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山田と荒野

「おう、ボンクラ。見てもわからんと思うから説明したる。ここが荒野や」


「そうだな。虫の言葉はよくわからんが、お前には歓楽街に見えてるんだろうな」


「もういい加減にしてくれない?」


 俺と馬鹿を含め、総勢15名。現在、荒野の入口にいる。


 先程、俺達を諌めたのは、シバの街のアンジェ。職種は『調合師』一応、基本の薬は全て作れるらしいので、今回の遠征に加わっている。今日知った事実だが、コイツと馬鹿は兄妹だ。そういや、髪の色も一緒だな。どうでもいいけど。


「皆知っての通り、ここの魔物は他所よりも強い。安全第一や、慎重に行くで」


「馬鹿かお前は。こんな面白くもないとこでチンタラしてられるか。一気に駆け抜けるぞ」


 こっちはさっさと海行って泳ぎたいんだよ。こんな何もないとこで遊んでるほど、暇じゃねえんだ。


「アホ面晒して、1人で走って行けや」


「おう、虫はそこの岩陰でジージー鳴いてろ。後で踏み潰してやる」


「やめろって言ってるでしょ!」


 他のギルドのヤツ等は固唾を呑んで見守っている。というより単に暴れて欲しくないだけのようだ。体力に自信のあるヤツは一気に駆け抜けるほうに賛成し、自信のないヤツは慎重に行くことを希望している。


「じゃあ、2人で勝負して、勝ったほうの意見でいいんじゃない?」


 おお、なかなかいい意見を出すじゃないか! お前のお兄ちゃんミンチにするけどな!


「いや、勝負って言っても直接戦うんじゃなくて、例えばどっちがたくさん魔物倒すか、とかね」


「おう、それええな! このアホに俺の強さ見せ付けれるしな!」


「魔物に食われてるとこ見学しててやるよ」


「また、始まった……」





 勝負の内容はいたってシンプルに、ここから荒野を抜けるまで、どちらが多く魔物を倒すかだ。ルールはなし、魔物を倒す手段も何でもありだ。


「そこのボンクラにハンデくれてやるわ。俺の方はBクラス以下は数えんでええで」


「Bクラス以下とかだっせえな。はずかちくないんでちゅかー? 俺はAクラスだけカウントしとけ。格の違いみせてやんよ?」


「ほう、ほざくやんかクソガキ。ほんなら俺もAクラスだけでええわ。ほんで俺が勝ったら、その鎧に『僕はチンケな虫ケラです。生まれてきてごめんなさい』とでも書かしてもらうわ」


「やってみろ。俺が勝ったら、お前の頭モップ代わりにして便所掃除な」





 ――そして2人の勝負が始まった


「鈍亀は惨めったらしく、俺の勇姿でも眺めながら付いて来いや!!」


 ブラドはブーツの魔術を発動させて駆け出す。やはり、馬鹿だ。ルールは何でもありだというのに。俺は背を向け駆け出すブラドにありったけの石を投げつける。


 最初は小石、次に石、岩、最終的には抱えるほどの大岩を投げつける。死ね、それがお前の墓標だ!


「ちょっと! 魔物倒しなさいよ!」


「アレは馬鹿と言う魔物だ。何も問題ない」


「お前如きのやることなんざ、お見通しや!」


 どこか遠くで馬鹿の鳴き声が聞こえる。どこだ? あの墓標の中か? ならばとどめを刺してやる!


「上や! 上見てみぃ!」


 空を見上げると、ブラドが空中に浮いている。なるほど、害虫から害鳥に変わっただけだな。


 ブーツに付与された風魔術で空中を移動できるとアンジェから説明された。使いこなせるのもブラドだけらしい。問題ない、打ち落とすか、叩き落すかだ!


 そこらじゅうに転がっている岩を投げつける。中には手足が付いている岩やトカゲのような岩もあったが、些細なことだ。


 ヤツは空中で全て蹴り落としている。時折り、空で捕まえた魔物のような鳥を投げてくるが、問題ない、叩き潰すだけだ。俺の愛護は犬や猫の小動物であって、鳥は守備範囲外だ。残念だったな、日ハムのピッチャー。


 だが、もう近辺に手頃な岩がない。アレを打ち落とすにはもっと大量の岩が必要だ。それこそ空を埋め尽くすほどだ。


 よかろう、この山田の本気見せてくれる――









「どけ! 雑魚が!!」


 いちいちつっかかってくるな、邪魔くさい! 


 そこいらから湧き出てくる魔物を次々叩き潰す。あの崖だ。崖まで行けば、馬鹿みたいに浮いている害鳥に目にもの見せてやれる。


「雑魚って……Aクラス、Bクラスの魔物ばっかりなんだけどね……」後方からそんな呟きが聞こえた気がするが、気にする必要はない。


 ブラドは空の魔物を蹴り殺して、俺に向かい投げつけてくる。死者に鞭打つとはこのことだな! お前等の恨みもいっしょに晴らしてやる!!









 ここだ! 俺は目的地であった先端がやや尖った崖の頂上に辿り着く。位置的にはヤツよりも上になる。暢気に浮いていられるのも今のうちだ!


「浮かぶしか能のない害鳥が! お前の敗因は俺の全力を見誤ったことだ!!」


 地面に拳を叩き込むと、崖に亀裂が走る。そう、このほぼ山と言っても差し支えない巨大な岩を叩きつけてやる。


「いやいや、完全に人間辞めてるやん! アイツひと月も経たんうちに何があったんや!?」


「この山田を舐めるな、害鳥! 喰らえェェェ!!」


 巨大な岩を持ち上げたまま、ブラドに向かい飛び降りる。無論、ヤツも避けようがなく、もろに岩にぶつかり2人揃ってかなりの高さから地面に叩きつけられる。





 2人揃って、満身創痍で気を失っており、数日後、気が付いた頃には荒野の終わり辺りだった。


 どちらが魔物を多く倒したか、勝敗を訊ねると「数えていなかった」と答えが返ってきた――

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