山田と海王1
「何しとん、お前?」
溺れて気を失ったのにも気付かないぐらい、俺は長考していたようだ。今は共和国海軍駐屯所にいる。戻る水により出来た大渦に飲み込まれたらしい。そこを魚類達に助けられたというワケだ。
「この俺としたことが不覚! どこまでが敵かわからなかった!」
そこの後ろに並んでる魚類、気持ち悪いし、どう見ても魔物だろ? 半漁人の方がよっぽど味方らしかったぞ。
「思ってても、口に出すなや」
お前も思ってんじゃねえか。
「ヤマダ、気が付いたか」
おや、先程船の上で会った人。名前は知らんけど。
「お前、日本人らしいな? ソマリアのモハメド・アイディードだ。俺も同じように神に新たな命を授かったのだ」
おお、新たな地球市民。けど、ソマリアってどこだ? まあ、ヨーロッパでいいか。で、また神様かー。みんな宗教好きだなー。
モハメドは半年ほど前にインド洋でマグロ漁をしていたところを他国の海軍と戦闘になり、海に転落したそうだ。
「信仰する神により再び生を授かり、この世界へ送って頂いたのだ」
結構、地球市民いるな。俺を含めて、これで4人か……はっ! そうだ、聞かねばならんことがある!
「モハメド、お前のこの世界での職種を教えてくれ。ギルドカードか、身元を証明するものが何かあるか?」
「ああ、共和国の国民カードならある。――これだ」
頼む! そろそろ狂戦士より不吉な名前の職種が見たい! 下に人を作りたいのだ!!
名前:モハメド・アイディード
人種:異世界人
年齢:40
職種:海賊
固有技能:自動翻訳 漁業 操舵手
か、かっこいい……今や憧れの職業『海賊』とは。コイツ覇気使えるのかな? 後、固有技能タチ悪いな。
「けど、お前、漁師じゃないじゃん?」
「マグロ漁は副職だ、本職が海賊だ」
ほんとタチ悪いな、お前――
「モハメドはいるか?」と、俺達が休んでいる休憩所にサメの魚人が入ってきた。海軍隊長ホオジロだそうだ。やけに深刻な顔してるらしいが、魚類の表情なんかわからんよ。
「斥候部隊の報告だが、サハギン共の帰還先はやはり不明だ。それと西方の沖に『海王』がいる」
「これ速いな!」
俺達は今、高速船で西の沖に向かっている。高速船の原動力は魚類だ。海中で魚類が船を引っ張っている。やはり俺の製作したゴブリン車は正しかったのだ! あのゴブリンが貧弱過ぎただけなのだ!!
西に向かっている理由は『海王リヴァイアサン』が見たい、それだけだ。俺、ブラド、モハメドの3人が船に乗り、ホオジロと斥候部隊と共に現地に向かっている。
海王とまで呼ばれるぐらいだから、間違いなく巨大生物だろう。
――巨大生物それは漢なら誰しもが恋焦がれる浪漫である。大体見つけることの出来ない川口探検隊と違い、この眼で確認出来る可能性が高いのだ。ここでテンション上げず、いつ上げろと言うのだ! ちなみに俺は池田湖のイッシーはいる派だ。
ん? 何やら海中の魚類が騒がしい。お前等もやっぱりイッシーはいると思ってるのか?
どうやら先行していた斥候部隊が海王を発見し、戻ってきたらしい。まだ少し先だが、そこに漢の夢がいる!!
まあ、俺に目測で海の距離なんかわからん。結構遠い、こんなもんだ。海は波1つなく、静まり返っている。だが、凪の後には嵐が来るとは言ったもんだ。
その静かな海面が突然に大きく盛り上がると、巨大な灰色の蛇らしきモノの頭部が姿を現した。その時出来た波の余波がここまで届く。頭であれなら、体長何メートルだ? 数10メートルはあるぞ!? 頭だけ立派で体が超ショボかったらいいんだが……
「おい、馬鹿。リヴァイアサンってのは、クラスで言うと何クラスだ? Bぐらいか?」
「アホか、Sのトップクラスや……」
AとSの差が致命的だぞ?
「あんなモノが暴れたら耐え切れん、暴れた時に出来る波だけで陸地がさらわれちまうぞ」
モハメドもアレを脅威に感じている。俺もだ。
「流石のお前でもアレは無理か、どうにもならんやろ?」
無理だ、絶対かかわっちゃ駄目なヤツだ。カマキリが最強とか、武器を持った人間と猫が互角とかそういうくだらない話じゃない。体積と質量の問題だ。蟻では絶対象には勝てない。
だが数日後、俺達はコイツと戦う破目に陥る――




