〜第9話〜いまどき流行りの吸血鬼
どうも、辰太郎です。
今回は更新遅れてすいませんでした。
代わりに今回は他の話と比べて少し長めです!!
毎日更新を心がけて書きますので良かったら楽しみにしていて下さい!!
「ねぇー、もう随分歩いたんだけど何も出ないじゃない。もうやだ帰りたいー!! 本当にこんな場所に吸血鬼がいるの? 」
俺達は今街の近くにある森の洞窟を彷徨っていた。 何でそんな所にいるのかというと、依頼の受注用紙に吸血鬼の目撃情報はこの辺りだと書いてあったからだ。
洞窟の中は薄暗く、松明の明かりに照らされるケルベロスは唇を尖らせている。
「私の長年の勘がこの辺に吸血鬼がいると告げているので必ず居ます。 なのでベロス、あまりヘソを曲げないで下さい」
「………はぁ、分かったわよ」
セレスには一体長年の間なにを経験したのか聞いてみたい所でもあったが、どうせ「刀を愛でていた」の一言が帰って来そうなので止めておく。
それにしても吸血鬼か……やっぱり強そうだよな。 俺は、武器としては騎士から貰ったサビサビの剣と足洗いソープを持っているけど戦力外認定するしかないだろう。
よって自分への期待は皆無だ。
じゃあセレスはどうだろうか。 どうやら過去に白竜という名のモンスターを倒したらしいし、下手すりゃ期待できるんじゃないのか?
………いやないな、どうせ血を吐いて倒れるのがオチだろう。
よってセレスへの期待は皆無。
残るはケルベロスか………
よって皆無。
おいおいまてまて!!
いよいよ、本当にやばくないか!?
こんな状況でどうやって吸血鬼と戦えっていうんだよ!?
頭を抱える俺の思考を知ってか、セレスが宥めるように俺の肩に手を置いた。
「裕也、心配は無用ですよ。 吸血鬼なんて出てきてもこの私が刀のサビにしてやります」
「………どの口が言ってるのよ、それ」
「おい、このケルベロスが呆れる程だぞ。自分がどういう状況に陥っているのか分かってんのか、お前」
「ねぇ、なんか私今小馬鹿にされなかった?」
そんな俺達の言葉にセレスは焦ったように視線を巡らせると、やがてコホンと誤魔化すように咳をした。
「そ、それはその……吐血さえしなければ大丈夫です。 私はここぞという時に運が強いタイプなので」
「ついでに刀を鞘から抜いて吐血しなかった事ってあるのか?」
「今までに五百回ほど抜いてきましたが、過去一回だけしか成功していません」
「だろうと思ったよ……おい地獄の番人さん、お前は何か吸血鬼に勝てる案はないのか?」
「そんな事よりまずは吸血鬼を見つけられるかどうかが問題よ。 そんなのは対峙してから決めればいいんじゃない?」
肩を竦めながら珍しくまともな事を言うケルベロス。 確かに一理ある。
百聞は一見に如かずとも言うし、考えていてもいざその状況になったら思い通りに動く事なんて出来ないだろう。
とすると残る問題は……
「なぁ、吸血鬼って本当にここに居るのか? この洞窟あまりにもシーンとしてるぞ」
「シーンとしてるからこそ居るんですよ。本来なら洞窟といえばモンスターの溜まり場になっている様な場所です、それが今は一匹も出て来ません。多分吸血鬼がこの洞窟にやって来た事によってモンスターが逃げ出したと考えていいでしょう」
「他のモンスターが逃げ出すほどその吸血鬼ってのはヤバいんだよな?」
「私も相手にした事はないから分からないですけど、相当に強いと聞いた事はあります」
「…………はぁ、帰りたい」
「ねぇねぇ裕也」
ケルベロスは盛大なため息を吐きながら肩を落とす俺の服を引っ張る。
「なんかあそこに人影みたいのが見えたんだけど」
「………人影?」
そう言われてケルベロスの指を指す方を注視すると、どうにもこちらに歩いてくる人影が見える。
松明で辺りを照らしているとはいえやはり薄暗く、その相貌までは確認できない。
「ななな、なんか近づいて来てませんか!? アレは俗に言う幽霊とかその類のものですか!?」
「……セレス? さっきまで落ち着いてたのに急にどうしたのよ?」
「私、幽霊とかアンデットとか無理なんです!! アンデットはともかく幽霊とか実態がないじゃないですか!? 攻撃もなにも当たらないんですよ!?」
「いや、どうせお前はどんなモンスターに対しても剣を抜けば吐血して倒れるんだから攻撃する事すら不可能だろ」
明らかに焦燥するセレスを相手に俺はジト目を送る。
おいおい、さっきまでの威勢はどうしたんですかセレスさん。 なんなら貴方さっき刀のサビにするとか何とか言っていましたよね?
