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山田とダンジョン

 ――暇である。王都に帰るのも若干めんどくさいので、まだここにいる。


 海王の一件から1週間と数日が過ぎたが、あれ以降、襲撃者が襲ってくる気配は一向にない。共和国やギルドのメンバーは海王とサハギン共の関連性などを探って、毎日慌しく活動している。

 そんなに生き急いで、何処へ向かうと言うのだ。たまには、この哲学者山田のように自分と向き合い、見つめ直す余裕も必要ではないのだろうか?


 余りの暇さに何か手伝うと申し出てやったこともあったが、「余計なことを考えるな」「戦うことだけに専念してくれ」などと、コイツ等は人を戦闘狂か何かと思っているのか?

 だが、案ずるな。ウサギは寂しさを乗り越える力を身に付けたからウサギとなったのだ。


「何や、相変わらず暇してんのか?」


「暇なワケじゃない。ただ時間を無駄に過ごしているだけだ」


 人をニートみたいに言うんじゃない。


「そんなに暇なら、ダンジョンでも行ってこいや」


「ダンジョン? あるのか?」


 今や猫も杓子もダンジョン、ダンジョン、やれ飯だ、やれ運営だと騒いでいる。よかろう、ならばこの山田。ダンジョンに挑もうではないか。そして、奥に隠された財宝で億万長者狙いだ。目指せ成金!


「期待しとるとこ悪いけど、宝なんかないで?」


「貴様、何を馬鹿なことを言っている? ダンジョンと言えば、宝。切っても切り離せぬ関係だろうが!」


「誰がそんなとこに宝置くねん。意味ないやろが……」


 そりゃそうだ。ボランティアでもやらねえよな。


「魔物はおるから、使えそうな素材取ってきたら買い取って貰えるかもしれん。国が違うから討伐報酬はないで」


 見せてやろうではないか! 山田のダンジョン攻略というものを!!









 多数の島々からなる共和国。その内の1つ、草木が鬱蒼と生い茂る島がある。誰も足を踏み入れない奥地、ダンジョンはそこにひっそりと佇んでいた。





「よく聞け! クソ虫共!! 今日は貴様等にダンジョン攻略というものを教えてやる。名づけて『漢のダンジョン攻略』だ! 返事はハイかイエスのみ、口答えや反論は死を覚悟して発言しろ!!」


「よくもまあ、そんな馬鹿みたいなことばっかり思いつくわね……」


 俺は手の空いたヤツ数名を連れてダンジョンに遊びにきた。最初は渋っていたが、「ブラドが最深部にお宝があるって言ってた」と言うと、ノコノコ付いてきた。愚か者共が、ダンジョンの肥やしにしてくれるわ。

 アンジェは一通り仕事が済んだのか、勝手に付いて来ている。「漢の道に女、子供は邪魔だ、帰れ!」と言ったら毒を吹き付けられた。解せぬ。


「全員、火を灯せ! 突撃ッ!!」


「隊長! 突入前ですが、罠がある場合はどうしましょう? 解除スキル持ってるヤツはいませんが」


「ほほう、命懸けの質問だな? よかろう、答えて進ぜよう。罠の解除など弱者の行い、罠があれば自ら喰らうのが漢というものだ、以上!」


 大体、せっかく罠張ったのに掛かってもらえなかったらがっかりするだろ? 張ったヤツの気持ちも酌んでやれよ。


『俺に傷が付かない程度にしてくれよ?』


 だまれ、錆び塗れのポンコツが。





 俺を先頭にダンジョン攻略チーム『漢組』は突き進んでいく。罠? 知らん!


 ふと、俺の視界に紙に何かを書き込んでいる隊員が入る。


「隊員2、貴様、何をしている!」


「はい! 迷わないようにマッピングしています」


「よこせ!」俺は地図を奪い取ると、破り捨てる。愚かなり。マッピングなど弱者の行い、漢の道は前進あるのみ! 後退? 聖帝に逃走はない!!


 何故、コイツ等は相手を想いやれないのか? あーすれば、こーすればと、冒険者を迷わす為に夜なべで作っていたかも知れん、製作者の想い。それを貴様等は踏み躙ろうと言うのか!


「隊長! 行き止まりです!」


「馬鹿者が。我が拳にあるのはただ制圧前進のみ! 貴様には行き止まりに見えるのか?」


 俺は壁を殴り壊し進んで行く。行き止まりはナシにしろ。引き返す労力を考えると腹が立つ。マグロは死ぬときにしか、止まらぬのだ!


「よくこれで攻略なんて言葉使えたわね……」


 人の作った道の上に、漢の道は成り得ない。自分で切り開く、それこそが漢の道、漢の攻略よ!





 俺を先頭にダンジョン攻略チーム『漢組』は突き進んでいく。罠? 迷路? 俺の目には何も映ってはいない!


「隊長! 下り階段を発見しました!」


 うむ、階段とは新たなステージの始まり。階段を下りること、それ即ち漢道の深部へ向かうこと! だが、待て……


「ここ、何階まであるか知ってるヤツいるか?」


「地下20階まであるって言ってたわよ」


 蟻とかモグラじゃねえんだから、そんなに潜ってられねえよ! 大体、日帰りツアーのつもりで来てんだ、馬鹿野郎!


『冒険者舐めすぎだ、馬鹿野郎』


 もうめんどくさい。地面に穴掘って進んだら速いんじゃね?


 俺は何も考えずに地面を叩き割る。だが、多少なり壁を壊しながら進み、地盤に穴を開ければ、待っているモノは……


「アンタ、何してんのよ! そこらじゅうに亀裂走り出したわよ!」


 だが、聖帝に逃走はないのだ!!


『早く逃げろよ、サイコ野郎』


 うむ、全員撤退――!!









「お前、何してくれとんの?」


 俺は悪くない。20階まで掘ったモグラが悪い。


 ダンジョンは見事に崩壊し、最深部に何があるのか、以後誰も知ることは出来なくなった。


「ま、まあ、悪気があったワケじゃないだろうし」


 ベンガルが引き攣った顔でフォローする。獣の表情なんかわからんよ。


「結局、あそこ20階に何があるんだ?」


「何もないで」


 は?


「流石に研究され尽くしてるからな。以前は陸軍新兵の実地訓練の場として使っていたが、最近は全く使ってないな」


「暇そうにしてたから行って来いや、言うただけやで? まさか1階も攻略出来んアホがおるとは思わんかったが」


「軽く小突かれただけで崩壊するダンジョンが悪いんだろうが。お前みたいに貧弱だから扱いに困るな」


「表出ろ! そろそろ自分の立場わからしたる!!」「馬鹿面晒してプカプカ浮いてろ、叩き落としてやんよ?」





 ベンガルは切に願う。ここだけは壊してくれるなと――

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