井園老人の、縁の下ダンジョン経営
なろうラジオ大賞用小説第七弾。
井園老人は夜中に目が覚めた。
老人特有の早起きではない。
地震の如き揺れを感じた為だ。
だがその時には揺れが収まってたので、彼はライトを手に慎重に外に出たのだがその瞬間井園は驚愕した。
なんと縁の下から庭にかけ巨大な穴が空いていた。
しかもその中から、単眼だったり巨大な虫みたいだったり明らかに人ではないが言葉らしきモノを話す謎の生物達がゲホゲホ咳き込み這い上がってきていた。
まさか地底人の襲来か、と思った井園。
だが生物の一体が井園を見て何か呟いた後に発した、カタコトな日本語っぽい言語の説明を聞き、彼は警戒を解いた。
曰く、自分達は魔界の王に創られた魔族だが、失敗作故か、勇者との戦争が嫌になり、自分達の家でもあるダンジョンごとこの世界に逃げてきた。そして自分達に戦意はなく、できれば匿ってほしいと。
所詮は魔族の言葉。
嘘かもしれぬと思った井園だが、彼はもう、いつ死んでもおかしくないため死は怖くなく、それに……とにかく魔族の言う事を信じる事にした。
しかしタダで匿うワケにはいかない。
魔族も生物故に食料と飲み物は必須。
そしてそれらの調達担当は井園である。
人化魔術を使える者がいなかった為だ。
故に井園は、双方の利益のため彼らとダンジョンを活用する事にした。
ダンジョンをお化け屋敷とし、魔族達をお化け役スタッフと偽る事で。
この試みは成功した。
客の数こそ少ないが生活費を稼ぐ事ができた。
安全性も、井園自身が毎日ダンジョンに潜って調べたから確実だ。
だがそんな日々も、数年で終わった。
井園が、心臓発作により倒れたからだ。
幸い、一命は取りとめた。
だがあと数時間の命だ、と井園の生命力の残量から魔族は判断した。
「井園さん、私達にしてほしい事ありますか?」
寝たきりの井園の手を握る女性魔族が、涙声で問いかけた。
「いや、もう充分だ。充分すぎるほど……私は幸せだ。妻を亡くし、息子夫婦とも喧嘩で疎遠になった。このまま孤独死するかと思ったが、お前達と出会って、もう……寂しくない」
「井園さん。貴方には感謝してます。ですが同時に疑問もあります。なぜ私達の事を信じてくれたんですか?」
男性魔族が、井園の言葉で泣きながら訊いた。
すると井園は、穏やかな顔をしながら答えた。
「お前達の目が、南方の戦地で死んだ友と同じ目をしていたからだ」
そして彼は女性魔族の手を強く握り返しつつ、最期にこう言った。
「戦争はいけない事。その事を……忘れないでくれ」
魔族達のその後に関しては、ご想像にお任せします。
ここだけの話、井園老人の死んだ戦友が彼ら魔族が逃げるキッカケを作った転生勇者だった……なんてひどい設定を考えた事はあります。