運命
今回は悲しい回になります。
沈みかけの太陽の下。
蝉達の大合唱の中、駅のホームで電車を待つ、小学1年の少年、神谷 麗音とその父、神谷 聖也。
プルルルルルル
『2番乗り場に、19時05分発、玉田行き普通列車が参ります。黄色い線の内側にて、ご注意ください。』
プルルルルルル、プシュー
「麗音、列車来たぞ。」
「れっしゃだ!わーい!」
2人は電車に乗りこむ。
走り始めた電車。
流れ行く山々と田んぼ。
「せーんろはつづくーよ!どーこまーでーもー」
「ハハッ。麗音は歌が大好きだなぁ。そんなに楽しみか?花火。」
「うん!とってもたのしみ!」
「あのな。今から見にいく花火大会は、10001発も花火が上がるけんな。すごいだろ。」
「いちまんいっぱつ?すごい!すごい!いっぱいだね!」
方言なまりの口調で問いかける父に、応じる麗音。
「よし、もう直ぐ着くぞ」
今、電車は鉄橋を渡っている。
そこから眺める河川敷ではもう既に花火大会で賑わう人達が沢山いた。
ピンポン
『まもなく、玉田です。開くドアにご注意ください。』
プシュー
ドアが開き皆一斉に電車を降りる。
「やっぱり花火大会だと人が多いなぁ」
そういいながら人の流れに身を任せて河川敷へと向かった。
花火が始まり、軽快な音楽に合わせて幾重にも咲く大輪に、皆空を見上げる。
ドーン、、パラパラ
ドーン、ドーン、ドーン
パラパラパラパラパラパラ
「キャハハ!すごい!すごい!すっごくきれい!」
麗音もその美しさに興奮する。
「あぁ、綺麗だ……。」
父親も感嘆の声を上げる。
「おかあさんにもみえてるかなぁ?」
「あぁ、そうだと良いな……。」
そう、麗音は2年前に母親を病で無くしている。
当時は悲しみに明け暮れる日々であったが、ようやく乗り越えて来たところだった。
ーーーーお空から見守ってくれてるお母さんが、安心できるように、二人で笑顔で暮らしていこうーーーー
二人はそう決めたのであった。
花火が終わり皆帰路へ着く。
信号が赤から青へ変わる。
「おとうさん!はやくはやく!」
そう言って駆け出す麗音。
だが、
キキーーーーーーー!!!!
ドシャッ!
普段は耳にしない特大のブレーキ音。
金属と肉がぶつかる不快音。
父の目の前で自分の息子に物凄いスピードで車がぶつかった。
「きゃぁぁぁぁぁ!!!」
「子供が引かれたぞ!」
「早く!救急車!」
「あと警察にもだ!早く!」
周りの人達も、騒然とする。
「麗音!麗音!嘘だろ!死なないでくれよ!麗音!」
突然の悲劇に嘆く父親。
救急車は到着し、血まみれの少年と、その父は病院へと運ばれた。
結果的に麗音は無事だった。
ただ、
「脊椎損傷による、下半身不随。彼が再び歩くことが出来る事は難しいでしょう。」
「なぁ………。」
絶句する父親。
「何で!何で、お前だけ、、、こんな、辛い目に、、、」
息子のベットにしがみついて涙を流す父。
幼くして母親を亡くし、また幼くして下半身不随。
その悲痛な運命を父は恨んだ。
「ねぇ、おとうさん?なかないで?」
「麗音……。」
「ぼくは、だいじょうぶだから。」
そうやって笑みを浮かべる麗音。
「歩けない、、んだ、ぞ?」
「うん。でも、ぼくはいきてるでしょ?だから、だいじょうぶ。」
それに、と麗音は続ける。
「ないてると、おかあさんが、しんぱいしちゃうよ?」
「あぁ、そうだな……。」
決して、悲しみが消えたわけじゃない。ただ、麗音のその言葉は父の心を少しだけ、軽くするのだった。
面会時間が終わり、暗くなった病院。
月明かりだけが淡く差し込む病室で、麗音は1人泣いていた。
父親の前では強がってみせたが、彼はまだ小学1年生。
下半身が動かないと言う現実を、そう簡単に受け止める事など出来るはずもない。
だが、彼は、溢れ出す涙を必死で止めようとする。
「う、えを、、む、、いて、あ、、、るこう、、よ。な、み、だが、、こぼれ、な、い、、よう、、に、、、、」
すすり泣き交じりに歌う、その姿は、あまりにも痛々しく、切ないものであった。
麗音は歌い、泣きながら、手を月に掲げ思ってしまうのだった。
私が両手を広げても
お空はちっとも飛べないが
飛べる小鳥は私のように
地べたを速くは走れない
ねぇ神様、走ることすら出来ない僕に、
生きる意味はありますか?