「見て裕也、なんかあの人影立ち止まったわよ? もしかして吸血鬼?」
「その可能性は十分にあるな」
俺は息を呑みながらゆっくりと松明を人影の方に向けた。 すると、先程まで見えなかったその影の全体が明かりに照らされてハッキリと見える様になった。
なんと、そこにいたのは豪華な黒いドレスを纏った美少女だった。
うっすらと光を帯びる金色の髪に透き通る様な真っ白な肌。 こちらを見る禍々しい紫色の瞳は警戒をしているのか細められている。
「私の拠点に何の用だ人間」
そう言い放つ彼女の手には漆黒の弓矢が握られていた。
…………これは、吸血鬼で間違いないよな?
マジかよッ!! なんか滅茶苦茶強そうな雰囲気をか持ち出してるぞコイツ!!
完全にビビっている俺の肩を叩き、ケルベロスは耳打ちをしてくる。
「なんかあの子いかにも自分は大物だって感じを出してるけど手がめっちゃ震えてない? 多分あの吸血鬼ただの雑魚よ」
「なに言ってんだよそんな事は………あ、本当だ、めっちゃ震えてる!!」
「ふ、震えてなどいない!! なにを言っている人間め!!」
「いや、そんなガクガクしながら言われても……」
もしや、コイツは本当にケルベロスが言う通りで弱いのだろうか。 しかしあまりにも情報が少な過ぎる、こんな状況で下手に手は出さない方がいいだろう。
そんな事を考えていると、セレスが勢いよく吸血鬼に向かって走り出した。
「やっと見つけました吸血鬼!! 即座に私の刀のサビにしてやります!!」
「おいセレス!! お前が行っても何にも意味ねぇだろ!! すぐに帰ってこい、死ぬぞ!!」
「心配無用です!! うおおおぉぉー!!!」
いつでも抜刀できる様に刀に手を置きながら走るセレスに吸血鬼が弓を放った。
そして、放たれた弓はセレスのすぐ後ろの地面に突き刺る。
まさか、外したのか?
唖然としていると、真横でケルベロスが腹を抱えて大笑いを始める。
「見た裕也!? あの吸血鬼ドヤ顏で弓矢撃って完全に外してるんですけど!? ちょーウケる!!」
「おい、あんまり馬鹿にしたら吸血鬼が可哀想だろ」
「分かってるけど、でも………ブフッ!!」
余程ツボに入ったのか吹き出すケルベロスを前に呆れていると、俺達の会話が聞いた吸血鬼が不敵に笑った。
なんだ、あの意味ありげな笑みは。
往々にしてこういった場面でああいう意味深な笑みを浮かべる奴は、目前の敵に対する勝利の確信をしている時だ。
何か嫌な予感がする。
「セレス!! 一旦止まれ!!」
「なんでですか?」
「もう遅い!!」
そう呟く吸血鬼はどんな原理があるのわからないが、一瞬で先程矢が刺さったセレスの真後ろまで移動すると、セレスの背中に回し蹴りをお見舞いした。
「ゔっ!!!」
その威力は相当に強力な様で、セレスは呻き声を上げながら吹っ飛ばされた。
「大丈夫かセレスッ!!」
声を掛けるものの、彼女の意識は刈り取られた様で返事がない。
クソッ!! そもそもアイツの力なんて期待してなかったけどどうする!? 何か勝つ手はないのか? このままじゃ確実に全滅させられる!!
