〜第10話〜いまどき流行りのクエスト達成
Pvの伸び次第で次辺りに最終話にしようと思っています。 良かったら第10話、楽しんで行って下さいね!!
俺は今、何故か川のほとりで立っていた。
ボーッとする頭で視線を巡らせると、何やら川の向こう側に見慣れた人影が手を振っている。
「おーい、裕也」
「…………はへ? じいちゃん!?」
俺は目の前の光景に驚嘆する。
そう、そこには俺が転生する前の小さい頃に亡くなったじいちゃんの姿だった。
ヤバいヤバいヤバいッ!!!!
これ俗に言う三途の川とかいう奴じゃないか!? 俺これ渡ったらまた死んであのナルシス神の所に送られるの!?
「おーい、裕也ー!! こっちゃあええぞ!! たまに飯を剥奪してくる女がいるけど、そんなに辛くない」
それ絶対ケルベロスの事だろッ!?
ってかじいちゃん地獄に堕ちてたのかよ、いったん何したんだ!?
とにかく逃げなければ!! あの川を渡ったらもう戻れない気がする!!
俺は手を振るじいちゃんに苦笑いを浮かべて踵を返すと、颯爽と走り出す。
しかし、目の前に突如として真っ白な腕がいくつも現れて俺の四肢を力強く掴んだ。
ちょ、なになに、コワッ!!
何だこのオカルトチックな腕は!?
「やめろ、俺はまた死にたくねぇー!!!! 何度も言うがキスだってした事ないんだぞ!?」
悲痛の叫び声を上げながらジタバタ暴れていると、突然にフッと身体が浮いた様な感覚に陥る。
………なんだ?
そんな疑問を抱いて間も無く、俺は息苦しさから解放され、瞳を開けて勢いよく飛び起きる。
全身を襲う倦怠感に包まれながら視線を巡らせると、ベルセルクと対峙するケルベロスの姿が見えた。
「か、帰ってこれたぁー………さっきはマジで終わったかと思ったぜ」
その途端に俺は感慨深い気持ちを胸に深い息を吐く。 そんな俺にケルベロスは少しだけ嬉しそうな顔をする。
「裕也!! どうだったのよ、二回目に死んだ感想は!?」
「聞くまでもないだろ!! 最悪だったよコンチクショウ!!」
「あはは………さっきはごめんってば」
声を荒げる俺にケルベロスは少しでも罪悪感を感じているのか、申し訳なさそうな笑顔を見せる。
ついでに、彼女は先程からベルセルクの攻撃をヒョイヒョイかわしながら俺と喋っていた。
時折ケルベロスはご自慢のブラックナイフで反撃をするが、ベルセルクもまたそれを上手く避ける。
「で、生き返ってすぐで悪いんだけどアンタも手伝いなさいよ!! この吸血鬼意外と素早くて攻撃が当たらないの!!」
「いや、俺が出来る事といえば足洗いソープをぶち撒けるぐらいなんだが……」
「心配いらないわよ!! アンタ一回私のナイフで殺されたんだからパワーアップしてるはず!!」
おぉ、なるほど!!
確かにアイツの剣で一回殺されたスライムは巨大化というパワーアップ効果を得ていた。
その理屈で言うなら俺も少しは強くなったりしてる筈だよな!? な!?
そう言えば身体も少しだけ軽くなったような気がするよ、うん。
いいね、盛り上がってきましたよ。 此処からが本当の異世界生活だ。 このパワーアップした俺の手に掛かれば吸血鬼なんてイチコロだぜ!!
「………フッ、しょうがねぇな。 手を貸してやるよ」
「そんな所でカッコつけてないで早く手伝いなさい………ってちょ、今はタンマ!! ぐへぇッ!!」
最大級にカッコをつけながらサビサビのダサい剣を抜いている俺に気を取られたケルベロスは、ベルセルクからキツイ一撃を鳩尾に食らってしゃがみ込んだ。
「うぅ、朝食べた野菜スープ出てきそう………」
それだけは断固としてやめて欲しい。
腹に蹴りを食らってゲロを吐く女の子なんて見たらトラウマになっちまうだろうが。
ベルセルクはそんな大変な状況に陥っているケルベロスを呆れた顔で見つめる。
「もうこれ以上はやめておけ。 そっちだってあまり犠牲を増やしたくないだろ?」
「それはこのパワーアップした俺を倒してから言うんだな」
「なに?」
俺の言葉にベルセルクは訝しげな視線を向ける。 正直に言おう、この時の俺は完全に浮足立っていた。
実力のあると思い込んだ奴の誰しもが経験する例のアレだ、中二病ってヤツだ。
「大丈夫、手加減はしてやるさ。 じゃあ行くぞ吸血鬼ッ!! うぉぉぉおおおッ!!!!!」
ベルセルクは錆びた剣を片手に突っ走る俺を簡単にかわし、お土産だと言わんばかりの顔で回し蹴りをお見舞いされる。
「ふんぎゃッ!!!!」
モロにそれを食らった俺はえげつない程にカッコ悪い声を上げながら吹き飛ばされる。
一メーター程吹き飛んだ俺は地面をゴロゴロと転がってケルベロスの前で停止する。
ぬぐぅあーーーッ!! いってえぇーーー!!
