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147話、羊飼いの村とシェパーズパイ

 何とか寝不足を解消できた私達は、翌朝旅人の村から出発する事にした。

 この旅人の村は比較的近くに色々な村や町があるので、そこらを気ままに見て回るつもりだ。

 まず最初に向かったのは、旅人の村からやや西方向、広大な草原地帯だ。ここには広い草原を活かして羊の放牧をしている村があるらしい。


 旅人の村を出てから歩くこと数時間。ちょうど昼時を迎える頃になると、この羊の放牧地帯が見えてきた。

 むしゃむしゃ草を食べている羊の群れを見て、ライラが歓喜の声をあげる。


「うわー羊だわ。モコモコしてる」


 ちょうど毛を狩る時期なのか、羊達はたっぷりと毛を蓄えていた。

 人慣れしているのか、羊達は私達に気づくも軽く視線を向けただけで、ぷいっとそっぽを向いてまた草を食べ始めていた。


「ここの羊達は大人しいのね。野生化してないわ」


 ライラのそのセリフに引っかかったのか、ベアトリスがは? と首を傾げた。


「羊が野生化するわけないでしょう? 家畜化されているから羊なのよ」

「いや、まあそうなんだけどさ」


 ライラの代わりに私が答える。


「旅をしていると変なのに出くわす時あってさ、私達野生化した羊に出会ったんだよね」

「……山羊じゃなくて?」

「羊。このモコモコした奴ら」


 理解できなかったのか、ベアトリスは、はぁ? と呟く。

 そんなベアトリスに、ライラが続けた。


「本当よ。しかも野生化した羊にお昼ごはんを恐喝されたわ」

「……はぁぁ?」

「あれはひどかったよね」


 呆気にとられるベアトリスに構わず、私も当時の事を思い返した。


「でもその後その野良羊のケバブを食べられたから、エビでタイを釣ったみたいな話になったよね」

「悲しい食物連鎖の話だったわね~」

「……あなた達の話を聞いていると頭が悪くなりそうだわ。さっさと村に行くわよ」


 私達の思い出話についていけなかったのか、ベアトリスはさっさと歩きだしてしまった。

 そんなベアトリスの背を追いかける事十数分。この羊の放牧を行っている羊飼いの村へとやってきた。


 この村では羊毛を活かした製品がたくさん売られている。羊にも色々種類があって、必然羊毛にも色々特色があるようだが、この村では衣服へと転用しているようだ。

 セーターやマフラーの他、コートタイプの上から羽織る衣服もある。他の村や町にもこれら羊毛衣服を出荷しているらしく、原産地であるここではお安く買えるようだ。


「ちょうどいいわ、コートを買っておきましょう」


 ベアトリスはウールコートがお気に召したらしく、白色のを購入していた。私も一着買っておこうかな。黒い奴。

 だけどその前に……まずはお腹を満たしたい。

 そう、今はお昼時。お腹が空いていては買い物にも集中できない。という事で色々物色するベアトリスをよそに、私の目は飲食店を追っていた。


 たくさんの羊を放牧しているだけあって、羊毛意外にもラム肉料理が豊富なようだ。

 いわゆる骨付き肉であるラムチョップに、野菜と共に串に刺して焼くラム串、ラム肉のシチューなどなど、食べたいのが目白押し。

 その中でも私が気になったのは、シェパーズパイという名の料理だった。


「ね、ベアトリス、シェパーズパイってなに?」

「え? さあ、知らないけど」


 ベアトリスでも知らない料理なのか。どんなラム料理なんだろう。


「興味ない? っていうか食べたくない?」

「は? ……ああ、お腹が空いてるのね」


 意図を察したのか、ベアトリスは物色していたセーターをお店の棚に戻す。


「じゃあ先に食事しましょうか。なに? あのシェパーズパイとやらを提供しているお店に行きたいの?」


 買い物を中断してお店に向かい始めるベアトリスの後ろで、私はぐっと拳を握る。やった、ごはんの時間だ。

 それを私の肩に座りながら見ていたライラが、ぼそりと呟いた。


「もしかして決定権はリリアじゃなくてベアトリスが持っているの?」


 そうではない。そうではないけど、お伺いは立てないと。野宿の時にごはんを作ってもらっているので、ごはんの決定権はあちらにある感じになってしまっているだけだ。

 とにかくお店の中へと入り、テーブル席に腰を落ち着ける。ベアトリスが早速シェパーズパイを二つ頼んでくれていた。


 そして待つこと数分。待望のシェパーズパイがやってきた。

 それは、真四角のグラタン皿に入った料理だった。どうやらチーズは入ってないようだが、また別の白っぽい物が皿の中いっぱいになっている。


「なんだろうこれ」


 フォークで突いていると、それが何なのか分かった。


「あ、マッシュポテト?」

「そのようね。その下にミートソースが敷いてあるわ」


 なるほど、これはラム肉のミートソースの上にマッシュポテトを被せて焼いた料理なのか。

 パイと言うからパイ生地を使っていると思っていたが、こういう感じのもあるんだ。

 ひとまずマッシュポテトにミートソースを絡めてパクっと一口食べてみる。


「んっ、おいしいぞ」


 マッシュポテトにミートソースという実にシンプルな味わい。だけどそれがたまらなくおいしい。

 マッシュポテトはほのかに塩気が効いていて、ミルクが入っているのかクリーミーな口当たり。そしてラム肉のミートソースは普通のミートソースと違い、ラム肉独特の風味が良い感じで出ている。


 ラム肉の匂い消しにスパイスも結構使っているのか、とても奥深い味のミートソースだ。ごはんにかけてもおいしいかも。

 そしてそれならパンとの相性も抜群のはず。ちゃんと付け合わせのパンがあったので、それにマッシュポテトごと乗っけて食べてみる。


「んは……うんうん」


 パンと合わせると、食べごたえがグレードアップ。香ばしい小麦粉の匂いにシェパーズパイが実に合っている。

 ライラも大きいフォークを使って満足げに食べていた。

 ベアトリスとは言うと、一風違ったパイの姿に感心しつつ味わっているようだ。


「水分少なめなミートソースだとグラタンとも違くなるし、確かにパイの方がしっくりくるわね。マッシュポテトを被せて焼くのは結構面白いかも」


 いつものように料理を探求するように食べている。頼もしい。野宿でのごはんのクオリティがまた上がりそうだ。


「これ、作れそう?」

「え? まあそうね。材料があれば作れるんじゃない? ラム肉じゃなくて普通のお肉でも代用できそうだもの。……ああ、この村にはラム肉売ってそうだし、買っていきたいわね。ラム肉を使って色々作ってみたいし」

「よし、じゃあ食べ終わったらラム肉物色に行こう!」

「……あなた、ごはんの事には本当に行動早いわよね」

「え? それ褒めてる感じ?」

「どこをどう判断したら褒めてると思うのかしら」


 ため息をつきながら、ベアトリスはシェパーズパイをパクパク食べ続けていた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です(^_^ゞ チョコデニッシュ強奪事件の時の野良羊ですか! 懐かしいですね! ベアトリスには、件の野良羊たちがゴロゴロ転がりながら威嚇してきたと説明したのでしょうか? (笑)…
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