〜第8話〜 いまどき流行りの討伐クエスト
物語の前に少し失礼します。 辰太郎です。
もしこの作品に対してもう少し一話ずつの文字数を増やした方が読みやすいとか、その逆とか、その他諸々の意見があったら気兼ねなくレビューに書いてください。
そういった言葉や意見をしっかり取り入れて理想の物語を書きたいと思っていますので!!
それでは第八話、楽しんで見てくれたら幸いです。
片付けがひと段落つく頃にはすでに日が暮れており、せっかくお風呂に入ったというのに俺達は汗だくだった。
俺とセレスは机に突っ伏し、ケルベロスに至っては先程から気分が悪いと何度もトイレで吐いていた。
「………やっと終わった」
「そうですね、我が店ながらゴミの量には驚愕しました」
それもそのはず、店の前に積み上げられたゴミの量が俺達がどれ程片付けに奮闘していたかを物語っている。
「もう、汗が凄いんだけど。 せっかく今日はお風呂に入ってゆっくり寝ようと思ったのに、裕也が今から片付けるとか言うから」
「じゃあお前ゴミを敷布団にして寝たかったのか?」
「それは………確かに嫌ね」
「だろ?」
「だからお二人共少しばかり酷くはありませんか!? 一応私もレディなんで、そんなゴミゴミ言われるとショックを受けるんですが」
いや、どう考えても事実を言っているだけだろ。 それに酷いのは俺達じゃなくてここまでゴミを放置し続けた貴方のの非常識的判断ですから。
「外も暗くなってきたわね、今日はもう寝ようよ」
「そうですね。一応二人共片付けをしたので場所は知ってると思いますけど、寝室は二階にあります」
二人の会話を聞きながら二階に上がって行く俺は一つの疑問が浮かび上がる。
そういえばさっき二階を片付けていたから知っているが、三人で寝られる程のスペースってなかったよな?
厳密に言うと、無理をすれば入るのだが、逆に無理をする程接近しなければ睡眠が出来ないという事だ。
それは少しばかりマズイのでは?
そんな俺の考えもいざ知らず、セレスは一枚の大きい敷布団をバサァッと広げ、寝転がる。 ケルベロスも時を同じくして布団で横になると、立ち竦む俺に視線を送ってくる。
「……裕也は寝ないの?」
「いや、なんか色々とマズイだろそれは」
「なんでよ?」
「私は全然構いませんが?」
「いや構えよ!! 絶対的にありえないけど万が一の事があったらどうすんだ!?」
声を荒げる俺の反応を見たケルベロスが馬鹿にしたように笑い、口元を抑えた。
「あれあれ、まさか裕也さん照れてるんですか? 照れるって事は何かを想像した訳ですよね? まったく、これだから盛りのついた若者は困るのよ」
「盛り…………」
こちらを煽ってくる犬の言葉にセレスは少しだけ頬を紅潮させる。
ふっ、哀れな犬め。
どうせ俺がここで一緒に寝るだのと言ったら「なに、本当は一緒に寝たいだけなんでしょ?」なんてふざけた事を言い出すんだろう?
しかし残念だったな、俺はそんなトラップに引っかかる馬鹿系主人公とは一味も二味も違うのだ。
常に先を見越して行動する……うむ、なんて完璧なんだ。
俺はここぞと愛想笑いを浮かべて、
「あー、確かにそうだよね、うんうん。 って訳で盛りのついた若者は危険だから一緒に寝る事は出来ないね。 だからお前ら二人共下で寝ろ」
「はぁ!? そんなの嫌に決まってるじゃない!! 私は今日粘液生物の所為で疲れたの、とてもとても疲れたの。だから柔らかい布団が必要なのよ」
「疲れただぁ? お前等がやってた事なんてスライムに吹き飛ばされてただけだろ!! そんな何も貢献していない奴が布団を使う資格なんて無いんだよ!!」
「なによ!? 裕也なんか私を犠牲にして逃げてたじゃない!! そんな性格してるからドブに落ちたお金拾おうとして死んじゃうのよ!!」
何だとこのワン公め、俺に一番言ってはならない事を言いやがったな!!
