160話、モニカと焼き肉バーベキュー(料理)
魔術で熱々の紅茶を氷のないアイスティーへと変貌させた私は、モニカ達が買ってきていた紙コップに人数分注いでいく。
それを配りがてら、調理をしているベアトリスが何を作ってるのか見に行った。
ベアトリスは小さなテーブルの上にまな板を置いて食材を切っている。
切っているのはすでに四分の一にカットされているキャベツだった。一口サイズのざく切りにしていた。
「キャベツを切ってどうるの? サラダでも作る気?」
「違うわ。サラダを作るのも良かったんだけど、せっかくのバーベキューだし、お肉いっぱい食べたいじゃない?」
「ふーん……じゃあなんでキャベツ?」
「お肉はそのまま焼いてタレをつけて食べるのもおいしいけど、野菜とかと組み合わせて調理するとまた別のおいしさが味わえるものなのよ」
つまり、作るのはあくまで肉料理で、キャベツは肉と合わせるつもりなのだ。
しかしそれだとただの肉野菜炒めしかできなさそうだけど……何作るんだろ。
ごくっと冷えた紅茶を飲みつつ、することないのでベアトリスの料理を見守っておく。
ちなみにライラは、一心不乱に肉を焼くモニカの肩にとまっていた。時折モニカが「うおー焼けてるー!」と叫び、ライラも「焼けてるー!」と同調していた。
……そっちの方が原始的魔女感ない? 初めて発見した火で肉を焼いてみた魔女じゃん。焼き肉を生み出した始祖の魔女と妖精にしか見えない。
あ、でも本人に言うのはダメだな。焼き肉の始祖の魔女とか言ってもモニカはきっと喜ぶ。
そんな原始的肉料理を作っているモニカと違い、ベアトリスは慣れた手つきでキャベツを切り終え、すでに調味液で味付けされていた肉とキャベツをアルミホイルの皿の上に広げた。
そしてその上に、細長くカットされているチーズをふんだんに乗っける。もう肉もキャベツも見えなくなった。
「チーズいっぱいかけるね」
「それがポイントよ。お肉とチーズの相性は抜群だわ。そこに熱が入ってしんなりとしたキャベツが加わると、濃い味の中にキャベツの甘い水気もあっておいしくなるわよ」
「へえー」
じゅるり。よだれが出る。確かにおいしそうだ。
「はい、暇ならこれ焼いてきて」
そのチーズ入りキャベツ肉のアルミ皿を渡されて、お使いを頼まれた。
「この皿ごと網の上に乗っける感じでいいの?」
「それで大丈夫よ。じっくり熱が入っていくから、チーズがとろけてチーズ煮みたいな感じになるわ」
さしずめこの料理は、野菜とお肉のチーズ煮だろうか。どこかの地方にありそうな料理だから、きっともっとおしゃれな名前がありそうだけど。
それを言われるまま網の上に乗せに行くと、モニカがちょうど焼けた肉を皿に取り分けているところだった。
「リリア、ちょうどよかったわ。はい、これリリアとベアトリスの分」
山盛りのお肉を受け取った私は、今度はそれを持ってベアトリスの元へと戻る。お使いに次ぐお使いだ。
ベアトリスはというと、今度は骨付き肉にスパイスを振っている所だった。
「それ、スペアリブ?」
「そうよ、よく分かったわね」
以前鉱石の町カルディアで食べたことがあるのだ。
「スパイスもたくさん使ってるから、カリカリに焼けば数日は持つわ。残ったらお土産代わりに皆で持って帰りましょ」
そう言いながらスパイスを揉みこんでいくベアトリスの前で、私は早速モニカが焼いた雑な肉を食べていく。
小皿に甘辛のタレを入れ、焼いた肉をちょっとつけてぱくっと一口。
うーん、おいしい。モニカじゃないけど、お肉は焼いてタレにつけるだけでも十分においしい。
すると、ベアトリスはスペアリブを作りながらもこっちを見ていた。
「私も食べたいわ」
「ん、どうぞ」
お皿をずいっと近づけると、ベアトリスはお肉の脂やスパイスで汚れた自分の手を見つめた。
「ここで洗ってもまた生肉を触るから面倒だわ。食べさせて」
横着するなぁ。
でも私達の為に料理をしているのだから、文句は言うまい。
仕方ないから、私は箸でお肉を一つ掴み、ベアトリスの口に持っていく。
「はいあーん」
「あーん」
ベアトリスが口を開けると鋭い犬歯が覗いた。ちょっとぞわっとした。やっぱ吸血鬼なんだなぁ。
ベアトリスの口にお肉を放り込むと、とたん彼女はぶんぶんと顔を振る。
「あっつ……バカっ、熱いじゃないっ……!」
「ええ……? そんな熱いかな。ベアトリス猫舌だっけ?」
「違うわよ。体温低いから余計熱く感じるだけよ」
……吸血鬼だから体温低い。体温低いから口の中の温度も低い。だから焼けたお肉を放り込むと熱く感じる。そういうことか。
私も寒い日にお風呂入る時は、お湯がいつも以上に熱く感じたりする。理論的にはそれと一緒だろう。
つまり猫舌ではなく吸血鬼舌なんだな。
「わかったよ、今度はほら、魔術で冷やすからさ……えいっ。こんくらいかな? はい」
「あーん……んぐっ」
またベアトリスが顔をぶんぶんと横に振った。
「今度は冷たいっ!」
これ加減難しい。
なんてちょっとふざけていると、ベアトリスはスペアリブの下ごしらえを終えたらしく、お皿に入れてまた私に渡してきた。
「はい、焼いてきて」
「はーい」
もうお使いは手慣れたものだ。
そうしてモニカが陣取るバーベキューコンロの前に行くと、今度はソーセージを焼いていた。
「この辺にスペアリブ置いていい?」
「いいわよ、もうソーセージも焼けるから」
網の端っこにスペアリブを置いていく。
しかし、まさかモニカがソーセージを焼いてるとは。いやお肉には違いないけどさ。なんとなく加工品より生肉を焼いて食べる方が好きなイメージがあった。
「ちょっと見てなさい、リリア」
「ん?」
モニカは皿に乗せた大量のソーセージを、準備していた縦に切れ込みが入った縦長のパンの間に入れていく。
そしてソーセージの周りに焼いた肉をねじ込み、その上にチーズをかけ、ケチャップをまぶしていった。
「できたわ、これが私の理想のホットドッグよ」
「なにそのバカみたいなホットドッグ」
もうただの肉山盛りパンじゃん。
「バーベキューっていうのはこういう理想の食べ物を自分で生み出せるのがいいのよ。ああ、肉山盛りホットドッグ……頂きます!」
モニカは至福の笑顔で肉山盛りホットドッグにかぶりつきだした。もうこいつ肉なら何でもいいんだろうな。
「最初に作ったチーズ煮も良い頃合いなんじゃない?」
調理が一段落したのか、手を洗ったベアトリスもバーベキューコンロに集まりだす。
もうすでに肉は焼いてちょっと食べちゃったけど、ここからが本格的なバーベキューの始まりだ。
ベアトリスが仕込んだチーズ煮、スペアリブの他、モニカが焼きまくってる大量のお肉。
とにかく……今日は肉を食べるか。私も気合を入れ、ついに皆で食べ始めるのだった。