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D-Drive  作者: Ирвэс
プロローグ
1/14

Act0:竜の子は何時も傍に

気分転換に作った新連載です。

地球―――年齢凡そ46億歳のこの星は大きさ直径12,742 km、太陽からの距離が149,600,000 kmと言う絶妙な条件により、太陽系で唯一生命の繁栄が許された奇跡の惑星である。

その長い歴史の中で、多くの生物が誕生しては絶滅して消えて行った。無論、生き残った者達も少なからずいるが、そのままの姿で変わらず存在する事を許されたのは鮫や鰐の様な極一部の者達のみ。殆どの者は変わり続ける環境に適応し、子孫を遺す過程で姿形を変える進化を続けながら、現代までその生命のバトンを脈々と受け継いで来た。

今、この地球で繁栄を極めた種は言うまでも無くサル目ヒト科のホモ・サピエンス―――即ち人類だが、忘れてはならない。この地球には遥か2億年以上昔より既にこの地上に現れ、今も尚人類の隣で存在し続ける“もう1つの支配者”がいる事を。

そう―――恐竜である。こんな事を言ったら一般人達は信じない処か、「何を馬鹿な事を!」と鼻で笑うかも知れない。確かに地上のどの原生動物よりも遥かに大きな巨体で地上をのし歩いた彼等は、6500万年もの大昔に隕石の衝突の影響で絶滅した。そして今や、化石としてしかその存在の残り香を感じる事は出来ない。それは否定し様の無い事実だ。

だが、もう恐竜が過去に終わった存在だと思うならそれは大きな間違いである。近年の研究によって現代に生きる鳥達は、あのティラノサウルスと同じ“獣脚類”と呼ばれる二足歩行の肉食恐竜の一角である事が分かって来たのである。そう、カラスも恐竜ならニワトリも恐竜、スズメもフクロウもダチョウも皆恐竜であり、“現代の獣脚類”なのだ。


鳥とヒト―――進化の系統の掛け離れた両種族だが、実は両者は驚く程似ている所がある。寧ろ、同じ事をやっているなら鳥の方が人間より大先輩だろう。

先ず二本の足で立って歩く生活スタイルを成立させたのは、人類の前に鳥類及びその先祖の恐竜だ。然もそのキャリアだって地球に人類が誕生して数百万年しか経っていないのに対し、鳥及びその祖先の獣脚類は1億年以上も繁栄して、ヒトよりも断然長く二本足で生きて来た。そう、二本足で歩くのは人間を人間足らしめるアイデンティティなどでは断じてないのである。

次に目の良さだって鳥はヒトよりハッキリ物が良く見える上、赤と青と緑の三色の光でしか物の色を捉えられないヒトの目と違って更に紫外線まで見える。故に、よりフルカラーの世界が鳥には見える訳である。夜目が利かない?残念ながらそれはニワトリに限った話で、其処から鳥全体に広まった間違った偏見。他の鳥は程度の差こそあれ、暗くても夜目が利くのだ。今後はそんな間違った常識など捨てる事を強く推奨する。

他に道具を作るのも鳴き声=言葉による意思の疎通も、歌やダンスも全て鳥の方がヒトより早く始めている。

まぁ鳥に色々先んじられてはいる物の、ヒトはヒトで鳥の持ち得なかった文明を築き、コミュニケーション手段も鳥より進化させ、鳥以上に繁栄しているのは事実。それだけはヒトの名誉の為に付け加えておこう。


何れにせよ、我々は幸福である。知らず知らずとは言え、地上を支配していた大いなる竜の子達と同じ時を生きているのだから―――。


さて、前置きは長くなったが、改めて物語の幕を開けるとしよう。

この物語は鳥に魅入られ、其処に恐竜の面影を見る1人の青年と、化石となって忘れられた竜の遺伝子をその身に宿す、大いなる竜の子達との時空を超えた一大叙事詩である!!




