第2話 可愛い双子のホムンクルスのパパになりました
あらためて双子のホムンクルスを見る。
一人は金髪でクセ毛の強い碧眼の少女で、もう一人は銀髪ロングの灼眼の少女だ。二人とも身長は低めで、歳は10歳にも満たないと思う。
「君たちはホムンクルス……でいいんだよね?」
俺が話しかけると、金髪少女がこくりとうなずく。
「そだよ。あたしたちは双子のホムンクルス。あたしが姉で、この子が妹なの」
「しゃべれるんだ……!」
素晴らしい……コミュニケーション能力だけでなく、知能もある。過去に読んだ文献のとおりだ。
ひょっとして、俺ってとんでもないことをしちゃったのでは?
「もしかして、あなたがあたしたちのパパ?」
「へっ? パ、パパ?」
「うん。あたしたちの生みの親なんでしょ?」
まぁたしかに生みの親だけど、パパとはちょっと違う気がする。
でも……なんかいいな、こういうの。
こうやって無邪気な子どもと話していると、寂しさが紛れる。
和んでいると、金髪少女がニコッと笑う。
「えへへ。優しそうなパパでうれしいな」
「あ、うん。まぁパパっていうか、俺は錬金術士で……」
「これから毎日あそぼうね! パパ、だーいすきっ」
ズキューン!
可愛い笑顔にハートが撃ち抜かれた。
なんだ、この尊い気持ちは。娘を持つ父親ってこんな気持ちで満たされているのか? なんだそれ最高じゃないか。
「パパ。生んでくれてありがとう」
続いて銀髪の少女が礼を言った。
この子は金髪の少女と比べて、表情の変化が少ない。声も抑揚がなく、落ち着いている。
「どういたしまして。そういえば、君たちは名前があるの?」
「ない。だから、パパに私たちの名前つけてほしい」
「名前か……」
こんなに可愛らしい少女たちなんだ。
彼女たちに相応しい名前をつけてあげなきゃ。
「それじゃあ、金髪の君はエヴァ、銀髪の君はノラだ。どうかな?」
名づけると、ノラは自分の名前を何度も愛おしそうにつぶやいた。
「ノラ……ノラ……パパから貰った大切な名前。大事にする」
「あはは。気に入ってもらえて何よりだよ」
「……ふふっ。パパとお話していると、お胸がぽかぽかする。パパ、だいすき」
ズキュン! ズキューン!
再びハートが撃ち抜かれた。
こっ、この子も可愛い……おもわずぎゅっと抱きしめたくなるような、素朴な可愛さがある。
俺決めた。この子たちのパパになるわ。
ノラの微笑みに萌え落とされていると、エヴァがぷくーっと頬をふくらませた。
「あー! ずるいよ、ノラ! あたしのほうがパパ好きだもん!」
「何言ってるの。私のほうが、パパ好き」
「だーめー! あたしのほうがお姉ちゃんなんだからね!」
「それ関係ない。こういうのは気持ちの問題」
「なにさぁー!」
「なにおう」
きゃんきゃん喚くエヴァと、冷静に切り返すノラ。
なんとなく、二人の性格と関係性が見えた気がする。
「ノラのあほ! パパはあたしのものなんだからねっ!」
むぎゅ。
エヴァは俺の右腕に抱きついた。
「エヴァずるい。パパは私のもの」
むぎゅっ。
今度はノラが俺の左腕に抱きついた。
「あぁー! 離れてよ、ノラ!」
「エヴァが離れて。そこ邪魔」
二人は睨み合い、どちらがよりパパのことが好きかで揉め始めた。
いい……可愛い娘たちに慕われるパパとかいうジョブ、幸せすぎる。
勇者パーティー追放されて本当によかった。ありがとな、スリラ! おかげさまで、俺はパパになったよ!
だが、いつまでもケンカさせておくわけにはいかない。
俺はケンカの仲裁に入った。
「エヴァ、ノラ。二人とも、ありがとな。俺も二人のこと大好きだよ」
「ねぇ! パパはあたしとノラ、どっちが好き!?」
「どっちも好きすぎて決められないよ。だから……二人にはずっとパパのそばにいてほしいな。それがパパの幸せだよ」
「パパ……うん、わかった! ノラ、仲直りしよ?」
「うん。パパのためなら仕方ない」
二人は笑顔で仲直りした。
なるほど。ノラよりも幼そうに見えるエヴァだが、やっぱりお姉ちゃんなんだな。見た目よりも、ずっとしっかり者だ。
姉妹のやり取りを微笑ましく見ていると、アトリエの扉がガチャっと開いた。
家に入ってきたのは近所に住む古い友人だった。名前をマルコという。俺の数少ない知り合いの一人だ。
「おーい、フリック! お前帰ってきたんだって? だったら、俺んとこに顔出しに……」
マルコは俺を見て固まった。
「マルコ! ひさしぶりだな。どうした? 感動の再会で感極まっちゃったか?」
「いや……何してんのお前」
マルコに指摘されてハッとする。
しっ……しまったぁぁぁぁ!
裸の幼女二人を侍らせているこの状況!
絶対に勘違いされてるよねぇぇぇ!?
「待ってくれ、マルコ! これには深い理由があって……」
「あ、うん。いいよ、言わなくても……今は多様性を尊重する時代だ。お前の性癖がアレでも俺はお前を受け入れるよ」
「違うよ!? 俺はロリコンじゃない! この子たちは娘で、俺はパパだ!」
「パパ……お前、まさかその子たちを金で一晩買ったのか!?」
「パパ活みたいに言わないでくんない!?」
ド変態ロリコン鬼畜パパ野郎だと思われたかもしれない。死にたい。
「かばいきれないな……じゃあ俺帰るわ!」
「待て、マルコ! 話を聞いてくれ――」
ばたん。
マルコはドアを閉めて出ていった。
「ううっ……なんで帰国初日にこんなことに……」
「パパ泣いてるの? 元気だして!」
「ふぁいと、おー」
俺が泣いていると、エヴァとノラが頭をなでなでしてくれた。
「ありがとね……ぐすん」
こうして俺の幸せなアトリエ生活はスタートした。
……近所に「変態になったフリックが勇者パーティーを追放されて帰ってきた」と誤報が広まったのは、また別のお話。