戦場は街
「オヤジ、こんな感じの武器は作れるか?」
「うーん、まあ、作れんことはないが、鍛冶屋と相談してからだな。少し時間はかかるぞ」
今、俺は武器屋に来ている。蟻討伐の臨時収入で武器を買うのだ。人は道具を使うから人なのだ、素手で戦う者など野蛮人ぐらいである。だが、俺の眼鏡にかなう物は売っていない。
――剣? インパクトに欠ける。
――斧? 脳筋のイメージだ。俺とは合わない。
――槍? 持ち運びが面倒だ。
――ナイフ? 殴った方がマシだ。
だが、俺は思い出す。俺にピッタリの武器が。ここにあるナマクラとは違う神々しく洗練されたあの武器が。ザクとは違うのだよザクとは!
武器屋のオヤジに製作依頼をだして、店を出る。店先ではブラドが待ち構えていた。
「待て言うたやろうが、勝手に出歩くな!」
こいつ、ギルドの支部長らしいが暇なのかな?
「武器の製作を依頼しに来ただけだ」
「アホか、1人で行くなっちゅう話や」
お? 第3ラウンド始めっか? やってやんよ?
「ほんで、お前用の武器はいつ出来るんや?」
「明日中には何とかなるらしい」
「そうか、ほんなら問題ないな」
何がだ? 何言ってんだコイツ?
「お前、ちょっと王都行ってこいや」
「嫌だな、面倒くせぇ。お前が行けよ」
「俺が行ってどうすんねん! 前にもちょろっと言うたと思うが、王都にもおるんよ、異世界人が。ほんで、王都には職種訓練所や魔術、技術の各研究所があんねん。異世界人のスキル、カードに書いてある固有技能な、この世界の人間とは全く違うモンらしいで?」
「スキル持っとるヤツ自体はそれなりにおるんやが、何ていうか、もうちょい、まともや。何やねん3分間皆殺して。レベル上がったら10分になるんか? アホか、余計タチが悪いわ。まあ、そんなはた迷惑なスキルでも研究所なら何とかなるかもしれん」
「お前みたいなアホはちょっと王都行って絞られてこいや。真人間になったら帰ってきてええで?」
まだだ、堪えろ、逃げちゃ駄目だ。明日だ、明日この馬鹿をブチ殺す。今回ばかりは天使と悪魔が全面協力してくれている。
俺は拳を握り締め、血を滲ませながら言う。
「……ああ、じゃあ明日の昼に向かうわ。どうやって行けばいい?」
「ほんまか! 一応、監視対象やから監視兼案内つけたるわ。明日の昼に街の門まで来さすから、よろしく頼むで」
俺は馬鹿と別れた後、店に戻る。あいつは監視と言いながら1人で帰って行った。やはり馬鹿だな。
武器屋のオヤジに更に金を積み、明日の昼までに仕上げてくれる様に頼む。オヤジは俺の尋常ならざる様子にイエスとだけ答えてくれた。ちなみにカードを確認すると、皆殺しがレベル2になっている。なるほど我慢しきれば、レベルがあがるのか。だが、こんなに苦しいのなら……こんなに悲しいのなら……スキルなどいらぬ!!
俺は眠れぬ夜を過ごし、朝から旅の用意をする。昼になり門に行けば、以前、酒場で揉めていた3人のゴロツキがいる。こいつ等が案内役か。3人にすぐ出発出来る様、準備しておく事を伝えると、武器屋に向かう。
出来ている。なかなか満足な仕上がりだ。オヤジに感謝を伝えると、そのままギルドへと向かう――
「何か、嫌な予感がすんねんけど……」
――あのアホがこのまま、すんなり旅立つとは思えん。
と、その時、支部長室のドアが吹き飛んだ。そこに立っていたのは、人を痛めつける為だけに作られた様な禍々しいモノを持った、狂戦士だった。
王都に向かう街道で、
「ヤマダさん、何スか、……それ?」
ゴロツキの1人が俺が手にしているモノを見ながら尋ねる。
「ああ、これか? これは俺の国で一番ポピュラーな武器、所謂『釘バット』だ」
切る、殴る、抉るの3拍子そろった優れものだ。
馬鹿には一発も当たらなかったが、釘バットの出す神々しいオーラに気を取られて、腹に蹴りを受け吹き飛んで行ったわ。大満足である。
こうして、俺は王都に向かうのだった――