互いに久闊を叙す。たった1度の出会いでも、過ごした時間が1日限りでも、その間にレキとコル達との間には深い絆が育まれていた。その要因の1つとして大きいのは、レキがコル達の世界の事について恐れずに質問をし続けた点だろう。惑星アウロラと言う、全く知らない世界に投げ込まれながらも、レキは知的好奇心のままに魔法の事や世界の歴史の事等、気になった点を相手に媚びずに問い続けた。無論、向こうの事情で答えられない事も有ったが、それでも分からない事を素直に質問するその姿勢はコル達も評価していたのである。
確かに、全く知らない世界に投げ出された中、自分と意思疎通の出来る相手が居るのは当人にとっては最大の救いであり、窮地を脱するまで盲目的に媚びようとするのは弱者の性だ。レキにもその側面は有る。だが、何も考えずに相手が黒を白と言ったら白と答える様な、思考放棄の自立していない輩に、他人が魅力を感じる道理など有ろう筈が無い。少なくとも、レキから1番質問を投げ掛けられて受け答えしたコルはそんな彼の魅力を誰よりも分かっていた。自分達から見たら例え非力でも、レキは己のスタンスや考えをしっかり持って、自立して生きる強さを秘めた人間であるとコルは理解したからである。
無論、質問されて嫌な顔をする相手も中にはいるだろうが、そんな相手に好かれる必要など無い。質問されただけで己の全てを否定されたと思ってしまう様な輩は、己に自信の無い奴に他ならないからである。そんな相手とは付き合わなくて良い。先も言った通り、己のスタンスや考えをしっかりと持ち、それを分かってくれる者からのみ熱狂的に好かれれば良いのだ。
幸運にも、レキにとってコルはそんな相手足り得た。そしてそんなレキの様子を近くで見ていたアドリア達も、コル程では無いにしてもレキの事を『面白い奴』と認識し、深く心に刻んだ。そしてアドリア達もCWSに連なる猛者である以上、独立独歩=自立した者としての強さを持っている。共に自立し、互いの強さを無意識の内に認め合った者同士だったからこそ、たった1日だけの付き合いでも此処まで彼等は深く繋がれたのである。
総括しよう。相手の分からない事を臆さず媚びず質問する事―――――これが出来る者は魅力ある人間足り得る。何故ならその人物は己の意見をしっかりと持って貫き通せる、自立した相手だから。逆に自立出来ずに相手に媚びて依存する人間に、魅力なんて有る訳が無い。それはオルニス族も同様であった。
「再会の挨拶は此処まで。取り敢えずあんたの住んでる所に行きましょう。近くの公園に、他のCWSのメンバーも待機してる様に言ってるから」
「何!?他に未だ居るのか!?お前等みたいな特殊部隊所属の奴等が……」
「直ぐに会わせてあげるから楽しみに……って訳には行かないか。ムカつく奴も何鳥かいるし」
(ムカつく奴ってどんなだよ…?つーかこいつ等も色々有りそうだな)
職場にムカつく相手が居てギスギスの対人関係とは………鳥人間の社会も、悪い意味で人間のそれと変わらないだろう事をレキはこの時感じていた。
そうして自宅アパートが見えて来ると、近所の公園に5人組の男女が屯している様子が視界に飛び込んで来た。あれがコルの言ってた残りのメンバーなのだろうか?
不意に公園に居た5人の視線がこちらを向いたかと思うと、彼等は一瞬でレキ達の前に姿を現した。
「うおっ!?何だ!?」
突然の出来事にレキは驚くばかりだったが、そんな彼を横目にアドリアが5人組に話し掛ける。
「例のホモ・サピエンスを連れて来たぞ」
「ほう、こいつがタケウチレキか……」
真っ先に反応したのは黒いコートに身を包んだ二十代半ば位の青年だった。サングラスを掛けてはいるが、其処から覗く目は獲物を狙う猛禽の如き鋭さだった。
(怖ぇーよ…つーかこいつ、何型のオルニス族だ?)
黒いコートの男の事をレキがそう思っていると、次に話し掛けて来たのは青と黒のスリットドレスを思わせる服に身を包んだ二十歳前後の女性だ。手を後ろ手に組み、品定めする様にまじまじとレキを見ている。スリットから覗かせる脚はセクシーながらも筋肉が良く引き締まっており、男としては劣情を誘われずにはいられない。
「本当にこのホモ・サピエンスが私達の救世主になってくれるのかしら?とてもそうは思えないけど…」
そんな女性に同調するかの様に、ジャージにスパッツと言うスポーティーな出で立ちながら、目元に隈の出来た不健康そうな小柄の少女が言う。
「全くだね。こんな弱そうな猿が僕等の英雄だってんなら、国防軍の下っ端の雑兵の方が未だ使えるよ。使い捨てが利くなんて、流石は便利な英雄様です事♪」
「あぁ……!?」
その言葉にレキはカチンと来た。何だこの糞餓鬼?口が悪いと言うか、とんだ毒舌だ。コルの方を向くと「やれやれ」と溜め息を吐いている。彼女の言っていた“ムカつく奴”が誰か分かり、面白くはないがレキも一先ず納得した。
(そもそも俺はお前等の言う英雄だの救世主だの、んな肩書自体別に何の興味も無ぇんだよ!なのに勝手に祭り上られてこっちが迷惑だ!!つーかその英雄様の姿見て疑った挙句、ディスるなんざどーゆー了見だよ!?まーお前等としても未だ信じられねぇって気持ちが有んだろうが、だからって心外も良いとこだぜ!ふざけやがって……!!)