「後一週間で俺も東京行きかぁ~…」


或る朝、何時もの様に起きて服を着替えながら、1人の青年がカレンダーに目を遣る。暦の上ではもう3月も下旬に差し掛かり、一週間後には4月にならんとしていた。


「レキ、さっさと朝ご飯食べちゃいなさいよ!カズチはもう食べ終わったんだから!」

「分かってるよ、お袋!今行く!」


2階に在る自室の外からそうせかす母親の言葉を受け、青年は早速台所へと向かって行く。

テーブルの上に出された米や目玉焼きを箸で突いて口へ運びつつ、青年は部屋に飾られた恐竜の化石の模型を眺めている。

ティラノサウルスの全身骨格の模型を眺める青年の目は、まるで新しい玩具でも与えられたか、プロのスターアスリートの活躍を目の当たりにした少年の様に輝いていた。


「あんたも漸く、お父さんと同じ道を歩む時が来たのね―――」

「あぁ、ガキの頃からそう決めたたしな」

「でも意外ね。まさか鳥の研究者になりたいって言い出すなんて。てっきりあの人と同じ古生物学者になると思ってたから」

「鳥は現代に生き残った恐竜其の物なんだ。それを知るって事は、逆説的に恐竜を知る事に繋がるだろ?それでなくても俺は鳥が好きだから良いんだよ」


食べ終わった食器を運びながら、青年は母親にそう返す。

少し遅れたが、青年についてこの場を借りて説明させて貰おう。

青年の名は竹内歴(たけうちれき)と言い、通称は“レキ”。恐竜王国と名高い福井県勝山市出身で、今年高校を卒業して大学進学の為に上京する18歳だが、数ヶ月後には19歳になる。

家族構成は父、母、弟で、その内父が恐竜を研究する古生物学者。そしてそんな父の姿を見て自分も恐竜を研究する学者になろうと考えたのだが、彼はどう言う訳か鳥類学者になる道を選んでいる。無論、レキもまた恐竜が好きでその魅力に取り憑かれた人間の1人である事は言うまでも無い。

当然ながら進学先もそうした生物関係の学部、学科の有る東京の大学で、来年の4月に上京が決定していると言う訳だ。因みに一人暮らしの為のアパートは既に決めてあり、荷物一式も搬入済みなので、後は来週其処へ移り住むだけである。


「じゃ、俺出掛けて来る!」

「また恐博?」

「あぁ、上京する前にもう1度だけ見ておきたいからさ!」

「もしかして、あの化石(・・・・)を?」


母の言葉に無言で頷くと、レキは早速自転車に乗って街へと繰り出す。目指すは『恐竜王国』と呼ばれる福井県の目玉にして地元の象徴(ランドマーク)―――そう、“福井恐竜博物館”だ。

1984年に福井市に建てられ、その後2000年に勝山市に移管されたこの施設には同年にフクイラプトルを始め、数種類の地元で発掘された新種の恐竜の化石が展示されている。

恐竜好きのレキにとっては聖地と言っても過言では無い場所で、年間フリーパスも持っている程の常連だったが、彼にとってはそれ以上の場所となっていたのである。


「そうよね。あの子にとって、あの化石は夢への一里塚みたいな物だからね……」


一方、博物館へ向かうレキを想いながら、レキの母は居間に足を運ぶと、壁に掛けられた額縁に目を向けていた。額縁に入っていたのは写真や絵画等ではなく、新聞記事の一面だった。

それは2年前に地元の福井新聞の一面トップを飾った記事で、『高校生が新種の化石を発見!!』と書かれた大々的な見出しと共に、人間と同等のサイズの原始的な獣脚類の亡骸が塗り込められた岩盤と共に居並ぶ、当時まだ高校2年生だったレキの写真が掲載されていた。

原始的な獣脚類と言ったら全ての恐竜の共通の祖先とされるエオドロマエウスが有名だが、それでも人間より小さい。それなのに、この化石はそんなエオドロマエウスの特徴を残しつつも人間と等身大の大きさをしており、然も保存状態が極めて良好な状態で発見されたのだ。

時代的には地層から判断して非鳥類型恐竜が絶滅した白亜紀後期の化石らしいが、そんな時代にこんな原始的な獣脚類が日本に存在していたとなれば、それはこれまでの恐竜研究を覆し得る大発見であろう。当然、レキはこの化石の発見によって一躍時の人となった。