「ほっとけ犬ベロス!! お金っていうのは本来なドブ川に落ちてはいけない尊き存在なんだぞ!? どこぞの馬鹿は使えない刀一つにつぎ込んだらしいが 」
「今犬ベロスっていたわね!? それじゃあなんか私が犬の舌みたいになっちゃってるじゃない!! それと刀にお金をつぎ込んだ貧乏馬鹿の話なんて今はどうでもいいでしょ!!」
「ちょっと!? 二人共半ば巻き込む形で私も貶すのやめて下さいよ!! それに元はと言えばここは私の店なんですから自重してください!!」
バンッと床を叩くセレスの言っている事は何処までも正論で、俺たち二人は押し黙る。
な、なにも言えねぇ………
そんな俺達の様子を見たセレスはふぅ、と息を吐いて一階に続く階段を指差した。
「私とベロスは一緒に寝ます。 もう裕也は一階のソファとかで寝てて下さい」
「え………あ、はい」
「ププッ追い出されてやんの!! 超ウケるんだけど!!」
「そうやって煽るならベロスには外で寝て貰いますよ?」
「あ、いや、ごめん」
ギロリと睨みを利かされてケルベロスは押し黙った。
因果応報というやつだアホ犬め。
すぐにでも高笑いをしたい気分だったが、現在絶賛お怒り中のセレスに咎められそうなので何とか堪える。
ともあれ追い出される形となって一階に行かされた俺は大人しく客待ち用のソファに寝転がる。
客待ち用のソファを置いたとしても客が来ないのだから意味が無いだろうに……
そんな事を思いながら俺は瞳を閉じた。
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朝になり、窓から差し込む光が俺の顔を照らして寝苦しさを感じていた頃。
突如としてノックと共に店の扉が開かれた。
その音で驚いて飛び起きた俺は寝起きて霞む視界で目の前に立つ人影を見やる。
「ここは便利屋で合っていますか?」
「ほぇ、あぁ、まぁ合ってると思いますよ」
ぼんやりとした頭で返答する。
よく見ると、目の前に立っていたのは眼鏡をかけた出来る秘書って感じの女の人だった。
彼女はこれまたビジネスライク風な女上司風に眼鏡をクイっと上げる。
「私はこの町のギルドで受付をやっているルーシュと言います。 今回はギルド本部に変わって過去に白竜を倒したというセレスティーナさんに依頼を申し込みに来ました」
「へぇ、あいつギルドから直接依頼が来る程に有名なんだな」
「そりゃあの白竜を倒した人ですからね。 今回の依頼なんですが……その………」
ルーシュさんは少しだけ言いにくそうに視線を逸らしながら、
「最近まで絶滅したと思われていた吸血鬼が再び復活したようなので討伐をしていただきたいんですよ」
「………吸血鬼?」
吸血鬼ってアレだよな、血を吸ったり仲間増やしたり魅力したりの奴だよな?
そんでもってどうせめちゃめちゃ強いんだろ? それならこんな足洗いソープしか使えない俺と、その他二人の雑魚パーティでどうにかできる問題ではない。
「ギルドって冒険者とか沢山いるんですよね? それならならそっちに頼めばいいんじゃないですかね」
「それが、クエストとして張り出しても冒険者の方々が吸血鬼に恐れて誰も受注しないんです」
「お断りします」
それを聞いた俺は悩む事なく言い放つ。
ギルドとなればそれなりに腕利きの冒険者が何人かいる筈だ、それなのに誰も受注しないとなると、相当に危険な依頼なのだろう。
しかしそんな俺の考えを読み取ってか、ルーシュさんはクエストの受注用紙を俺の目の前に出した。
「成功した報酬には二百万ペールが貰えます。 悪くない話だとは思うんですが」
「それってどんぐらい凄いお金なの?」
「豪邸が建っちゃいます」
「それマジですか!?」
「マジです」
豪邸だと!?
