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無双転生  作者: いせひこ/大沼田伊勢彦
プロローグ
5/13

第五話

大変長らくお待たせいたしました。

更新再開です


「ふぅ……」


村を襲撃に来た野盗と戦い始めて一時間が経とうとしていた。

テルの周りに倒れているのは五人の野盗。


しかし既にテル自身、肩で息をし、体中に滝のような汗をかいている。

何より、その体にはいくつか赤い線が走っており、服には血が滲んでいた。


あえて試した訳ではないが、図らずも、テルの体は彼の故郷通りの頑丈さでしかないと証明されてしまった形だ。


(体を動かした感じから、筋や骨には異常はないな。肉にさえ届いておらんかもしれぬ。だが、このまま血を流すのはまずい……)


しかしここにきて、野盗たちの動きが変わった。

武器を構えてテルを囲んでいるのは変わらないが、積極的にテルを攻撃しようとはしない。

テル自身も疲労のせいで積極性が失われており、膠着状態となっていた。


(この状況では流石に大振りの一撃は防がれるか? 時間が経てば不利になるのはこちらだ。それは向こうもわかっているはず……)


テルの考えの通り、このまま何もしなければ、テルは出血による体力の低下で、いずれ剣を握る事は勿論、立っていることすらできなくなるだろう。

失血死するほどの傷と出血ではないとは言え、長引けば確実にテルが負ける。


そのため、テルは積極的に攻勢に出るべきなのだが、疲労は体力だけでなく思考力も奪っていた。

無意識のうちにテルは休む事を選択していた。


それで事態が好転する事がないとわかっているというのに……。


「!?」


睨み合いが続いていたのは五分か十分か。

ひょっとしたら一分にも満たない時間だったかもしれない。


テルを囲んでいる野盗の一人の首が突然消し飛んだ。


驚愕に動きが止まる野盗たち。

その隙を逃さず、テルは動く。


テル自身も、その突然の出来事に驚いていた。

しかし、テルの目はしっかりと捉えていた。


遠方より飛来した、人の腕ほどもある巨大な矢が野盗の頭に突き刺さり、その勢いのまま首をもぎとっていった所を。


矢を放った相手が敵か味方かはわからない。

だからこそ、素早く動く必要があった。


目の前の野盗目掛けて渾身の力を込めて刃を振るう。

相変わらず、刃は相手の肉を断つ事はなかったが、鉄の棒を力任せに振り下ろされたため、野盗は頭蓋骨をかち割られて絶命した。


「あっ……!」


事態が急転した事に、野盗たちの思考はついていけていない。

棒立ちしている野盗の目の前で、テルは剣を大きく振りかぶっていた。


横薙ぎに振るわれた刃が首をとらえる。

そこで初めて、テルはこの世界にきてから、皮を割き肉を切り、骨へと到達する感触を得た。


(骨もまるで鉄でできているようだ)


だがそれ以上刃が進まなかった。

力任せにそのまま振り抜き、強引になぎ倒す。

倒した野盗の肩を踏みつけ、骨に食い込んだ刃を引き抜く。


テルが視線を巡らせると、再び一人の野盗の頭が吹き飛んでいた。


「だ、ダメだ! これはダメだ!」


一人の野盗がそう声を発して逃走を試みる。

残った野盗達もそれに続こうとした。


「逃がさん」


ここで彼らを逃がせば、きっとまたやってくる。

野盗に目をつけられた村とはそういうものだ。

根絶やしにしなければならない。


一人に追いつき背中から切りつける。

当然のように切断には至らないが、足が止まった。


(ならば充分!)


更に一歩踏み込み、逆袈裟に切り上げる。

丁度野盗の左腋に剣が入り込んだ。


「ぬぅん!」


本来ならそのまま腕を斬り飛ばすのだが、やはり肉に喰い込まない。

そのまま力任せに振り上げ、野盗の態勢を崩す。


「うわ……!」


一瞬だが足が宙に浮かんだ感覚に、野盗が思わずそう呟きを洩らす。

しかし次の瞬間には、素早く腋から剣を引き抜き、大上段に構えたテルの振り下ろしの一撃が、後頭部を直撃した。


「おう、今のはいいな! 豪快で!」


他の野盗を、と顔を上げたテルにそう声がかけられた。


そこにいたのは身の丈3メートルはあろうかという大男。

その身長に比して膨らんだ筋肉は、数値以上に相手が大きく見えた。


血の付いた鉄の棒を肩に担ぐその男の足元には、逃げようとした野盗が転がっていた。


「助太刀、感謝する」


目線だけで数を数え、討ち洩らしが無い事を確認しつつ、テルは男に頭を下げた。


「俺は雇用主の命令に従っただけさ、気にするな。それに、俺達が来なくてもなんとかなったんじゃないか?」


「どうだろうな。疲労と失血で大分判断力が鈍っていたゆえ……」


言いながら、テルは男の全身を無遠慮に眺める。


「ここには其方のような者もいるのだな」


目の前の大男は完全武装と言えるいでたちだった。

太もも部分を鉄の装甲が覆い、同じく鉄の装甲のついたブーツを履いている。

複数のパーツで構成された鎧は胸と腹をしっかりと守っている。その間から覗くのは鎖帷子のように見えた。


両腕は動かしやすさを重視したのか、肩から先が剥き出しだった。

しかし、その皮膚はいかにも固そうで、それどころか、所々岩のように変質していた。

まるで腕に直接装甲を張り付けているかのよう。


一見すると兜を被っているようにも見えたが、よく見ると頬や顎下、額から腕の『装甲』と同じ材質の『角』が伸びており、それが頭部を覆っていた。


黒みがかった灰色の肌。

常人を遥かに超える巨大な体躯。

そして、人間では有り得ない皮膚と器官。


「うん? ゴラム種を見るのは初めてか?」


明らかに人間とは違う別の存在に、テルはどのような感情を抱くべきかわからなかった。


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