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無双転生  作者: いせひこ/大沼田伊勢彦
プロローグ
10/13

第十話


テル達が戦闘態勢を取ったことで、気付かれている事を理解したのか、暗がりから彼ら(・・)は姿を現した。

焚火の光に照らされてなお、風景に溶け込んだ、絶妙な模様のついた衣服で頭の天辺からつま先までを覆っている。


「ハーミットか」


「なんだそれは?」


ノブルの呟きにテルが反応する。


「塒を持っている野盗をハーミットと呼ぶんだ」


「塒がわかっているのに討伐しないのか?」


「そこらを徘徊している野盗と違って、彼らは村や街を襲わないからな」


「なるほど。討伐する方が金がかかるか」


ノブルの少ない情報からテルは理解した。

怯えながらも話を聞いていたリズは理解できていないようで、若干首を傾げている。


「それで? この者達は強いのか?」


「人によりけりだとは思うけど、軍隊は避けられても賞金稼ぎには狙われるからね」


相手の規模がわからないため、軍隊を差し向けるのはリスクが大きい。

村や街を狙わず、隊商やノブル達のようなロストハンターを襲うというなら貴族や帝国の上層部は気にしなかった。


隊商は護衛を雇っているし、ロストハンターはそれこそ冒険先で様々な理由で命を落とす事が多いので、部隊が壊滅した理由がハーミットであれ、野生の怪物であれ、古代の殺人兵器であれ、そこに違いは無かった。

また隊商やロストハンターが護衛を雇うことで、人を殴るしか能の無い人間に職を与える事になり、治安維持に寄与している側面もあった。


それとは別にハーミットには高額の賞金がかかっている場合が多い。


軍隊を送り込むよりは安上がりだし、討伐してくれれば儲けもの。

返り討ちにあったとしても、紙一重のチンピラがいなくなるだけなので国にとって損はない。


「つまりはーみっととは、襲い来る賞金稼ぎを撃退できる程度には腕が立つ者達ということか」


「あるいは、賞金稼ぎに勝てるくらいに腕に覚えがあるから、ハーミットになるのかもしれないね」


「心得た!」


言葉と同時にテルが地を蹴る。


「!?」


相手の呼吸を読んでのテルの踏み込みは、見事に相手の虚を突いた。

一瞬、頭巾の向こうの目が驚愕に大きく見開かれるのがテルには見えた。


そのまま左の肩から袈裟懸けに剣を振るう。


「ぐっ!?」


短い呻きと共に態勢を崩した相手の顎を目がけて間髪入れずに振り上げる。


「がっ!!?」


そして再び振り下ろされた一撃を受けて、ハーミットは昏倒した。


「はっ! やるじゃねぇか!」


「切れないだけでなく、折れない事がわかっているならいくらでもやりようはある」


カーンもテルに続いてハーミットへ遅いかかり、テルは他のハーミットへと向かう。


「む……」


更に二人のハーミットを倒したテルの前に、立ち塞がった一人のハーミットは、それまでに倒した者達とは纏う雰囲気が違っていた。

一人、頭巾を被らずに素顔を晒している事からも、彼らの指揮官的な存在だろうとテルはあたりをつけた。


「ノブル、この者は?」


テルの持つ剣の半分ほどの刀身の剣を、地面と水平になるように構える相手から目を離さずに、テルがノブルへ尋ねる。


「アシッドランダーだな。鉄をも溶かすほどの高温の雨が降る地域があって、そこの出身だと言われる種族だ。その皮膚はゴラム種やカンサー族にも劣らないくらい硬いそうだぞ」


テルの質問の意味を誤解しなかったノブルの返答に、テルは口元がわずかに上がるのを自覚した。


「なるほど……!」


当然相手も暢気に会話の終わりを待たない。

テルの意識がわずかに逸れた所を見計らって攻撃を仕掛けて来た。


(身軽で素早く、振りも小さく回転が早い!)


なんとか初撃は防いだものの、テルが反撃に移るより早く、相手の二手目が迫って来ていた。

それを防御すると、三手目につなげられてしまい防戦一方となる。


「おいおい大丈夫か!?」


他のハーミットの相手をしつつ、カーンが叫んだ。

ちらりとイーグを見るが、彼は静かに首を振った。


テルの周囲を跳ねるように移動しながら攻撃しているため、狙いがつけられないのだ。


(ただ身体能力に任せて思うままに振舞っているだけではない。これはしっかりと技術化された技だ)


「だが……!」


一度横からの斬撃をテルにガードさせたのち、その刃を滑らせるようにして喉を狙った突きが繰り出された。

しかしテルは手首を返し、相手の武器を巻き込んで跳ね上げさせる。


本来なら、武器が小さく小回りの利く相手の方が次の行動が早いはずだった。

だが、テルの流派にはここから最速で繰り出す一撃がある。


(一つの太刀!)