必死に手段を考えていると、吸血鬼が颯爽と地面に突き刺さった矢を引き抜いた後に金色の髪を払った。
「私の名はベルセルク、見ての通り吸血鬼だ。 これ以上仲間を失いたくないなら早々にこの洞窟から立ち去って欲しい」
「嫌よ、ここで逃げたら私達ギルドからお金貰えないじゃない!! 貴方には大人しくやられて貰うわ、吸血鬼!!」
「このバカッ!! お前なに言ってくれちゃってんの!? この状況で啖呵を切るとかなに考えてんだよ本当に!!」
「別にいいじゃない!! つまりぶっ殺せば何も問題は無いんでしょ?」
「お前の使えないナイフじゃそれが出来ないから言ってんだよ!! むしろそんな事したら昨日のスライムみたいにパワーアップしちまうだろうが!!」
「くっ、反論できないわね……でもここで逃げたら魔犬ケルベロスの名が廃るのよ!!」
「おいケルベロスッ!!」
俺の制止も聞かずにケルベロスはベルセルクに向かって疾走する。 途中で先程セレスの時にもした様にベルセルクが矢を放ったが、ケルベロスはその矢を当たり前の様にナイフで弾き飛ばす。
「なっ!?!?」
「オラオラ覚悟しなさい吸血鬼!! 私がすぐにアンタを二百万ペールに換金してあげるわ!!」
矢を弾かれた吸血鬼は目を見開いて冷や汗を流した。
おぉ、アイツやる時はやるんだな。
少し見直したのも束の間、ケルベロスは地面からニョキっと飛び出す石に躓いて派手に転倒する。 その際にご自慢のブラックナイフはどこかへ吹っ飛んでいった。
やっぱダメだアイツ。
「ぎゃーーッ!! 痛いちょー痛い!! 今メキッて鳴ったー!! 人から鳴っちゃいけない音が鳴ったーー!!」
「お前って本当に残念な奴だよな……」
吸血鬼は何故か叫び声を上げながら地面を転げ回るケルベロスに攻撃するでもなく焦った様子で先程吹き飛ばされた矢を回収しに行く。
普通だったら現在隙だらけのケルベロスに攻撃をすると思うのだが、何故矢の回収を優先したんだ?
…………まさか、あの吸血鬼は矢のストックが一本しかないのか? だとしたらあの瞬間移動は矢を回収しない限り使えない筈だから矢さえ奪えばコッチの勝ちじゃん!!
矢を奪ったらその場でこっちまで瞬間移動されてセレスの様に蹴り飛ばされる可能性はあるが、現在吸血鬼が矢を回収するにあたって瞬間移動を使っていな事を考えると、あの瞬間移動には何かしらの条件がありそうだ。
恐らくケルベロスの時とセレスの時の状況の違いは矢がどこかに刺さっているか刺さってないかだ。
ケルベロスに吹き飛ばされた矢は宙を舞って地面に刺さる事なく落ちていた。
つまり、ベルセルクは矢がどこかに刺さらなければ瞬間移動を使えない訳だ!!
どうよこの俺の三毛猫もビックリの名推理は!!
対処法が分かった俺はケルベロスに伝えようとすると突然肩の方に電流の様な鋭い痛みが走った。
痛みに顔を歪めながら肩を見ると、先程ケルベロスが転んだ際に吹っ飛んだブラックナイフが刺さっていた。
……………うそやん。
「おい犬、お前のナイフが俺の肩に刺さってるんだけど。 これヤバくないか?」
「それはヤバいわね」
「だろ? どうすんだコレ、なんか刺さったところから皮膚がドス黒くなってんてんだけど」
「………一回死ぬしかないわね。だ、大丈夫よちゃんと生き返るから!! ね!?」
「大丈夫じゃねぇ!! 嫌だ、こんな理由で死にたくない!! お前は死んだ事がないからそんな事が言えるんだ!! 死ぬのって滅茶苦茶痛いんだぞ!?」
「お前達さっきから一体何をやっているんだ?」
さしもの吸血鬼も事態の深刻さに心配しながら近づいてくる。 意外と優しいんですね、ベルセルクさん。
しかし俺はそんな事構う余裕などない。
刻一刻と俺の視界はボヤけてきている。
………あ、ダメだ、もう死ぬ。
最後にこちらを心配する吸血鬼と冷や汗を流しながら気まずそうに後頭部を掻くケルベロスの姿を眺めながら俺の意識は途切れた。