スリットドレスの女性と小柄な少女の態度に不快感を募らせていると、口を開いたのはシルクハットにタキシードを着たマジシャン風の青年だった。
「疑う気持ちは分かるが二鳥共!先ずは彼の自宅に有るであろう竜聖剣を確認しようじゃないか!このホモ・サピエンスが真に我等の英雄足り得るかッ!?それはその後確認してからでも遅くはないだろう!?」
芝居がかった調子でその場を仕切る青年の言葉を前に、その場に居る者達は沈黙せざるを得なかった。公園の近くを歩く通行人が奇異の目を向けながら過ぎ去って行くのに気付き、レキは1人気恥ずかしくなっていた。
「えぇ、まぁ、そうね…」
「てか此処に居る奴誰も客じゃないのに相変わらず痛いね」
何は兎も角、この場に居る全員がレキの自宅アパートに行く事で満場一致。
すると最後まで黙っていた1人である、ノースリーブの白拍子に黒くて短い袴の少女が不意にテンションを上げて叫んだ。
「良~~~ッし!そうと分かれば早速行っくよぉぉ~~~~~~ッ!!!」
「そっちじゃないでしょ馬鹿!」
咄嗟に明後日の方向に走って行こうとする少女だったが、スリットドレスの女性が咄嗟に追って首根っこを掴んで制止する。どうやらとんだ粗忽者らしいが、この2人はニコイチなのだろうかとレキは思った。
やれやれとアドリア達が溜め息を吐くと、新参者の毒舌娘と黒服男とマジシャンの3名も同様のリアクションを取る。
「何つーか、取り敢えずお前の仲間が一緒にいて飽きねぇ連中だって事だけは良っく分かったよ……」
「は?それ皮肉で言ってんの?」
「別に?言葉通りの意味だがな?」
コルとそう言葉を交わすと、レキは人間に擬態した10羽の鳥達と共に自宅アパート2階の部屋に向かうのだった。
「此処がレキが今暮らしてるとこか……」
「フクイに有るお前の家にはこの前行ったが、あそこと比べると狭いな」
「まっ、下等な猿の檻にしちゃ充分でしょ?」
フェサ、アドリア、チェンが口々にレキの住む部屋の感想を言うと、住人であるレキはこう返す。
「るっせぇな。文句有んなら出てけよ!つーか本題に入る前にてめぇ等全員、正体見せやがれ。特に公園で待ち伏せしてた5人組!」
「チッ、仕方無ぇな…。だがお前とはこれから長い付き合いになるかも知れんからな!」
レキからそう仕切られてムッとなるも、黒いコートの男達以下5名は溜め息交じりでTechnical-D-Driveを解除した。無論、アドリア達もこれに続く。
「……へぇ、それがお前等の真の姿って訳かい?」
そう言い放つレキの目に映るのは、コンドルとダチョウとヒクイドリ、そしてケツァールとピトフーイの姿の鳥人間達だった。
先ず自己紹介したのは黒いコートに身を包んだ、コンドルのオルニス族だ。
「俺の名はマルク。CWSじゃ隠密担当だ」
成る程、鳥の種類からして納得だ。然も中々に貫禄が有る―――その外見からレキはそう思った。続いて自己紹介するのは巫女服のダチョウとチャイナドレスなヒクイドリ。
「私はストラ!走るのが得意だよ!」
「同じくカサリア。格闘やらせりゃちょっとしたモンよ!」
ヒクイドリは予想外だったが、ダチョウの方はレキとしては納得だった。
(勝手に明後日の方向に走って行く辺り、走鳥類のオルニス族じゃねーかとは思ったが、やっぱアホの子はダチョウか。《ダチョウは眼より脳味噌小せーし……)
最後はマジシャン姿のケツァールとスポーティー姿のピトフーイが名乗りを上げる。
「私の名はファロマ!CWS一のマジシャンさ!」
「僕の名前はチェンだよ?猿でも覚えられる名前なんだから、忘れたら青酸カリ1リットル飲んで死んでよね?」
(ケツァールは兎も角、この糞餓鬼が毒鳥ってのは本日トップクラスの納得だぜ……!!)
