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山田と勇者2

 ――時はまさに世紀末 澱んだ街角で僕らは出会った。





「いやぁ、まさにカオス! 収拾つかねえなコレ」


 施設内では、勇者ハーレム、帝国兵対魔物で戦闘が起こっている。勇者が操っていた魔物、アイツ等に呪いの水晶を漬け込んだ酒を浴びせたら、何かテンション上がったらしく暴れ始めた。

 勇者も懸命に魔物を抑えようとしているが。なんせ数が数だ。そこに兵士が突っ込んで来たもんだから、まさに石を退けられた蟻の巣状態。俺? 施設の高台に上って、勇者が何かしようとするたび、石ぶつけて遊んでる。


『もう帰ろうぜ。これだけ滅茶苦茶やったら十分時間稼ぎになっただろ』


 いや、まだだ、まだ遊び足らんよ? 俺、アイツ等が涙目になるまでからかうんだ!


 しかし勇者のヤツ、完全に女に守られてるな。大体、4人パーティーで3人女ってどうよ? 2:2もしくは男3:女1ならわかるよ。前衛に女出すってどんな気分?


 近頃では猫も杓子も、やれハーレムだ、やれ獣耳奴隷だと騒いでいる。終いにはロボット娘まで出てくる始末だ。まあ100歩譲って……譲れねえな。ロボットは論外だ、生物ですらない。

 まずは奴隷だ。選択肢に奴隷が出てくることが驚きだ。今迄どんな環境で生活してきたんだ? 後、ハーレムな。20、30人囲ってるなら、間違いなくそれはハーレムだ。5、6人? それ5股6股じゃないの?

 男ってのは、いくら股かけても必ず本命が1人いるもんだ。みんな同じぐらい好きというのは幻想だ。それに若いうちはまだいい、年食って50代ぐらいになっても今と同じ関係続けられるか? 想像してみろ。痛いじゃない、激痛だ。

 ハーレム系主人公って、ただの優柔不断だよな? それに魅力を感じてる女もどうよ? そんなくだらないことを考えていると、俺に向かって火の玉が飛んできた。何てことしやがる! ゴブリンぶつけんぞ!!


「降りて来い! 卑怯者がっ!!」


 叫ぶ前に、勝手に上って来いよ。それに1対何だよ? お前等にとって、正義の戦い方って何なのか教えて欲しいもんだ。

 はっきり言って、降りて行ってもいい。コイツ等如きじゃ相手にならんだろう。だが、それじゃあつまらない。楽しさを提供するのが、芸人としての宿命。ならば『房総半島の道化師』と呼ばれて久しい、この山田。皆を享楽の海に沈めてみせようぞ!

 先程、都合よく撒いた酒。先程、都合よく飛んできた火の玉。今、都合よく俺の後ろの木箱に燃え移り、燃え盛っている。ここまで揃えば投げ込むしかないだろう。燃え盛る木箱の木片を取り、渦中に投げ込もうとするが、勇者が血相を変えて何か叫んでいる。


「そんなもの投げようとするな! ここが火事になれば君もタダじゃ済まないぞ!!」


 だったら先に俺に火の玉打ってきた隣の馬鹿女を注意しろよ。だが俺も『乙女座シャカが歩いてると思ったら山田だった』とまで言われた男。人の嫌がることを進んでするのは、甚だ不本意である。


「まずはその火を消してくれ!」


 消せと言われても、消火道具なんか持ってない。水でもかけたら消火出来るだろうが、水はない。唾でも無理だろう。諦めよう。


「布か何かで叩いて消せ! 早くしろ!!」


 何という余裕のなさ。人間余裕がないと大概悪い結果へと繋がる。人生、心に余裕を持って生きるからこそ、人に対する優しさが生まれるのだ。まったくさもしいヤツよ。


『真後ろで火事になってるのに、そこまで余裕持ってるお前のほうが気持ち悪ぃよ』


 口の悪いガラクタだ。だが、見渡す限り布などない。『布はなくても拳があるじゃないか』俺の中のリトル山田が答えを導き出す。なるほど、拳圧から生まれる衝撃波で火を消せってことだな? まかせろ!


「我が目前に盛る悪しき炎よ、神の息吹により消え失せよ!」


『それ、いちいち言わないと駄目な縛りでもあるのか?』


 まあ結果はご覧の通り、衝撃波どうこうの前に拳が木箱に届き、砕け散った木片と火はそこいらに燃え移った。俺は悪くない。指示の出し方が悪い。


「駄目だ! アイツに頼むと状況が悪化する! 氷か水の魔術で何とかならないか!?」


「わかりました! やってみます!!」


 勇者が隣の魔女っ子に頼み、魔女っ子が空に魔方陣を書き上げると、100本近い氷の矢が空中に作られた。手を前に掲げると矢は真っ直ぐに炎へと突き進む。


「愚かなり! それしきの矮小なツララで、この山田の牙城、崩せると思うな!!」


 金砕棒を振るい、打ち出されるすべての矢を叩き落す。それしきの矢、物の数ではないわ!

 さあ、バッチこい! この山田から三振取れるのは、また太ったんじゃね? と言われる巨人の抑えか、大体2回で燃え上がる日ハムのハンカチだけだ!!


「ウガァァァァッ!! 何で邪魔するんだ! 邪魔してお前に何の得があるんだよ!! 絶対殺してやる! そこから降りて来い!! 何踊ってるんだ! 踊ってんじゃねェェェェッ!!」 


「さ、サトウさまっ! 落ち着いてくださいっ!!」


 ふふん、この俺の反復横跳びディフェンスを抜けるものなら抜いてみよ! すべて叩き落してくれるわ!!


 だが、俺の視界に小さく動くモノが入る。そう、ネズミだ。ネズミ達は燃え盛る炎に囲まれ逃げ場を失っている。そして、この山田には彼等を救う責務がある!


「待ってろ、ネズミさん! お前達の血路、この俺が切り開く!!」









 あの男は炎の中に飛び込んだかと思うと、頭上で金棒をグルグル回転させて、炎をすべて巻き上げた。その後、勢いのまま施設の壁に大穴を開けて、多くのネズミと去って行った。


「サトウさまっ! お怪我はありませんか!」


「何なんだ、あの馬鹿は……あんなヤツ、もう二度と関わりたくない」


 あんなヤツにまた遭わなきゃならないんだったら、もう勇者なんか辞めてやる――

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