第十一話
大変お待たせいたしました
閑話的な話となります
帝国は大陸の東半分を支配している大国であるが、その殆どが不毛な砂漠地帯となっている。
建国した者が他国から追放された者であったからだとか、開拓団の一つが独立したとか、そこいらで一番強かったハーミットが帝国を名乗るようになったなど、色々と言われるがその歴史はわかっていない。
帝国は農村から重税を取り立て、奴隷の安い労働力を用いることで、その国力をなんとか維持している。
たびたび、大陸中央の肥沃な大地を目指して軍を派遣するものの、そこに座した神国に阻まれ、砂漠から出る事は叶わないままだ。
そんな砂漠地帯の北西にブルストという土地がある。
大陸中央ほどではないが、砂漠地帯よりは作物が育つ土地であり、神国の手も伸びていない場所だった。
しかし入植して暫くすると、神国が軍勢を送り込んでくるようになった。
それから十年。
ブルストの赤茶けた大地は赤黒く染まり、今日もどこかで金属同士がかち合う音が響いている。
「うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉお!!」
裂帛の気合と共に雄たけびを上げ、鉄の鎧に身を包んだ兵士が荒野を駆ける。
その先にいるのは薄い布を体に巻いただけの軽装にもほどがある集団。
しかも駆ける兵士は盾と長剣を手にしているのに対し、集団が手にしてるのは50センチにも満たない長さの粗末な鉄の棒。
装備の差は明らかで、布を巻いた集団は体つきも貧相だ。
ただ、その瞳だけがギラギラと怪しく輝いていた。
「おらぁっ!!」
怒号と共に刃が振り下ろされて、軽装集団の一人が切り倒される。
そんな光景が兵士と接触した集団のあちこちで見られた。
そんな状況では士気も上がらず、恐怖に駈られて逃げ散ってしまう。
それが普通の戦いだ。
しかし彼らは普通ではない。
倒れた仲間の後ろから、鉄の棒を振りかぶり、兵士の頭めがけて振り下ろす。
剣で肩を切り裂かれながら、横薙ぎに振るった鉄棒で兵士の頭を打つ。
「この、凶信者どもが!!」
絶命しながらも自らの腰に抱き着いたまま離れない敵の腹を蹴りながら、兵士の一人が悪態をつく。
遺体を引き剥がす前に、別の敵から鉄棒の一撃を受けて、その兵士は意識を失った。
味方が倒される事も、自らが死ぬ事もいとわず、遮二無二突撃し、ひたすら目の前の敵を攻撃する。
薬も使わず督戦もされていない中、彼らは信仰心だけで凶戦士となり戦場に降り立つ。
彼らは神国の一般兵士。
布一枚を体に巻き、その辺で拾った鉄棒を片手に戦場を駆ける。
敵を倒した数だけ徳を積み、死ねば天国の門が開かれ、生き残れば神国人としてのステージが上がる。
彼らは『試されしもの』。
神国に住まう一般市民である。
装備も練度も帝国兵士の方が上。
しかし数は神国が圧倒的。
そして死を恐れぬ狂気の集団は、質の差など簡単に覆す。
「るるるるるるるるるるるるるるるるるるぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおお!!」
帝国兵士が凶信者に恐怖し、士気が崩壊して戦列が乱れる絶望の戦場に、そんな咆哮が轟いた。
「き、きた! きてくれた!」
その声に、それまで悲壮感を漂わせていた指揮官たちの顔に歓喜の色が浮かぶ。
「るるるるるるるあああああぁぁぁぁぁあああ!!」
叫びと共に『試されしもの』が舞う。
首を狩り、胴を断ち、手足を切り飛ばす。
そのあまりの勢いと衝撃に、残りの部位も吹き飛ばされた。
戦場に突如吹き荒れる殺戮の嵐。
その中心には一人の青年。
両手に武骨な石斧を持ち、自らが狩った獣の毛皮を被り、周囲の敵を切り飛ばしながら、戦場を縦横無尽に駆け回る。
ブルスト司令官の息子にして、帝国軍の『救世主』。その名はモズ。
神国勢からは『ブルストの狂った餓狼』として恐れられていた。