レキが発見した化石はその後、地元の福井恐竜博物館に寄贈されて重要な研究資料となったが、同時にそれが恐竜好きな彼にとって大いなる原点となったのは言うまでも無い。この一件で博物館の館長とも顔馴染みとなり、父が恐竜研究の第一人者である事もあって良くして貰っている。


「あの子ももう大学生で、もう直ぐ大人の仲間入り…時が経つのも早い物ね………」


嬉しさと寂しさの入り混じった遠い眼差しで空を眺めると、レキの母はテレビの電源を押した。すると、何時も見ているニュース番組で信じられない報道がなされていた。


「え………!?」


その頃、福井恐竜博物館に辿り着いたレキの目に飛び込んで来たのは、多くの野次馬の集まりだった。どう言う訳か周辺には警察やマスコミまで屯している。


「何だ、あの人だかりは?」


自転車を近くの駐輪場に停めると、レキは早速近くにいた博物館の職員に話し掛ける。


「あの、一体何が有ったんですか?」


すると職員は答える。


「おぉ、竹内靂君じゃないか!遅ればせながら大学合格おめでとう」

「そんな事は今は良いですよ!それより、この人だかりどうしたんですか?何で警察まで―――」


博物館の職員とレキは親しげに言葉を交わしているが、彼は先述通り新種の化石の発見者と言う事で地元でもちょっとした有名人なのだ。加えて博物館の常連である為、館長以外の職員達とも顔馴染みで親しい間柄の者も少なくない。

知り合いのよしみで事情を訊く心算のレキだったが、職員が彼の名前を口にした次の瞬間、突然周囲の視線が自身に殺到した事に気付く。


「おいおい、本人来ちゃったよ……」

「もしかして何にも知らないで来た訳?」

「どっちにしたって可哀想だよな……」


不意に大勢の衆目に晒されたのを受け、レキはまるで何か自分が後ろめたい事でもしたかの様な気分に襲われた。


(何だよ、この気不味い空気?まるで俺が何か犯罪でもやらかしたみてぇじゃねぇか―――――)


自分が何やらのっぴきならない状況に立たされた事を直ぐ様理解するレキの前に、博物館の館長が歩み出て言う。


「レキ君か。何時も博物館に遊びに来てくれて有難う。それと2年前に新種の恐竜を見つけてくれた事にも感謝しているよ」

「そ、そうですか……」

「だがねレキ君、大変言い辛いのだが君に悪いニュースが有るんだ」

「悪いニュース?」

「あぁ。良いかい?落ち着いて聞くんだ」


そう言うと館長は、申し訳無さそうな顔でレキに告げた。


「君が2年前に発見した例の化石なのだが――――――」


館長が次の瞬間に放った言葉は、レキの思考を停止させる処か、胸に穴が開く程の喪失感を齎す事となる。



「今朝、何者かに盗まれてしまったんだよ」


キャラクターファイル1


竹内歴(たけうちれき)


年齢:18歳(後に19歳)

誕生日:8月12日

身長:176cm

血液型:A型

種族:人間

趣味:バードウォッチング

好きな物:恐竜(特に獣脚類)


本作の主人公。将来は鳥類学者になりたいと考えている。

正義感が強く、知的好奇心の強い性格で、目の前の事に夢中になると後先考えずに突っ走ってしまう癖の持ち主。

小さい頃から恐竜が好きで、福井恐竜博物館の常連になる程。鳥類学者を志したのも、「鳥が現代に生きる恐竜其の物である」と父から教えられたのが切っ掛けで、大好きな恐竜を知る為に鳥の視点からアプローチしようと言う変化球の考えからであった。

父が古生物学者で何時も海外を飛び回って留守と言う事もあり、福井では母親と弟の3人暮らし。その事もあってか、家事全般は無難にこなせる上に料理のスキルは抜群に高く、取り分けエスニック系の腕は折り紙付き。学者志望だけあって頭の回転も相応に速い上に身体能力も高く、取り分け腕力と嗅覚に関しては常人離れしている。

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