山田と武器
「絶対に折れない曲がらない釘バットを作ってくれ。鉄パイプかバールでも可。なんならツルハシでもいいぞ」
「落ち着け。そう捲くし立てられてもわからん」
今日は技術研究所にお邪魔しにきた。今、会話している男の名はハリソン。研究所の所長だ。
技術研究所では魔道具や武器の開発をしている。ここで出来た物が工業区画で生産されている。王国の核と言ってもいいぐらいだ。
「折れない曲がらないというのは難しいな。というか無理だ。ある程度の柔軟性がないと武器としては成り立たん」
「巨大な剣はどうだ、折れないんじゃないか?」
「その剣より大きな質量に当てると簡単に折れるぞ。それに大きな物は金属疲労も激しい」
はあ、難しいもんだな。金属バットもすぐ曲がるから使いにくいんだよな。
研究所内には様々は魔道具や武器が所狭しとならんでいる。魔道具は見てもわからんが、武器は面白いな。漢の浪漫というヤツだ。
「刃物でも鈍器でも硬度と靭性のバランスが重要だ。理解出来るかどうかはわからんが、素材を知るということだ」
はあ? 要は金属と友達になれってことだろ? 理解しとるっちゅうねん。アレだろ? ボールは友達と言いながら蹴るヤツ等のことだろ。まあ、百歩譲って蹴ったとしてもいい。そういう愛情表現もあるしな。けど、結構頻繁にボール破裂させてるよな。アレ言い換えたら蹴り殺してるよな? お前等の友達の定義って何?
ゴールネットを突き破るほどのシュートの速度は時速5900kmだそうだ。触れたら腕消し飛ぶな。そんなどうでもいいことを考えていると、俺は2つの水晶を握り締めていることを思い出した。
「これ何かに使えないか?」ハリソンに水晶を見せながら尋ねる。
「何だ、それは?」
先日の魔術研究所での1件をハリソンに説明すると「そんな物持って平然としているほうが驚くわ」と言われた。「いるか?」と聞けば「いらん」らしい。俺もいらねえや。腹痛くなるし。
だが、いつまでも釘バットと拳で戦うワケにもいかない。人間相手ならたいした問題もないが、硬い魔物や海王クラスだと釘バットは役に立たない。火炎放射器が作れれば最高に世紀末だが、無理だろう。
釘バットほどの艶やかさを持ち、尚且つ汚物は消毒軍団ほどのインパクトを残せる武器……
「ハリソン、こういうのはどうだ?」
数日後、ハリソンから連絡を受けた俺は、研究所を尋ねた。
「出来てるぞ。仕上がりを確認してくれ」
俺が依頼した武器の名は『金砕棒』バットをもっと長くしたような長さ2mある、鬼に金棒のアレだ。日本史で言えば、独眼竜と戦った最上義光が使っていた由緒正しき武器である。
俺は金砕棒を握り締める。この手に馴染む感触といい、流石は釘バット、観光地のおみやげ屋で売ってる木刀に並ぶ、漢なら誰もが一度は手にすることを夢見る浪漫が滲み出る得物だ。かっこいい。
「お前のセンスはよくわからん。一応は試作品だからな、曲がったり強度を上げたりしたいなら、後は鍛冶屋に相談しろ。……コイツ、全然聞いてないな」
ヤバイ、最上の血が俺を呼び起こす。早く振るえと血が騒ぎ出す!
『お前、ヤマダだろ?』
「何か仕事ないか? 100人斬りとかそんなかんじのヤツ」
「あるワケないだろ。どんなヤツが依頼するんだ」
ギルドの依頼書を見ても何か食指が伸びない依頼ばっかりだったので、受付に直接聞いてみたが、やはりない。どうしよう、腹が立つからギルド内でゴブリンでも放し飼いしようかな?
「100人斬りではないが、お前をご指名の依頼ならあるぞ?」
奥からラスケイジがそんなことを言いながら出てくる。指名とか、そんな目立つ地雷は踏まんよ?
「まあ、話を聞くだけ聞いてみてくれ。依頼人の場所はここだ」
紙に書かれた場所は工業区画にある酒場だ。あのダンディーなオッサンがいた所か……
「簡単に言うと君に帝国で暴れてもらいたいんだ」
ただのテロじゃん。コイツ、テロリストじゃん。嫌だぞ、自爆は……
やはり、依頼主は帝国諜報員のオッサンだった。話によれば、帝国は最近、急速に軍備の増強を進めており、すぐにでも戦争を始める勢いだと言う。
「僕がここで調べていたのは、王国の戦力、戦闘用の魔道具の開発から製造。最初は魔道具製作の技術を盗む内容の指令だったんだけど、徐々に対象が変わってきだしてね。それに相手は恐らく王国だ」
「それと俺が暴れるのに何の繋がりがあるんだ?」
俺に依頼したいのは、帝国の軍備施設の破壊。
「要するに、時間稼ぎだね。帝国と王国は休戦条約を結んでいる、それも100年程前にだよ。皇帝だって少し前までは戦争を起そうなんて考えていなかったんだ」
「つまり、戦争用の武器、兵器を壊して来いってことか? しかも1人でか?」
「君の噂はよく耳にしてる、君の強さを信頼してこその依頼だよ。君が作ってくれた時間で、僕達が戦争を推進しているヤツ等を探る。僕も戦争は望んでないからね」
少ない犠牲で、多大な被害を止めるってとこか。人間の盾とか言ってるワケがわからない連中よりは、よっぽど好感は持てるな。
取り敢えず行ってみて、ヤバかったら壊す。大したことないようだったら、ゴブリンまき散らして帰るか――