あ、これダメなやつだよ、本当に痛いやつだよ!!
「あ、すまない。 警戒して力を入れ過ぎた」
敵に心配される程の勢いで地面をのたうち回る俺を見てケルベロスは盛大に吹き出した。
「ちょ、あんだけカッコつけて一瞬でやられた挙句に敵に心配されるとかイタ過ぎるんですけど!!」
「やめて、言わないで!! 俺だって今羞恥で死にたくなってるんだから!! ってか俺全然パワーアップしないじゃん!!」
「雑魚に雑魚を足したところで雑魚にしかならないって事が実証されたわね」
この犬、後で絶対吊るす。
しかしどうしたものか、これで完全にお手上げだ。 俺達は今この吸血鬼に対してまごう事なき完敗をした。
結果的に言えば、吸血鬼さんはあの弓矢を使って瞬間移動を出来るが、それが無かったにしても強かった訳だ。
けれど此処で引き下がるのも男として気が引けるというものだ。
よく考えてみろ、世の中には大切なものはあるだろう。 命と確固たるプライド、そのどちらを取るかを男として問われたのなら完全に答えなど決まっている。
俺は不敵に笑って立ち上がり、剣を片手にベルセルクの所までゆっくり歩いた。
「裕也? どこ行くのよ」
犬の言葉を無視して近づく俺にベルセルクは再び弓矢を構える。
そして、その動作を確認して剣を地面に向かってぶん投げた。
そう、こんな状況でする事といえば一つだけ!!
「すいませんでしたぁ!! どうか命だけはお助けください!!」
「ちょっと裕也さん!? そこはカッコよく勝てないと分かってても立ち向かうところじゃないの!? 何の文句もつけようの無い完璧な土下座に私今すっごく呆れてるんですけど!?」
「なぁケルベロス。 人という生き物はな、プライドや尊厳を捨ててまで守らなきゃいけない物があるんだ。 そう、それは命だ!!」
「なんか格好いい風に言ってるけど、今の裕也はカッコつけて敵にやられた挙句に命乞いしてる情けない奴よ?」
「……あ、ダメだ、唐突に死にたくなってきた」
いくら事実だからといって世の中には言っちゃいけない事といい事があるだろ………
ベルセルクはおもむろに肩を落とす俺の目の前まで歩いて来る。
「正しい選択だ。 命は取らないから早く私の根城から立ち去ってくれ」
「あ、ありがとうございます!!」
この吸血鬼やっぱり優しいな。
しかしこの感じは優しいというか何というか、そもそも敵意とか攻撃意欲がないようにも見える。 よくよく考えれば先に手を出したのは俺達だし………ひょっとしてこの吸血鬼、悪い奴じゃないんじゃないか?
「スキありッ!!」
「なっ!? 卑怯だぞ!!」
そんな事を考えていると、横で様子を見ていたケルベロスが素早くベルセルクの弓を奪った。
「そんな所で油断してる方が悪いのよ!!」
「か、返せ!! それは私の大切な物なんだ!!」
「敵に武器を渡す筈がないでしょーが!」
「くっ、なら力ずくで!!」
「今よセレスッ!!」
「了解ですっ!! 一撃でのされた私の悲しみと惨めさの詰まった渾身の一撃を喰らえっ!!」
「なんだとっ!? お前はさっき気絶させた筈だ!!」
ケルベロスの合図で倒れていたセレスが起き上がり、ベルセルクの背中に向けて納刀状態の刀を一振り。 ベルセルクはその衝撃で転倒し、目を回している。
「フッ、またつまらない敵を切ってしまいました」
「厳密に言うなら殴ってるけどな。 ってかお前そんなに強いならスライムの時もそうすれば良かったじゃん!!」
「何言ってるのよ裕也。 スライムには打撃耐性があって、それ系の攻撃は全く通じないのよ?」
「それならそうと早く言えよ!! そんな事も知らずに俺ずっと切れない剣で攻撃してたんだぞ!?」
「そんなのこの世界の常識ですよ?」
お前には分からないだろうけど俺はこの世界の常識を問われても分からないんだよ……
セレスに意味深な視線を送るが、やはり彼女は理解などせずに小首を傾げるだけだった。
ともあれ色々と納得できない部分はあるが、俺達は吸血鬼を無力化する事に成功した。