振り上げた刀の柄を素早く握り替えると、そのまま振り下ろした。

反撃に出ようとした相手は間に合わないと悟り防御を試みる。

しかし、その一瞬の隙が明暗を分けた。


ハーミットの防御をすり抜け、刃が頭部に叩きこまれる。

緑色の頭髪を散らし、鉛色の肌を削ると火花が散った。耳障りな音が響く。


(岩……いや、滑らかな金属を切りつけたような感触だな。同じく硬いと言っても、種族が違うとこれほど肌の感触に違いがあるのか)


折れる事も曲がる事も気にせずに刃を振るうテルにはその違いに気付ける余裕があった。

だからこそ、それ(・・)にも気付けた。


刃が相手の体を滑る途中、他とは違う感触の場所があった。


「なるほど……。そこは貴様らも柔いのか……」


テルの口の端が吊り上がる。

目の前では、左眼に手を当て、痛みに喘ぐハーミットの姿があった。

その指の間からは、青い液体が溢れ出ている。


「紙の色も違えば肌の色も違う。ならば、血の色が違うことも道理か。そう言えば、瞳の色もくすんだ銀のようだったな」


言うテルの声は楽しそうだった。

この世界での刀の使い方を理解したとは言え、やはり打撃武器のように扱うのは抵抗があった。


それがわずかとは言え、刀のまま狙える場所が判明したのだ。


「逃げられると思うのか?」


ジリジリと後退るハーミットに、テルはそう声をかける。

顔こそ向けないものの、周囲の喧騒も徐々に収まりつつあった。

戦闘がもうすぐ終了するだろう事は容易に想像できた。


さっきまでのカーンやノブルの反応から、こちらの圧勝だろうとも知れた。


するとハーミットは目の傷を押さえていた左手を胸元に突っ込み、何かを取り出す。

頭上で振り回しはじめると、奇妙な音が響いた。


「あれはマズイ! テル、離れろ!!」


ノブルから警告が飛ぶ。すぐに背後へ跳び退るテル。


直後に、地中から何かが飛び出して来た。

それは巨大なミミズか芋虫のように見えた。


大きく開いた口のような器官には、鋭い歯がびっしりと生えている。


その怪物はハーミットを、音のする何か――虫呼びの笛――を狙っているようだった。


巧みに攻撃を躱すと、笛をハーミットが投げ捨てる。

それを追うように動く怪物。笛はテル達の方に飛んで来ていた。


「ちぃっ!」


笛を叩き落としても意味がないと考え、刀を怪物に向けて構えるテル。


その傍を、巨大な破城槌のようなものが飛び過ぎていく。

怪物に直撃。不快な鳴き声を上げてその場でのたうちまわり始めた。


「でやぁっ!」


気合いと共に振り下ろされたカーンの金棒を受け、怪物はその動きを止めた。


「なんだ、こいつは……!?」


「トレマーって地中を棲み処にしてる蛇の一種だ。目は退化していて、音や獲物が地面を歩く振動を感知する」


思わずテルが呟くと、ノブルがそう説明した。


「こんな怪物を奴らは使役しているのか……!?」


「いや、飼いならせる動物だとは聞いた事がない。さっきの笛はトレマーを呼び寄せる音を出す。諸共襲わせて、その間に逃げるっていう手だったんだろう」


ノブルの言う通りに、さっきの騒ぎの間に意識のあるハーミット達は素早く暗闇へと逃れていた。


「言われてみれば、最初に襲われたのはアイツの方であったな」


しかしテルには一つ疑問があった。

このような怪物を除けるための笛ならともかく、何故呼び寄せる笛があるのか。

今回のように使うにしても、音を出して呼び寄せる以上、最初に危険に晒されるのは音を出している者だ。


あのハーミットが独自に編み出した戦術だと言うなら、ともかく、ノブル達は周知の事実のようだった。

リズを見る。

ノブル達ならロストハンターとして活動するうちにそのような戦術を使う者達と接触していても不思議ではなかった。


だが、本をよく読むとは言え、貧しい農村で育ったリズならば……。


しかし彼女は特に気にしている様子はなかった。

目の前で繰り広げられた戦闘に怯えているだけの可能性もあるが……。


そしてテルは、自分の疑問がすぐに解消される事を知る。


奴隷達が怪物にとりつき、その皮を剥ぎ、肉を切り取り始めたからだ。


「……食えるのか?」


そう言えば蛇だと言っていた。

しかし紫がかった皮膚はまるで毒でも持っているかのようであったし、皮膚を剥ぎ、肉を削ぐたびに噴き出る黒い体液は、食欲を失せさせるには十分なビジュアルだった。


「さっきまで食っていた肉はコイツのだぜ?」


「…………」


カーンの言葉に、しかしテルは何も返せなかった。


ちなみに最後に戦っていたハーミットは、首領ではなく部隊長的な立場の人。女性


2023/0729追記

鹿島新当流の奥義とされる一之太刀は詳細不明です

技のようなものではなく、心構え、訓戒のようなものであったとも言われています

昔の漫画で刀を頭上に投げ上げ、それをジャンプしてキャッチして振り下ろす技を「変形一つの太刀」としている作品がありました

拙作における一つの太刀はこれを参考にしたものです。ご了承ください

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