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第3話 いまどき流行りのお姉さん







少し古びた個室で騎士はチェストを有象無象にあさりながら『あれぇー、どこいったっけな』などと呟く。


あれから、牢獄を出てここに連れられてきた俺は半眼を作ってそれを眺めていた。


チェストの中からホイホイ出てくるのはどれも古びた物ばかりでどうにも期待している物はなさそうだ。


「俺が騎士になったばかりの時に買ったショートソードがあった筈なんだが………お!! あったあった!」


そう言って取り出したのはもう劣化してサビまみれになった金属の棒だった。


「おい、もしかしてさっき言ってた装備ってそれなのか?」


「そうだけど………おぉ、アーマも見つかったぞ!! ほら!」


「ボロボロのじゅうたんみたいになってるじゃねぇかよ!! こんなん使えるか!!」


「なら装備なしで向かうのか?」


「うぐっ!!」


確かに無いよりはあった方がマシだが、これはあまりにも酷すぎる。


アーマは良しとしてもショートソードに至っては刺したり殴ったりにしか使えなさそうだ。


俺は溜息をついでにしぶしぶと装備を受け取って身につける。


ボロボロだというのにそれなりに着心地が良く、鏡を見るとそれなりに様になっていた。


「おい見ろよ犬!! なんか俺冒険者っぽくないか!?」


「主人公に襲いかかって返り討ちに遭う盗賊Bみたいな感じで凄く似合ってるわよ」


「脇役じゃねぇか!! なんならその後に俺出てくるモンスターの強さを表現するために殺されちゃったりする奴じゃん!!」


「そんな事より討伐するモンスターってどんな感じの奴なの?」


そんな事とはなんだ、こっちからした装備が似合ってるかどうかは死活問題なんだよ。


眉間にしわを寄せる俺をよそに騎士は少し言いにくそうにしながら口を開く。


「あー、そのなんだ。 簡単に言うとスライムだ」


「スライム?」


その単語が出た途端に何故かケルベロスは堰を切ったように走り出した。


「おまっ、なに逃げてんだよ!!」


「逃げるに決まってるじゃない!! あんたスライムがどういうモンスターか知ってんの!?」


「あのRPGゲームの初期に出てくる明らさまに弱そうな緑色のドロドロだろ?」


「はぁ!? あのねぇ、奴らは男には攻撃をせずに女に対してだけ攻撃をしてくるのよ!!」


ケルベロスは足を止めて拳を握りしめる。


「そしたらお前が囮になればいいじゃん。 その間に俺がなんとかすれば万事解決じゃん」


「嫌よ!! あいつらに捕まったら最後、思う存分好き放題されてあんな事やこんな事をされるのよ!!」


「……なるほど、いらないエロイベントが増える訳だ」


「ちょっと、いらないって何よ!! これ程まで美しい私のエロシーンよ!? 」


「いや、別にお前に色気とか求めてないから。 ってか下手すればスライムから女だと認識されない可能性もあるしな。 そしたら簡単じゃねぇか」


「んな訳ないでしょーが!! いいわよ、それならこの私がスライムから女だって認識される所を見てなさい!!」


このバカ、ちょろすぎる。

そんな事を考えていると、後ろから騎士が呆れ顔で近づいてくる。


「話は終わったか? それならもう必要なものは渡したんだからさっさと行ってくれ。 あらかた片付いたら町の騎士団に来てくれればいいから」


そう言って部屋を出て行く騎士と、鼻をフンスと鳴らしながら歩いて行くケルベロスの後ろについて行く。


やがて騎士を除いた俺達は町の近くの森に辿り着いた。


そんなに距離はないのだが、なんせ茨の道を突き進んだ為、体力が持ってかれる。


ケルベロスの方はどうやら基礎体力の方はしっかりとあるようで、余裕顔しながら前を歩いていた。


なんか悔しいな。 誰に負けてもいいけどコイツだけには何に対しても負けたくたい気持ちが働く。


「さぁ出てきなさいスライム!! 私がギッタンギッタンのケチョンケチョンにしてやるわ!!」


