山田と勇者
潜入には多少トラブルもあったが、概ね成功と言ってもいいだろう。施設内には数多く色々な種類の武器、防具が保管されている。
内部には、まだ兵士が巡回しているが、後は壊しまくるだけだ。さっさと撤収すればいいんだから、暴れ回っても問題はない。だが、やけに大きな南京錠で厳重な警備が施されている、奥の扉。あそこが気になるのだ。
『動く好奇心』との呼び声高き、この山田。ガイアもあそこに行けと囁いている。このビッグウェーブに乗るしかない!
「どけ、虫ケラ共が! 我が好奇心を満たす糧となれい!!」
扉の前にいる兵士を片手で薙ぎ倒すと、扉を無理矢理開け中に入る。施錠? 愚か者が! 聖帝を止める理由にならんわ!!
『気持ちいいぐらい、今迄の作戦台無しにするな』
扉の奥は見渡す限りの檻、檻、檻…………だが、中に入っているのは人でも動物でもなく魔物だ。それに、どいつもこいつも焦点の合っていない、虚ろな目をしている。まさか……!?
今、この山田に愛という名の燃料が注入された。後は悲しみのプラグが涙の火を飛ばせば、憤怒のエンジンが動き出す。
「……許さん、絶対に許さんぞ! 悪徳ブリーダーめ!!」
昨今、問題になっている不衛生、ずさんな体調管理、まさに動物虐待ここに極まれり! よかろう、輝きを失った動物達の慟哭、その命の灯火。この山田の怒りの炎にくべようぞ!!
「お前達、すぐに解放してやるからな!」
『いや、感極まってるとこ申し訳ないが、アレ魔物だぞ?』
この程度の鉄格子など、この聖帝ダーヤマにかかれば、針金も同然よ! 鍵? そんな食べ物、我は知らぬわ!!
む? 何やら様子がおかしいな。この魔物共、開放してやったにも関わらず、いっこうに檻から出ようとしない。普通なら自由になった途端、アホ面して襲い掛かってくるもんだ。掛かってきたら叩き潰すが、ピクリとも動かない。まさか……!?
「不覚! 睡眠中だったか!」『魔物の瘴気を感じねえな、操られてんなコイツ等』
やはり、この名探偵山田の推測通りコイツ等は操られている。悪しきことを企む輩がいれば、明るみへ引き摺り出すが探偵としての運命。よかろう、その機謀建略を尽くした挑戦、この山田しかと受け止めた!!
「君は此処で何をしているんだ!!」
ッチ、うっせーな、と思いながら、声のするほうへ視線をやる。そこには先頭に男1人その後ろに女3人の姿が確認出来た。
後ろの女3人、剣を構えた鎧姿、手甲を着けた武闘派スタイル、片手に杖を持った魔術アピール、それぞれが敵意をこちらに向けている。やはり男の趣味なのか、顔とスタイルはハイレベルだ。まあ、そんなモノは正直どうでもいい。問題は先頭の男だ。
なかなかの優男の顔立ちに、装飾付けすぎてかえって使いにくいであろう剣を構え、苛つくぐらい辺りの光を反射する白銀の鎧を着込んでいる。お前、本当にその格好で戦場出るんだな? サバンナでも同じこと言えるんだな?
「君は何者だ! 此処で何をしていると聞いている!!」
「人に名前を尋ねるときは、まず自分から名乗れ」
まったく、社会のルールも知らんとは、今迄何して生きてきたんだ。それぐらいゴブリンでも知ってるぞ。
「ふん、君のような下衆に名乗る必要もないが……私は勇者サトウ、帝国の勇者サトウ・イチローだ!」
「おう、そうか。じゃあな」
何だ、この香ばしい馬鹿は。勇者って自分から名乗るものか? この手のタイプは構っちゃ駄目だ。まず、全てにおいて自分が正しいと信じて止まない。正義感が滲み出すぎて苛つく。
例えば喫煙スペースでタバコを吸ってると、ちょっと離れたとこでこれ見よがしに咳き込んだり、マスクしたりするヤツ。いや、お前がどっか行けよ? と思うぐらいだが、稀に「煙がこっちに来てるんですが」と注意しに来るヤツがいる。そんなモン知らねえよ、建物作ったヤツに言え馬鹿が!
自分が迷惑に思うことが全ての人間が迷惑に思ってることに直結するのだ。喫煙者は一方的に悪なのだ、そこが感じている迷惑には思いつきもしない。
「待て! 私は名乗ったぞ、次は君だ!!」
「ああ、俺か? 愛と勇気だけが友達のアンパンマンだ。じゃあな」
『もうコイツ放っとけよ。やることやって、さっさと帰ろうぜ』
同感だ。魔物も檻壊しても無反応だし、まあ檻と施設壊しながら帰るか……
「君は私と同じ日本人か?」
うむ、やはりこの鈴木さんちの奥さんに似たオークも無反応だな。何なんだコイツ等?
「私を無視するとは良い度胸だ。勇者の力、思い知らせてやる!」
何か自称勇者が突然キレだしたな。煽り耐性なさすぎだろ。しかも勇者の力とか言いながら4人に囲まれてるし。
言っちゃあ何だが、勇者とかヒーローって名乗る者には基本1対1で戦って欲しいよな。勇者も4、5人で魔王ボコる話だし、なんとか戦隊も大体5、6人で怪人1人をリンチする話だし。贔屓目に見てもアレ、巨大な悪対多数の悪意だよな。
「わかった、わかった。相手してやるよ。ちょっとその前に1つだけ聞いてくれ」
「……なんだ?」
「吹き飛べボケ!」
自称勇者サトウに向かい金砕棒を横薙ぎにする。サトウも瞬時に剣で受け止めたが、強度が違いすぎる。高そうな剣は真ん中でへし折れ、サトウは吹き飛んで行った。
女共は「サトウさまっ!!」と自称勇者に駆け寄ったり、俺に向かい「卑怯者っ!!」と言ったり、忙しないな。遊びってモンは普通の遊びより、犯罪スレスレのグレーゾーンのほうが楽しいもんだ。
剣を持った女が俺に斬りかかって来るが、軽くいなし、同じように剣を叩き折る。
近頃では猫も杓子も、やれ女剣士だ、やれ強い幼女だと騒いでいる。なんなら身長の2、3倍ある武器を振り回す始末だ。まあ100歩譲ってチートだとしよう。だが、遠心力に耐えれるぐらい、体の質量も増えてるんだろうな?
女子レスリングとか吉田ネキ見てると一概には言えないが、幼女はない。絶対にだ。そんなどうでもいいことを考えてると、勇者サトウが立ち上がり、何か叫んでいる。
いつの間にか女共が魔物の檻を開けており、自称勇者の号令と共に俺に襲い掛かってきた。
『こりゃどうもコイツ等、あの自称勇者に操られてるな』
そろそろ異変に気付き、兵士共も集まってきだした。前方に魔物と勇者ハーレム、後方に帝国兵。そして俺の肩には呪いの水晶を漬け込んだ酒樽。これは祭りの予感がする――