初対面でいきなり毒を吐くムカつき加減からそんな予感はしてたが、相手が毒を持った鳥のオルニス族なら他の追随を許さぬ程の圧倒的納得感だ。新参者5名の中で文句無しに強い印象をチェンはレキに残していた。
チェンの言葉にカチンと来る気持ちを抑えながら、努めて平静を装いながらレキは残るCWSのメンバーを見渡して言う。
「マルク、ストラ、カサリア、ファロマ……そしてチェンの糞餓鬼か。良ぉぉ~~~っく覚えられたぜ。有難うよ」
「何?君、僕にだけ喧嘩売ってる?」
「さぁな?つーか先に仕掛けて来たのはお前って風に俺には見えるが?」
チェンとの間に険悪な空気が流れ始めるが、それを直ぐに断ち切ったのはコルだ。
「いがみ合ってる場合じゃないでしょ、あんた達!それでレキ、レックスカリバーは何処?」
コルの言葉を受け、その場の全員の視線がレキに殺到する。鳥故に表情の変化はほぼ見られない物の、最重要任務と有ってか、皆の眼差しが真剣其の物である事は良く分かる。相手への印象の良し悪しは有っても、本題に入ればそれは二の次のビジネスライク。決して公私混同しない辺りはプロフェッショナルだと、この時レキは思っていた。
「……何処ってお前等、見て分かんねーのか?窓際のベッドと机の傍に置いてあるだろ」
そう言うなり、レキは机の隣に配置されたベッドの傍に立て掛けていた剣を手に取って言う。柄頭の部分にティラノサウルスの頭蓋骨の意匠が見受けられ、刀身と鍔の部分に黒い宝玉が埋め込まれた奇妙な剣。白く色が抜け落ちた様なその剣は、6500万年以上前の地層から自身の発掘した化石と共に出土したにも拘わらず、時の浸食を受けて経年劣化した形跡が全く見られない。寧ろ新品其の物の様だ。
レキが手にした剣を前に、鳥人10名は言葉を失い、まるで石化した様にその場に呆然と立ち尽くすだけであった。
「お前等が“アウロラ様”とか呼んでる化石と一緒に出て来たんだが、これじゃなかったらもう俺は知らんぞ?」
するとコルが恐る恐るスマホ型魔導具を取り出し、中の画像データを確認すると、果たして文献に在った剣の絵と見た目や形状が一致しているのが分かった。
「ま…間違い無いわね。見た目だけなら、確かにレックスカリバーと瓜二つだわ……」
「だが問題はそれが本物かどうかだ。貸せ」
「あっ、おい…」
そう言ってマルクがレキから剣を取り上げたその時だった。
「うおッ……!!?」
剣を手にした次の瞬間、突如マルクの両腕は凄まじい重力が圧し掛かる感覚に襲われた。余りの重さに耐え切れず、マルクはその場に剣を落としてしまう。
「ハァ…ハァ……な、何だ?急に剣が重くなっただと………!?」
「剣が重くなった?何言ってんのさ?こんな猿に持てて僕等に持てない訳無いでしょ?」
「嘘だと思うならお前等も試してみろ!何故か知らんが持ち上げられねぇんだよ!!」
「本当にそうなの……?」
信じられないと言った感じの面持ちでマルク以外の9名が床に落ちたレックスカリバーと思しき剣を持ち上げようとする。だが、どう言う訳か剣は恐ろしく重く、アドリアもレグランもコルも誰も持ち上げる事が不可能であった。
「ど…どうなってるの?重過ぎて持ち上がらないよ……?」
「何故だ?レキが普通に持てた物が、何故私達に持てない……?」
「つーかこの剣、そんなに重いのかよ?」
レグランとアドリアが信じられない気持ちでそう呟くと、レキが首を傾げながら床に落ちた剣を拾い上げる。
「「「「「「「「「「!!?」」」」」」」」」」
余りにあっさりと、何の感慨もカタルシスも無く剣を拾うレキの姿に、アドリア達は驚きを隠せなかった。
1番驚いていたのが新参者のマルク達なのは言うまでも無い。
「バ、馬鹿なッ…!?俺達でも持ち上がらなかった物を……!?」
「何でこんな猿が簡単に持ち上げられるんだよ…!?」
「まさか、その剣は本物のレックスカリバーでこのホモ・サピエンスは……」
「私達の英雄……って事!?」
「もしそうならアンビリーバブル&エクセレント…!捜し物が全部同時に見つかった事になる!」
信じられない様子でマルク達がそう口々に感想を述べる中、コルは冷静にレキの持つ剣を観察していた。
(仮にあれが本物のレックスカリバーだったとして、レキに持てて私達に持てないって事は、あの剣は持ち主を選んでいるって事……?確かに只の剣じゃないのは分かるけど……)
「ッたくお前等、特殊部隊の精鋭10人掛かりで剣1本持てねぇとか情けねーぞ!」
「五月蠅い、糞猿!自分が持ててるからって調子に乗るな、戦闘力ゼロの一般人の癖に!」
レキが剣を振り回しながらチェン達をからかっているのを見つめるコル。すると、偶然窓の外から差し込む陽の光がレキの持つ剣に当たり、装飾された宝石が朝日色の輝きを放つ様子を彼女は見逃さなかった。
(えっ!?陽の光に当たった途端宝石が光った…!?まさか………まさかあれは!?)