叫ぶも虚しく、アホな犬の周りにスライムは現れない。


「…………あれ?」


「ほら出てこねぇじゃねぇか!! やっぱお前スライムから男として認識されてんだよ!! さっきの騎士の話だとこの辺に女が来ると一瞬で襲われるらしいぞ?」


「そ、そんな事ないもん!! ちゃんと来るもん!!」


「いやいや、無理すんなって。 スライムに襲われるの嫌だったんだろ?」


「うぅ、嫌だけど………でも……でもぉ!!」


ついに彼女は涙目になりながら俯き始めてしまう。


まぁそうだろうな、俺がもし同じ立場だったら言い表しようのない切なさに襲われていた所だ。


ともあれ困ったな。

スライムが出てきてくれなければ俺達は牢獄から出る事が出来ない。 何かいい手は無いものか………


思考を巡らせていると、不意に後ろからちょんちょんと服を引っ張られる。


「なんだ犬、俺は今考え事をしてるんだよ」


「ふえ? 私ならここだけど?」


すぐ真横でケルベロスが目をパチパチ瞬かせている。


は? それなら今俺の服を引っ張ったのって?


恐る恐る俺達は後ろを振り向く、すると日本刀の様な物を装備した白髪の美女が立っていた。


「「うおぁぁっ!!!」」


「ごめん、驚かせちゃったみたいだね。 少し聞きたい事があって」


もうね、本当に美女だった。

ケルベロスは違って豊かな胸に、少し露出の高めでありながらもクールさを重視した装備。これは間違いないお姉さん系だ、しかもとびきりエッチィ感じの。


「この辺にスライムの討伐を任された二人組みが来ているからその人達の手助けをしろと豪勢な装備を付けた騎士から依頼されたんだけど、君達で合ってるかな?」


あの騎士、ズル賢そうな顔をしていたがそれなりにいい奴じゃないか。


こんなに美人で強そうな助っ人とか文句の付けようもないってもんだ。


美女を前に俺はとびきりの笑顔で対応する。


「いやぁ、助かります。 あなたの様な美人で強そうな人がが来てくれればもう百人力ですよ!!」


「そ、そっか、それなら良かった!! 邪険に扱われたらどうしようかと思ったよ」


「邪険に扱うだなんて滅相もない!! 一生大切にします!!」


「う、うん?」


意味が分からないのか首をかしげる女性の横でケルベロスがジト目を俺に向けている。


なんなんだよ、その何か言いたそうな目は。


「なんか私の時と全然対応違うんですけど」


「いや、当たり前だろ。 だってこの人美人で強そうで頭良さそうなんだもん」


「はぁぁ!? それじゃあ私がブスで弱そうでバカって事!? それを言うならアンタだってこの世界に足洗いソープを持ってきちゃう様なバカでしょ!?」


「黙れ、神様からおまけ扱いされたうえにスライムから男認定されたバカ犬め!!」


「何よさっきから私の事バカにして!! ぶっ殺すわよ!!」


「やってみろよ、どうせその剣じゃ殺しきれねぇだろ?」


「まぁまぁ二人共、そんなに喧嘩しないで」


ヒートアップする俺達の間にすかさず美女が止めに入る。


いや、もう本当にどこかのバカ犬と違って常識のある娘だ。


彼女はふぅ、と安堵の溜息をついて俺とケルベロスに向き直った。


「私の名前はセレスティーナ、長いからセレスって呼んでくれていいよ」


「俺は佐久間裕也だ、裕也って呼んでくれ」


「私は地獄の番人ケルベロス、呼びやすいように呼んでくれて構わないわ!! 分かったら跪きなさ、へぶぅ!! 痛ったいわね、何すんのよ!!」


「跪かせてどうするんだよ」


俺に後頭部を叩かれたケルベロスは不機嫌そうにこちらを睨む。


何がともあれ、セレスの助けはありがたい。

正直経験が皆無と言っていい程の俺がスライムに太刀打ちできるかどうかも不安だったしな。


まぁ、それでもたかがスライムだしな。

あんまり気負う事もないだろう。


俺はそんな悠長な事を考えながら二人を連れて森を歩き始めた。


















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