山田と共和国
――ニャン諸島共和国
元々はブリーダー帝国の領土であったが、約100年前、当時の皇帝ハードバージによる人族主義の台頭により、獣人の差別、奴隷化が勃興し始めた。
異を唱える獣人族権力者が次々と粛清された為、帝国からの独立を宣言。独立戦争となる。
帝国と戦時中であった王国の傘下に入り、帝国と王国の休戦条約終結後は、実質支配下であった北方の島々を領土に独立。王国と同盟を結び、友好国となる。
「簡単な説明だけど、これが今の王国と共和国の関係よ」
「あかん、あかん、説明するだけ時間の無駄や。2つの国は仲良しですよー、ぐらいじゃないとコイツは理解出来んで」
は? めちゃめちゃ理解しとるっちゅうねん。アレだろ? 大神官倒してきてって、国の第一王位継承者が銅の剣と50円渡されて旅立つ話だろ? しかも一人っ子。アレ言い換えたら『お前死んだら国滅亡するけど、別にいいよ』だからな。
悪霊の神々ってあの3匹だろ? わざわざサブタイにするほどの敵か? そんなことをぼんやりと考えていると、前方から獣人の一団が近づいて来た。
「王国からの援軍の方達ですね? 私は共和国陸軍隊長ベンガルです。今回の援助、ご厚情痛み入ります」
鎧を身に纏い、槍を携えた2足歩行の虎が目の前にいる。語尾にニャンとかガオとかあざといのは付けないのか。
「ええ、冒険者・傭兵ギルドから派遣されたシバ支部長ブラドです。何でも海の魔物が急に増えたとお聞きしておりますが?」
「はい、ひと月ほど前から武装した魔物が大量に現れ出しまして、国内の戦力だけでは難しく……」
「武装? 大量の魔物がですか? どこで作られた物かはわかりますか?」
「大陸全ての国の武器です。ただ、戦死した者から回収したにしては数が多すぎます」
そんな時、辺りが騒がしくなり、共和国の兵士達が慌しく動いている。何かあったんだろうか? 1人の兵士がベンガルに駆け寄る。
「ベンガル隊長! 魔物の襲撃です!! 先にモハメド殿が向かっております!」
「了解した。我等の直ちに向かう。ブラド殿、ご協力お願いしても宜しいでしょうか?」
「もちろんです。おい、ボンクラ行けるな?」
「は? 俺、今から泳ぎに行くんだが?」
何、勝手に話決めてんだよ。そもそも虎とか俺の愛護の範疇じゃねえよ、喰われるだろうが!
「おう、もちろん泳ぎに行くんやで」
おお、馬鹿なりにちゃんとわかってるじゃないか。茨城の河童と言えば、この山田。本場のバサロ泳法見せてやんよ?
――共和国沖
「モハメド殿、今回も同じく敵は武装したサハギンです!」
「了解だ。今回も俺達が囮になる。魚人達は左右に展開。戦列が伸びたところで各個撃破していくぞ!」
やはり原始的な武器しかないか……国にいた頃の兵装だったらこんなヤツ等何でもないんだがな。まあ、ないものねだりしてもしょうがない。
だが、相手は魔物、イギリスやロシアの海軍相手にするよりは、はるかにマシだ。
「さあ行くぞ! ソマリアのマグロ漁師の戦い、見せてやる!!」
「モハメド殿! 後方から何か来ます!!」
何かとはなんだ? 後ろを振り返ると、何か黒い悪魔みたいなモノが軍の船に飛び移っては、こちらに向かってくる。敵か?
遂に黒い悪魔は、俺のところまでやって来た。
「ここに海を汚す馬鹿がいると聞いたんだが?」
「誰だ、お前は? 味方か?」
「俺は、遊ぶことを邪魔された怒りにより目覚めた、破壊神山田太郎だ! 自然を愛す俺の前では、何人たりとも等しく無力なり!!」
何だ、この痛い馬鹿は……? それにヤマダタロウ? 日本人か?
「敵はどこだ、さっさと答えろ」
「あ、ああ、前方の海中だ。武器を持った半漁人みたいなヤツ等がいる。そいつ等が敵だ」
「わかった。海の中だな」
そう答えるとヤマダと名乗った男は海に飛び込んでいった……鎧着てるから沈むよな?
「ヒャッハー! この破壊の神ヤマダーが一瞬でケリつけてやるぜ!!」
俺は相棒の釘バット片手に海へ飛び込む。だが、流石の俺でも鎧を着たまま泳ぐのは無理だ。じゃあ水面を走るのか? バシリスクは1秒間に足を20回転することで水面を走ると言う。そろそろ刃牙あたりがやりそうだ。
人間が水面を走れるワケがない。じゃあどうするんだい? リトル山田の質問に答えよう。答えは海を割ってみよう! だ。水面に衝撃を与えると、その衝撃の分、周りに水が逃げるって偉い人が言ってた。
では、この破壊の神ダーヤマが海底に届く程の衝撃を与えようじゃないか!
「天変地異を起こす神の一振り、篤とご照覧あれ!!」
俺は水面に渾身の釘バットを叩き込む。その刹那、巨大な水柱が立ち上がり、海中にいた半漁人や魚人、魔物共も打ち揚げられる。
だが、俺は思考モードに入る。普段は緻密な計算の上での行動をモットーとする、この山田。しかし、今回ばかりは敵の区別がつかない。
魔物はわかる。殺してくださいと言わんばかりのフォルムをしている。問題は魚人と半漁人だ。
一方は人間と魚を足して割ったようなヤツだ。気持ち悪ぃ……
しかし、もう一方が問題だ。でかい魚に素手と素足が生えている。もっと気持ち悪ぃ……
気持ち悪いから、もう全部殺そうかな――