そのぐらい凄い額ならこの世界で豪遊もできるだろうし、好きな物を食べられる。
けれど、それも命あって初めて感じられる幸せだ。 それならどちらを取るかは明白な筈だ。
俺はルーシュさんに向き直って再び断ろうとすると、階段から寝巻き姿のセレスが現れる。
「話は聞かせて貰いました。 その依頼を受けましょう」
「はぁ!? おまっ、アホなの!?」
「この私が居るから大丈夫です。 大船に乗った気分でいて下さい!!」
「どこが大丈夫なんだよ、その船絶対穴だらけですぐに沈むだろ!! それにセレス、確かにお前が貧乏なのは知ってる。 でもだからって必ず命を落とすと知っていながら金を手に入れようとするのは間違ってるぞ?」
真剣に宥める俺の言葉にセレスは不機嫌そうにプクッと白い頬を膨らませた。
「失礼な!! ただお金が欲しくて承諾した訳じゃありませんよ、私にだってちゃんと考えがあります」
「なんだよ?」
セレスはジト目を作って問う俺に近づいてきて小さい声で耳打ちをしてくる。
「前々から気に入らなかったギルドからお金をふんだくる事ができるんですよ? あいつらギルドの連中はただ座ってクエストを冒険者に紹介するだけでどれだけの報酬を差っ引いてるか分かります? 半分ですよ半分!! そんな人生舐めきった様な連中からこれ程の金を取れるチャンスなんて早々にありません」
「お、おう」
恐らく前に何かギルド絡みで辛い過去があったのだろう。 だからコイツは冒険者をせずにこんな便利屋なんかを開いて日々苦しい中で生活をしているのか。
「んで、もし仮に討伐を成功させてお金を貰ったらどうするんだ?」
「そりゃ決まってますよ。 報酬全ての二百万ペールを私のブラックソードに………」
「却下だ。 お前もう黙ってろ」
「………酷い」
「あの、もう相談は終わりましたか? 出来れば早めに返事を頂きたいのですが」
俺達の会話を呆れ顔で聞いていたルーシュさんがついにしびれを切らした。
ここまで待たせて悪いが答えはもう決まっている。 今回の依頼はハイリスクハイリターンではあるが、リスクの方が一回りも二回りも上回っている。 もう何かい回ってんだよってくらいに。
の
しかし、返事をしようとした俺を押しのけてセレスが答える。
「そのクエストを受けます!!」
「おい!!」
俺の制止も聞かずにセレスはルーシュさんから受注用紙を奪い取ってさっさとサインを済ませる。
あーもうどうすんだよ!!
どうなっても知らないぞ、マジで!!
「このクエストは受注者が用紙にサインをしてから三日間有効です。 もし仮に途中で断念したり、失敗したり、期限を過ぎたら契約違反のペナルティーとして五十万ペールを請求させて貰うので悪しからず」
「「ご、五十万ペールッッ!?!?」
「はい、左様ですが?」
俺達は綺麗にハモって驚愕する。
ルーシュさんから受注用紙を奪い取って確認すると、しっかりと契約事項にその記載は存在し、おまけに同意書にはセレスのサインがしてある。
「………おい、お前同書を見ないでサインするタイプのドアホだろ」
「いやー、その、ははは」
笑って誤魔化そうとするセレスは、やがて瞬時に引きつった表情に移り変わってルーシュさんに言い寄る。
「あの、それってやっぱりキャンセルとかってできるのですか?」
「いえ、もう既にクエストは始まってます。 今キャンセルをしたらその場でペナルティーの五十万ペールを頂く事になります」
「………裕也、どうしましょう?」
「俺に聞くな、俺は全くの無関係だ」
「あぁ!! 今逃げましたね!? そういうのは良くないと私は思います!!」
「だって事実だろ? お前が独断で勝手に決めたんだから全てお前の責任だ」
目の前で口喧嘩を始める俺達を遮ってルーシュさんが深々と頭を下げ始めた。
「では今回の依頼、よろしくお願いします。 一応クエストが成功したらギルドまでお越し下さい。もし失敗したら逃げても無駄なので私達の手を煩わす事なく、しっかりとギルドにお越し下さいね」
そう言って彼女は颯爽と店から外に出て行ってしまう。
「「……………」」
セレスは冷や汗をこれまでかと言う程に流しながら沈黙し、俺はそんな彼女をひたすら無心で眺めていた。
すると先程の騒ぎで目が覚めたケルベロスが眠たそうに目を擦りながら階段を下りて来くる。
「ふぁぁ、なに??二人共そんな暗い表情して何かあったの?」
能天気にそんな事を問うてくるケルベロスを一瞥して俺は深い溜息をつく。
………で、本当にどうすんだこの状況。




