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無双転生  作者: いせひこ/大沼田伊勢彦
プロローグ
4/13

第四話


日が落ち、夜の帳が下りた頃、彼らは村へとやってきた。


日焼けした肌に薄汚れた顔。

目は大きく開かれ、ギラギラと輝いている。

獲物を見つけて喜びに歪んだ笑みを浮かべ、彼らは村へとやってきたのだった。


月明りが地面を照らす中、テルは村の入口で彼らを出迎える。

柵の近くに備えられた篝火に照らされた彼の顔には、野盗たちと同じような笑みが浮かんでいた。


「おい、貴族がいるぞ」


「なんでこんな辺鄙な村に?」


テルの服装と腰に差した剣の装飾を見て、野盗たちは怪訝な表情を浮かべる。


「バカ、貴族さまがこんなところに護衛もつけずにいるかよ。それらしい服装をした偽物に決まってら」


「びびらせて俺らを追い払おうってか。舐められたもんだぜ」


「そこで止まれ」


入口から十メートルほどの距離に野盗が近づいた時、テルはそう制止の声をかけた。


「それより先は死地だ。一歩でも踏み入れば斬る」


「ああ!?」


声をかけられた時は、彼らの予想通りに適当に脅して帰るよう促すのかと思った。

しかし、テルの口にした物騒な内容に、野盗たちは顔を顰める。


テルは迎撃に出る際、村の人間に言いつけられていた。


彼らを無事に帰してはならない、と。


脅しを含んだ交渉が成功し、彼らを撃退できたとしても、それは一時的なものでしかない。

彼らは近いうちに、必ずもう一度やってくる。


テルが本物であれ偽物であれ、貴族であるならば村にいつまでもいる訳がないからだ。

いずれテルがいなくなる日が来る。

その時に改めて、彼らは村へとやってくるだろう。


彼らにとって街から離れた村は狩場でしかない。

場所が知られた時点で、村人たちには逃げるか戦うかの二択しかなくなったのだ。


交渉をして見逃して貰うなど、楽観的に過ぎた。


村人たちの理屈はテルも納得できるものだったので、特に反対はしなかった。

どちらかと言えば、剣を振るう大義名分が補強されたと内心では喜んだほどだ。


「へ、やれるもんならやってみろよ。こっちは十人以上……」


見下すような笑みを浮かべて、一歩前に出た野盗は、その言葉を最後まで言い切る事はできなかった。


一歩前に踏み出した瞬間、テルが放った高速の抜き打ちが、野盗の首を直撃したためだ。


「がふぅ……」


その速度と技術であったなら、間違いな人間の首は飛んだはずだ。

それこそ、剣豪の逸話によくある、斬られた相手が暫く斬られた事に気づかない、が実現できていたかもしれない。


だが、それはテルの故郷での話だ。


野盗は白目をむき、涎を垂らしながら倒れるものの、その首と胴体は繋がったままだった。


「やはり、頑丈だな」


手応えも、まるで同じ太さの生木を切りつけたかのようだった。


「だが、切れないなら切れないでやりようはある」


野盗の首は繋がっている。しかし、頭頂部が肩にくっつくほどにその首は折れ曲がっていた。

頑丈ではあってもそこは人間。

そこまで頸椎が損傷しては、最早再起は叶わないだろう。


むしろ、即死していない事にテルは改めて驚かされた。


「て、てめぇ!」


そこでようやっと野盗たちが剣を構える。

テルの持つ剣とは違う、幅の広い武骨な剣。


錆が浮き、刃こぼれしているその得物は、もはや刃物としての役割は果たせないだろう。


しかし、人間を切る事ができない、という点では、テルの持つ業物も、彼らの持つ鈍らと違いはない。


「すまんな、こんな使い方しかできなくて」


呟きながら、テルは野盗たちに向けて足を踏み出す。


「先の言葉が脅しではない事は理解できたか? そして、脅したい訳でもないのだ」


剣を中段に構え、切っ先を近くにいる野盗に向ける。


「かかって来い、とも言わぬ。戦う覚悟が無い者は、そのまま私に斬られて死ね」


そしてテルは地を蹴った。

一番近くにいた野盗の肩口に刃を振り下ろす。


「ぐはっ!?」


反応する事さえできず、一撃を受けてよろめく野盗。


「ち、大振りの一撃でなければ倒す事さえできんか」


元の世界であれば、撫でるように斬るだけで相手の命を絶つことができた。

だが、この世界の人間相手では、多少『痛い』程度のダメージしか与えられない。


一対一の戦いであれば、小技を繰り返しす事でも、相手に何もせずに勝つことは可能だろう。

だが、十人以上を一度に相手にする乱戦では、一人にそれほどの時間をかけるのは命取りだ。


この世界の敵を倒すなら、力任せの全力の一撃が必要だ。

だがそれも、乱戦では致命的な隙を生むことになる。


「やろぅ!」


よろめいた相手に追撃の二発目を入れたところで、別の野盗がテルに向かってきた。

両腕を頭のはるか上に振り上げて、力任せの一撃を繰り出そうとしているところだった。


「ふっ!」


テルは即座に反応し、気を吐きながら、がら空きの胴体を横薙ぎに切りつける。


「ぐは……!」


やはりよろめきはするが、切断には至らない。

その間に、最初の野盗が態勢を建て直していた。


更に、他の野盗もじりじりと距離を詰めてくる。

一度に相手にするのは四人程度。

それでも並の使い手であれば勝つことは難しい状況だ。


テルと野盗たちの技量差ならば、そのくらいの人数差は問題にならないはずだった。

だが、一刀のもとに切り伏せられないため、敵の数が減らない。

肉体にダメージを受け、戦闘の継続が一時的に不可能になっても、その穴を他の野盗が埋めている間に、ダメージが回復してしまう。


「なるほど、こうか……!」


テルがこの状況を切り抜けるには、この世界における戦い方を模索する必要があった。

長い時間をかけて培ってきた技術を捨てる事はできない。


意地や誇り以上に、現在テルが生きているのは、その技術によるところが大きいからだ。


ならば、その技術を使ってこの世界に順応した戦い方を考える必要があった。


時間も思考の余裕もない中で、テルは一応の対抗策を思いついた。

一人の人間に集中的に攻撃をするのではなく、小技を周囲の敵に満遍なく食らわせる。


そして、周囲の人間が全員一時的に行動不能になったところで、周りに控える野盗が新しく戦列に加わる前に、大きく刃を振りかぶり、力任せに野盗の頭に剣を振り下ろした。


いくらテルの世界の人間よりも頑丈とは言え、そのような一撃を頭部に受けて無事でいられるほどではない。

頭をかち割られ、鮮血とともに中身を飛び散らせながら、野盗はその場に倒れ伏した。


「これで、ようやく一人、いや正確には二人か……」


全身全霊を込めた、渾身の一撃を繰り出している間に、他の三人は態勢を建て直すか、他の野盗と交代して後ろに下がっている。

そしてテルの前に、別の野盗が剣を構えてにじり寄って来る。


戦いが始まってまだ十分あまり。

二人を倒したがテルも疲労で腕と足が重い。


そして野盗は、まだ十人以上残っていた。


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