森脱出作戦
「夜も更けてるから、今から森を歩くのは賢くないわね」
と言うこの女性は、アンジェ。栗色の髪を後ろで1つに束ね、ブラウンの瞳を持つ14、5歳ぐらいの先程、緊縛プレイを楽しんでいたヤツだ。
可愛いか否かで言えば、可愛い方に入るだろう。だが、俺はロリコンではない。俺のストライクゾーンは下は20上は40と広めだ。これだけ広ければ日ハムのピッチャーも安心である。6回、3失点といったところか。
「しかし、アンタ見たことのない格好してるわね。何処から来たの? 王都? ああ、それと名前は?」
王都? 嘔吐? 何を言ってるんだコイツは? こんなに会話のキャッチボールが出来ないヤツは会ったことがない。
「俺は山田太郎、茨城から来た」
「チバラキ? 聞いたことないわね。何処よそこ」
お前は今、偉大なる2つの県を敵にまわしたぞ。
「それより、ここは何処なんだ? 俺の予想では群馬と栃木の県境あたりだと思っていたが……」
「グンマー? やっぱり聞いたことないわね。ここはワンコロ王国のシバ領よ。大陸の一番東ね。タロウは外陸の人なの?」
ワンコロ王国? 恐らくヨーロッパ辺りか……やはり俺の瞬間移動習得説が確信に変わってきたな。
「内も外もわからんが、気が付いたら草原で寝てた」
「はぁ、ますます意味わかんないわね。それよりもそこのホブゴブリン、タロウが倒したの?」
ゴブリン? 流石はヨーロッパ、こんなヤツもいるのか。
「ああ、勝手に絡んできて、勝手に死んだぞ」
この山田、流石の密室トリックの使い手。これでアリバイは完璧である。
「1人で来て、Bクラスの魔物倒すなんてかなり強いわね…… じゃあ、討伐証明の耳、持っていったら? ギルドで依頼でてたら報酬もらえるかもよ?」
解せぬ。勝手に死んだと言っているのに……
俺は、ホブゴブリンの耳を切り取……毟り取った。直後、偃月刀が視界に入る。なんとも形容し難い気分だ、これも貰っとくか……
「はぁ……まあいいわ。夜が明けたら森を出ましょ。陽が昇る方向で帰る方角は大体は掴めるわ」
「わかった。その前に何か食いモン持ってないか? 腹が減ったんだが……」
「私も突然捕まったから荷物もどうなったかわからないし…… ああ、毒キノコならその辺に生えてるかもよ?」
腹が減っているというのに毒キノコを薦めるとは、どういう了見だ。コイツが眠ったら口の中に毒キノコ詰め込んどいてやる。
そんなどうでもいいことを考えながら、俺は広場の真ん中で横になる。
「アンタ、よくそんなとこで寝れるわねぇ…… まあ、私はあんまり疲れてないから寝ずの番しとくわ。ただ、魔物が来たら何とかしてよ。私、戦闘得意じゃないから」
そんな台詞を子守唄に俺は眠りに落ちた。
――――ああ、久々に人と喋った気がする。
「――――さい」
ぬ?
「――きなさい」
何だ?
「はやく起きなさい!!」
目を覚ますと目の前にピンク色のキノコを持った女がいる。……誰だっけ?
「あんまり起きないから、口の中に毒キノコ詰め込んでやろうかと思ったわ」
なんてこと考えるヤツだ。親の顔が見てみたいぞ。
「さあ、街に帰るわよ」
こうして、ようやく俺は街へ踏み込むことになる――――