とある女性会社員と主婦の邂逅
登場人物
女2(会社員)
女1(主婦)
明転
深夜の6階建ての雑居ビル
その屋上に2人の女
女1は転落防止の柵を乗り越えようとしている
女2が買い物袋を片手に駆け込んでくる
女2「あの!!」
女2、勢いづいて袋の中の品物をぶちまけてしまう
女1はそれを見るとのっそりと戻ってきて、落ちた物を拾う
女2「あ、あぁ」
女1「……」
黙々と袋の中身を集め終わる
女1「では」
女1がまた柵を乗り越えようとする
女2「ちょ、ちょっと!」
女1「……はい」
女2「いや、これあなたのですよね?」
女1「あぁ……どうぞ」
女2「え!?」
女1「あげます」
女2「いや、あげますって言われても」
女1「いらないなら捨ててください」
女2「え、ちょ」
女1「いいですか?」
女2「そ、その下!」
女1「?」
女2「その下、喫茶店なんです!夫婦がやってる……」
女1「そんな顔も知らない方の話をされても……」
女2「あ……」
女1「では」
女1が柵を乗り越え、飛び降りようとする
女2が女1の服を掴み引き止める
女2「迷惑です」
女1「だから……」
女2「私がです。荷物押し付けられて、しかも目の前でわけもわからず自殺されるとか!」
女1「……」
女2「理由だけ教えてください。それから勝手に死んでください」
沈黙
女1「理由……」
女2「……」
女1「なんですかね……」
女2「え?」
女1「なんでしょう……」
女2「わからないんですか?」
女1「そうですね」
女2「……」
女1「困った」
女2「こっちの台詞です」
沈黙
女2「日々に不満は?」
女1「……誰もがみんな抱えてるものだし、そんなの仕方ないでしょう?」
女2「……まあ」
沈黙
女1「なんか切っ掛けが?」
女2「……特に」
女1「そうですか」
女2「はい」
沈黙
女2「家族とかは?」
女1「家族……」
沈黙
女1「叱られてばっかりですね」
女2「そうなんですか」
女1「まあ、叱ってくれる配偶者は貴重ですから」
女2「え」
女1「はい?」
女2「結婚なさってる?」
女1「はい」
女2「へえ……2人暮らしですか?」
女1「いえ、4人です」
女2「お子さんですか?」
女1「両親と同居でして」
女2「あなたの?」
女1「配偶者の」
女2「……ご両親は今?」
女1「私のですか」
女2「はい」
女1「さあ」
女2「え」
女1「分かりません」
女2「連絡とってないんですか?」
女1「はい」
女2「なんでですか?」
女1「……なんででしょう」
女2「……」
女1「なんでだっけ……」
女2「忘れるほど昔なんですね」
女1「……たぶん」
女2「……」
女1「すいません、私おかしいんです」
沈黙
女2「……そうなんですか?」
女1「はい。自分でもそう思いますし、他の人からも言われますので確かかと」
女2「そうですか……」
女1「あ。おかしいならそれが理由になりますね」
女2「……」
女1「この子もおかしくなっちゃいますもんね(お腹に手を当てながら)」
女2「(動揺しながら)ちょっと待って。妊娠してるんですか?」
女1「はい」
女2「(言葉が見つからない)」
女1「それなら、仕方ないよねえ(自分のお腹に向かって)」
長い沈黙
女2「聞きたいことがあるんですけど」
女1「なんでしょう?」
女2「その『おかしい』っていうのは、何か診断が出てるんですか?」
女1「病院に行ったことが無いので……それがなにか?」
女2「いや、私の考える『おかしい』は、こういう会話自体出来ないイメージなので……」
女1「……でも、死ぬ理由も無く死のうとしましたし、親の事もあまり覚えてないですし」
女2「それはそうなんですけど。なんというか……まるで洗脳とか刷り込みみたいだなって」
女1「洗脳ですか」
女2「はい」
女1「洗脳……」
女2「……」
女1考え込む
沈黙
女2「…お腹空いたなぁ」
女1「はあ」
女2「昨日の夜何食べました?」
女1「昨日…」
女2「あたしは……なんだっけ。コンビニのハンバーグ弁当と発泡酒にプリン。ザ・贅沢!」
女1「はあ」
沈黙
女1「残ったご飯とお味噌汁……ですね」
女2「おかずは?」
女1「無いです」
女2「?」
女1「あ、でも漬物の欠片も残ってたな。久々に食べると美味しいものですね」
女2「残ったってどういうことですか?」
女1「あぁ、私が一番最後にご飯食べるんです」
女2「……」
女1「ハンバーグ弁当良いですね、お肉なんて……(口を噤む)」
女2「?」
女1「お肉……」
女2「……いつから食べてないんですか?」
沈黙
女1「……いつですかねえ?」
女2「病気とか体質で食べれないとか?」
女1「ない……はずです。なのに、なんで……?プリンとか、甘いものとか……」
女2「……(ポケットを探る)」
女1「2年……いや、もっと……?」
女2、女1に飴を差し出す
女2「どうぞ」
女1「でも」
女2「(自分の口にも飴を放りこんで)一緒にいかがですか」
女1「……」
女1、周りを見回した後おずおずと飴を口に含む
女1「…………甘い」
女2「甘いですね」
女1「……美味しい」
女2「美味しいですね」
長い沈黙
女2「お腹空いてません?」
女1「……?」
女2「お腹空きましたよね?」
女1「……そうですね」
女2「行きましょう」
女1「え?」
女2「ご飯食べに」
女1「え、でも」
女2「ファミレスが近くにあるんですよ」
女1「でも叱られる…」
女2「後で自殺するんでしょう?関係ないですよ」
女1「あぁ……でも、お金が」
女2「後払いでいいです。ほら行きましょ。お肉もご飯も一杯食べるんです。漬物も欠片じゃない奴。デザートも腹いっぱい食べるんです」
女1「……はい。あ、お名前は?」
女2「え?あー……み、美山加恋……」
女1「……」
女2「いや、その、そんな感じで…」
女1「……加恋ちゃんにしようかな(お腹を見ながら)」
女2「え?」
女1「いえ」
女2「あ、名前は?」
女1「うーん……山田花子」
女2「えっ」
女1「やっぱり新垣結衣で……あれ?」
女2「どうしました?」
女1「いや、なんでも……飴、おかわりいいですか?」
女2「……もちろん!」
女2、女1へ飴を渡し、買い物袋を持ち階下へ行こうとする
女1、屋上を振り返った後、女2に続くように屋上を去る
暗転
終




