とある男性会社員と女子大生の邂逅
登場人物
男(会社員)
女2(女子大生)
明転
深夜の6階建ての雑居ビル
その屋上に2人の男女
女2は転落防止の柵の外側で柵に身を預け、下を見下ろしている
男はそこから少し離れた場所にどっかりと腰をおろしている
沈黙がその場を支配している
男「(大きいくしゃみをする) 」
女2「(ため息をつき)あのさ」
男「ん?」
女2「いつまでいるつもり?」
男「お前が飛び降りるまで」
女2「止めないんだ」
男「おっ、止めてほしい?」
女2「ほしくない」
男「じゃ、止めない」
沈黙
男「……やべ、鼻水出てきた」
男、服の袖で鼻水を拭おうとする
それを一瞥し、ポケットティッシュを放る女2
男「おー、さんきゅ」
女2「……本当にいつまでいるの」
男「お前が自殺するまで」
女2「……普通止めるよね」
男「止めた方がいい?」
女2「いらない」
男「あっそ」
女2「何回目よ、このやり取り……」
男「……7、8回はしてんじゃね」
女2「よく飽きないね」
男「それ俺の台詞」
沈黙
女2「なんで止めないの?」
男「なんでってなぁ……死にたくなる気持ちは分かるから。どうぞご自由に。みたいな」
女2「じゃあ、なんでいるの」
男「便乗かな」
女2「死にたいの?」
男「いやいや」
女2「……人が死ぬところを見たいの?」
男「あー、おう」
女2「うわー、ひくわー」
男「同感」
女2「……」
男「……お前は?」
女2「なにが?」
男「死なないの?」
女2「……いや、死ぬよ?」
男「随分時間かかってんな」
女2「あんたのせいよ」
男「え、俺?」
女2「飛び降りる所他人に見守られるとか、おかしいじゃん」
男「そうかぁ?」
女2「そうだよ」
男「そうか」
女2「そう。おかしい人がいるー」
男「そうだす、俺がおかしいおっさんだす。おっさんじゃねえよ!」
女2「あははっ」
男「いや、でもよくない?お前の最後看取ってやるわけだし」
女2「そんな上から目線で看取られたくないよ」
男「みーとーらーせーてーくーだーさーいーっ!」
女2「うるさい」
男「へいへい」
沈黙
女2「……こっち来る?」
男「……いいの?」
女2「死ぬところ見たいんでしょ?邪魔しないなら来て良いよ」
男「……ラッキー」
男が立ちあがり、女2の傍へ
男「おー……」
女2「これぐらい高ければ死ねるよね」
男「死ねるかもな」
女2「……死ねないかな」
男「いや、分からないけどさ」
沈黙
男「そういえばさ」
女2「なに」
男「この下って喫茶店なんだよな」
女2「は?」
男「けっこう年いった夫婦がやってる」
女2「違うよ。ただの空き事務所」
男「…そうだっけ」
女2「そうだよ」
男「あぁ、他のビルと間違えてたわ」
沈黙
女2が身じろぎをする
男「(動揺しながら)おい!」
女2「なに?」
男「飛び降りる時ちゃんと言えよ。こっちにだって心の準備ってものがあるんだから」
女2「なんであんたの都合を考えなきゃいけないの。私の自殺なのに」
男「そりゃそうだけどさ・・・」
沈黙
ふと、男が女の腕を掴む
女2「なに!?」
男「いや……俺も死のうかなぁ、なんて」
女2「は?」
男が柵を乗り越える
男「二人でさ、手を繋いだまま死んでたら面白い事になりそうじゃん」
女2「……」
男「テレビとかネットで取り上げられてさ、面白おかしくドラマチックに妄想されるわけよ」
女2「趣味悪っ」
男「知ってるけどさ、楽しくね?」
女2「死んだらそんなの関係ないし。っていうか、あんたは私が死ぬのを見るんでしょ?ちゃんとここで見てなさいよ!」
男「……わかった」
沈黙
男が身じろぎをする
女2「ちょっと!」
男「え、なんだよ?」
女2「……戻りなよ」
男「なんで?」
女2「間違って落ちたら大変でしょ!ちゃんと最後看取ってもらうんだから」
男「大丈夫だって、落ちないよ」
女2「……」
沈黙
男「……おー、空が白んできた」
女2「……お腹すいた」
男「ん?」
女2「ハラへったーっ」
男「おー……飴ちゃんあるで」
女2「くれ」
男「おう」
男が女2に飴を渡す
女2「甘ーい……太るわー」
男「それだけで!?」
女2「あんたのせいだ」
男「いやいや、そんだけで太らないだろ。ってか、女の子はもうちょっと太った方が良い」
女2「デブ専?」
男「いやいやいや。一般男児ですよ、俺は?」
女2「……惜しいなあ」
男「え?」
女2「惜しい。100点満点中70点」
男「なにが!?」
女2「そこは『太ったって君は可愛いよ』って言わなきゃ」
男「なにそれ!?」
女2「あー……腹減った」
男「……なんか食いに行く?」
女2「ん、どっかファミレス空いてるかな」
男「え、まじで」
女2「はぁ?」
男「……自殺しないの?」
女2「……いや、するよ?」
男「えっ?」
女2「気が向いたらね。今はしない。邪魔する人いるし」
男「……えー、見たかったのにぃー」
女2「誰のせいだよ」
男「俺のせい?」
女2「そーだよ」
男「ごーめーんーなーさーいぃーっ」
女2「うーるーさーいーっ!さ、行こ」
男「ちょっ待って金あるかな俺」
女2「いいよ、奢る」
男「え!?」
女2「いや、やっぱ貸す。後で返して。10倍返しで」
男「ちょ、おまわりさーん!ここに悪質な貸金業者が!」
笑いあう二人
女2「っていうか、あんた誰?」
男「ん?ただの通りすがりの野次馬」
女2「……本当に?」
男「(女2の顔をまじまじと見つめ)……見覚え無いなぁ」
女2「なんでついてきたの」
男「いやー、自殺しようとしてる人ってわかるもんだね」
女2「へぇー……」
男「あ、名前なんていうの?」
女2「あぁ……今さら自己紹介っていうのも変だね」
男「ま、いいじゃん。俺は…神木隆之介」
女2「絶対嘘じゃん」
男「嘘じゃねーし」
女2「じゃああたし美山加恋!」
男「絶対嘘じゃん」
女2「嘘じゃねーし」
男「じゃあこれからよろしく?」
女2「え、これからがあるの?」
男「どうだろうね」
女2「じゃあ、また自殺する時には声かけるよ」
男「おぉ!?」
女2「見たいんでしょ?」
男「……おう!ちゃんと俺の都合が良い時にしろよ、加恋ちゃん」
女2「わかったよ、隆之介くん」
2人で屋上を去る
暗転




