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山田と海王3

 ――2日後 西方沖 海上





「この作戦は3人の心が1つとなって、初めて成功する。1つの心も欠くことは許されない! 皆、合言葉は友情と努力と勝利だ!!」


「お前が1番、場を乱すやん」


 ほら出た。こういう馬鹿が世の中を乱すんだ。会社の歯車になれない、この社会不適合者が! 貴様のようなヤツが『自転車に乗った男が女子中学生を追い抜き立ち去る事案』を発生させるんだ。


「まあ落ち着け、お前等。ここはもう海王の領域だぞ。それでどうやってヤツを誘き出すんだ?」


 よくぞ聞いてくれた。技能はクズだが、なかなかの人格者だなモハメド。山田ポイントをやろう。


「作戦は至って簡単。釣りだ、釣りをする。モハメドは知ってるだろうが、俺達の世界にはトローリングと言うものがある」


 松方弘樹がクルーザーに乗ってよくやるアレだ。もちろんルアーはブラド。作戦名は『山田太郎 世界を釣る!!』だ! さあ、飛び込め!!


「お前、ほんまアホやな。心の底から尊敬するわ」


 殺すぞ、害鳥。


「しょうもないこと言うてる暇ないで? ホオジロさん達、今頃頑張って戦ってるんやから」


 そういやサハギン共の襲撃に先行して出てきたんだったな。忘れてたわ。


「ヤマダ、先日の海を割ったヤツ、あれでいいんじゃないか? 十分に挑発になると思うぞ」


 ふふん、そこまで羨望されているのなら、今一度お見せするのも吝かではない。『全ての娯楽界一シビれる男』との呼び声高き、この山田。再び、この豪腕を奮おうぞ!


「海を漂いし王を名乗る矮小なる蛇よ、神の裁きにその身を曝せ!!」


 先日と同じように水面が大きく窪み、巨大な水柱が立ち上る。


「アイツはいちいち何か言わんと殴れんのか?」


「アホやからしゃあない。おっと、あのアホ拾ってくる」


 だが、その後、モハメドが見たものは、空中を落下するヤマダ。空を翔け受け止めるブラド。そんな2人を飲み込む巨大な海蛇の頭だった――









 ――やらずに後悔するより、やって後悔したほうがいい。何か偉い人が言ってた。しかし、その中に『やらなきゃよかった』この概念は入っているのだろうか? 今はそんな気分だ。何故なら……









「くっせぇ!!」「くさっ! 何の匂いやコレ!?」


 飲み込まれた後、俺達の第一声はこれだ。とにかく臭い。形容出来ない匂いだ。駄目だ、思考が低下する。だんだん腹が立ってきたな。


「何やねんコレ! 何か腐ったような、グチャグチャに混ざったような……もうええわ、考えるだけしゃあない。腹ン中や、こんな匂いもするやろ」


「しかし、どうやってコイツを殺す?」


「まだ言うとったんか……脱出するのが先決やろ」


 試しに壁を殴ってみたが、軟らかいゴムを殴っているような感触だ。刃物でもあれば切れるかもしれないが、なんせ2人揃って、殴る、蹴る、潰すしか出来ない。なんという脳筋、呆れてモノも言えんわ!


「コイツが口開けた時、脱出するか?」


「アカン、海底におったら水圧で死ぬ。それ以前にどっちが口かわからん」


 そういえば、完全に前後不覚だな。


「ん? なんか聞こえんか?」


 確かに遠くから海鳴りのような音が聞こえる……まさか!?


「やばい! 水流れ込んでくるぞ!?」「コイツ! 腹壊してるのか!?」


「絶対違うわボケ! ええから掴めるとこ、掴まっとけ! 流されるぞ!!」


 徐々に音が大きくなり、鉄砲水の如く大量の水と共に何かが流れ込んできた。


「おう、今の見たか?」


「ああ、山田アイは全てのものを視覚する」地獄耳しか出来ないデビルイヤーとは違うのだよ。


「普通に見たでええやんけ。流れてったのサハギン共やったな」


 まったく見てなかった。それよりこの壁の毛細血管、全部切って行ったら出血多量で死なねえかな?









「モハメド! ブラド殿とヤマダはどうした!?」


 斥候部隊と共にホオジロが水面から顔を出した。2人の事は隠してもしょうがない。正直に話そう。


「海王に喰われた……」


「冗談を言ってる場合ではないぞ! サハギン共の帰還先だが、どうやらヤツ等、海王の近辺に潜んでいる。もしくは海王の腹の中か……」


「可能なのか?」


「流石に試した事がないから、わからん。が、そこに意思がある若しくは操られているなら――」


 海王を従えるか操るほどの力か……


「まあ、考えられんな。出来るとすれば、神ぐらいだろう。それより2人はどうしたのだ?」


 だから、喰われたと言ってるだろうが――









「ヒャッハー! 雑魚共が! すり身になれぃ!!」


 群がってくるサハギン共の頭を叩き潰す、顔を磨り潰す、首を捻じ切る。いやー、最近ストレス溜まってたんだわ。今宵の釘バットも血に餓えておるわ!


「お前、楽しそうやな……」


 まだだ、まだ終わらんよ? もっとかかって来たまえ!


「しかし、この大量のサハギン。喰われたと言うか、待機しとったような感じやな」


「ハッ、貴様は実に馬鹿だな。そんなこともわからんのか? いいか? 非常食――」


「間違っとるからしゃべらんでええで。それより脱出方法や」


『……おい』


「腹の中殴りまくったら、腹壊して出れるんじゃね? ウンコとして」


「絶対嫌や、人の尊厳に関るわ!」


『……聞こえてるだろ』


「じゃあ、腹突き破る」


「無理やろ。相当な衝撃やないと」


『聞こえてんだろうが!!』


 うるせえな、さっきから誰だよ? そこの半漁が話しかけてんのか? すげえな、頭ないのにしゃべれるのか!


『お前、怖いぐらい頭悪いな。何か、馬鹿になる呪いでもかかってんのか? 鎧だ。俺はお前の着てる鎧だよ。まあ鎧と言うか鎧に取り憑いた意志だな』


 なんだ、鎧が話しかけてんのか。気持ち悪いな、ここに捨てて行くか。


『ここに取り残されたくないから、わざわざ声掛けてんのに本末転倒じゃねえか! ここから出たいんだろ? 俺が協力してやるよ』


 協力ってなんだよ……


『お前の身体を強化してやるよ。余りやり過ぎると今迄の持ち主みたいに狂っちまうが、お前は多少はこの鎧を使いこなしてるからな。まあ2割ぐらい力を使わしてやるよ』


 2割かよ、ケチくさいヤツだな。


『バカタレ、それ以上はお前の身体が持たねえよ。それに今だったら、外に誰かいるぞ。瘴気を感じねえから魚人あたりだな。今すぐコイツの腹に風穴開けろ。異変に気付けば助かるな』


「お前、さっきから何をブツブツ言うとるんや?」


「いや、鎧の精が俺に語りかけてくるんだ。気持ち悪ぃ」


『何かの病気か、お前? 全然会話になんねえ。力やるから使え。いや、頼む! 使ってくれ! 俺はこんなとこで朽ち果てたくないんだ!!』


 おお! なんか急に力が沸いてきた! まさか俺にこんな秘められしパワーがあるとは……まさに地に降り立った現人神の真の姿というワケか?





『なんでもいいから早くやれよ……何でこんなヤツに着られてるんだ俺――』

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