山田と帰還
「飽きた。帰る」
そろそろ新しい刺激が欲しくなってきた。そもそも海はそんなに好きではないのだ。潮風のベタ付きや磯臭さがシティー派の俺には耐えられない。やはり、コンクリートジャングルがこの俺には相応しいのだ。
「おう、丁度ええわ。魔術研究所の所長が帰って来いやと」
ブラドが手にしているのは通信用の魔道具だ。携帯電話ぐらいのサイズで、あらかじめ通話したい相手の魔力を登録することで遠距離での会話が可能らしい。以前見かけたときによこせと言ったが、物が高価な上、魔力のコントロールが出来ないと使えないと言われた。
「アホには過ぎた代物や、その辺の石ころでも転がして遊んどれ」と言われ、目の前で握り潰してやったから憶えている。
「何の用事だ?」
「身に付けて貰いたい装飾品があるんやと」
オレサマ、知ってる。オレサマ、呪われた物装備させられる。オレサマ、逃げる。
「逃げたら研究所の修理代金払わせるって言うとるで?」
脅迫とか最低だな、あの女。そんなんだから行き遅れるんだよ。
共和国の連中に簡単な挨拶を済ませ、帰路に着く。
行きと同じように荒野を横断するが、1人なら2日もあれば王都に帰れる。途中、色々な魔物に襲われたが、海王の圧力に比べれば完全に雑魚だ。ボウフラがミジンコに変わった程度の差だが。
日中夜走り続け、2日目の昼に王都に辿り着いた。俗に言う、王の帰還である。
2週間近くぶりの王都は至って平穏である。やはり駄目だ。山田という緊張がなければ、コイツ等はすぐ怠惰な生活に戻る。この国に山田という名の暴威は必要不可欠なのだ!
「ああ、わかった。では魔術研究所まで連行する」
気が付けば、サザーラント率いる騎士団に囲まれていた。山田包囲網が朝から敷かれていたらしい。
この雑魚共を蹴散らすなど他愛もないことだが、話が長くなりそうなので止めておこう。感謝しろ。
「久しぶりだな。じゃあ、コレ身に付けてくれ」
魔術研究所所長、お前は会話する努力を身に付けろ。
「何なのかせめて説明は欲しいんだが?」
俺は渡された腕輪を確認する。何処にでもありそうなシンプルなデザインに小さな水晶らしき物が数個付いている。見た感じでは呪いがかけられてるようには見えないな。
「説明いるのか? その腕輪に付いてる水晶な、半分は呪いで半分は加護と言い伝えられてたんだ。呪いの方だけ抜き取ってくれ。呪いがかかってる水晶はお前にやるよ。今回の報酬だ」
ブラック企業も驚きの報酬だな。何かに使えそうだから貰うけど。
『まあ、付けてみろ。俺が鑑定してやるよ』
ほほう、ガラクタの分際で呪いの鑑定など出来ると申すか。じゃあやってみろ。1つでも間違ったらスクラップな。
『ノーリターンなのにどんだけリスク高いんだよ!』
馬鹿野郎、こっちは呪われた挙句、報酬まで呪いだぞ?
そろそろ、あの女の視線が痛くなってきたので装着しよう。腕輪は鎧の上からでも問題なく付けれた。付けれたと言うか腕に絡みついてるんだが?
『まず、左から2つ目。治療不可能な毒』
呪うんじゃなくて、殺しにきてるな。これ作ったヤツ、なかなかのセンスの持ち主のようだな。流石の俺もちょっと腹痛くなってきた。
『左から3つ目。悲観とか絶望の負のエネルギーを増幅させるヤツっぽいな』
おお、鬱病からの毒殺。たしかに呪いっぽいな。
『左から5つ目が腕輪が外せなくなる呪いだな』
ほう、死ぬまで束縛すると言うことか。重いヤツだな。俗に言うヤンデレか。
『後はただのガラス玉だ』
加護どこ行った? これ作ったヤツ、超性格悪いな。
5つ目の水晶を壊し、腕輪を外してジュリアに説明する。まあ、予想通りそんな腕輪役に立たんから要らないらしい。
だが、コレ武器になるんじゃね? 殴られた挙句、鬱病からの毒って素敵やん?
「なんだ、武器が欲しいのか?」
「ああ、かなり頑丈な武器が欲しいな」
「お前は岩でも投げて戦ったらいいんじゃないか?」
おいおい、『知識のアーカイブ』の申し子とまで言われた、この山田。そんな脳ミソまで筋肉で出来たような戦い方が似合うと思うか?
「技術研究所にでも行け。お前みたいな規格外なヤツの武器でも何か思いつくはずだ」
よし! じゃあ左腕に大砲でも仕込んでもらうか――