それと同時にコルは確信した。全ての点が、1本の線で繋がるのを強く実感した。レキの中に秘められた英雄の条件――――それをコルは漸く理解したのである。
(そうか……そう言う事だったのね!!やっと全部分かった!!何で初めてD-Driveやったのに全然疲れなかったのかも………!!!)
意を決したコルは、無言でレキの前に歩み出る。
「な、何だよコル?」
鳥の姿なので表情は分からないが、その様子が極めて真剣である事は何と無く分かった。戸惑いながらもレキが尋ねると、コルは答えた。
「レキ、漸く私は確信したわ。それが本物のレックスカリバーだって事を……」
コルの言葉を受け、レキは勿論だがアドリア達も目を大きく見開く。
「何だと!?」
「では、やはりその剣は本物の竜聖剣だったのか!?」
「けど、レキしか持てないってどう言う事なんだよ!?」
「やっぱりそいつはアウロラ様に選ばれた本物の英雄で、英雄にしか持てない剣って事なのかよ!?」
レキ、アドリア、レグラン、チェンが口々にそう言う中、コルは大きく深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。
「本当は惑星アウロラに連れて行ってからにする心算だったけど、特別に今此処であんたに教えてあげる。あんたのこれからに大きく関わる真実をね!」
「お、俺のこれからに関わる真実だと……!?」
コルの言葉に、レキは動揺を隠し切れなかった。“自分自身のこれから”とは、言い換えれば己の今後の人生を大きく揺るがしかねない程の超重大な案件と言う事である。それは一歩間違えば、鳥類学者としての未来を永遠に絶たれるどころか、この世から去らねばならない事態に発展しかねないと言う事でもある訳だ。
これが同じ人間同士なら、出鱈目なスピリチュアルや占いの類と思い、信じる事無く聞き流して終わっただろうが、相手が知らない異世界から来た人ならざる存在となると、妙に説得力が有った。現に彼等は数日以内に現れると言って実際に現れた訳だし、それ以前にどうやってか知らないが一ヶ月処か一週間も時間を縮めてこの世界に来て見せたのだ。決して口だけで中身が伴わないなんて事は有り得ないだろう。
言い知れない未来への圧倒的不安と恐怖がこみ上げ、心臓が早鐘を打ち始めるのをレキは感じていた。
そんなレキの様子を他所に、コルはアドリア達の方を向いて言う。
「じゃあ皆、もうこいつに全部言うけど良いわよね?」
「―――――好きにしろ。お前が全ての責任を持つならな」
溜め息と同時にそう了承するアドリアの言葉を受け、コルは頷きつつもレキの方を向いて言う。
「レキ、この前は余所者だから教えられなかったけど、あんたがアウロラ様、そしてスーリャ様に選ばれた英雄なら話は別よ。良く聞きなさい。あんたが2年前に見つけた化石はね、只の恐竜の化石じゃないの。あの化石の竜は私達オルニス族やその祖先のサウルス族の始祖であり、神と言っても良い始まりの竜―――アウロラ様自身なの」
一方、斯様な遣り取りをレキが異世界から来た鳥人10名と行っていた時だった。
レキの住んでいる都内からそう遠くない場所の上空から、地上を見降ろす存在が有った。
「あらあら、漸く封印から目覚めて地上に出てみれば、また見た事無い世界が広がってるわね」
先端が三又に分かれた帽子を被った、ピエロを思わせる風貌の妖しい女性が地上を睥睨してそう呟く。その背中には蝶の羽根と思しき物が生えている。
「まっ、別にどーだって良っか。あの蜥蜴達の世界と一緒にこれから全~~~~~部壊してやるんだから――――――」
一見すると艶めかしい四肢に豊満な乳房、程良く括れた腰と丁度良いサイズの臀部と言う若い美女だが、その眼差しは全てをゴミと断じて見下しており、口元にも酷薄な笑みが浮かんでいた………。
そして次の瞬間、謎の女性は手から奇妙な黒い繭の様な物を3つ生成し、そのまま地上へと落とすのであった―――――。
次回、真実の一部をネタバレ&久し振りのバトルがあります。
次の次で新章に突入し、キャラクターファイルも其処から更新します。




