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山田と犬

 はっきり言うと俺は手出し出来ない。それは何故か?


 動物とは愛でるもの、慈愛の心を持って接するものだ。小動物なら更に保護欲までかきたてられるだろう。これを幼女に置き換えると、ただのロリコンだ。お巡りさんこっちです。


 我が心の師匠は、ライオンに噛み付かれたり、熊に羽交い絞めにされたりしているが、それでも愛護の心を忘れず動物の顔を嘗め回す。まさに獣界の頂点に立つ御方だ。若干、変態だが漢とはそういうものだ。


 つまり、俺が言いたいことはただ1つ、









「ロリコン死すべし!」慈悲はない。


「気持ちいいくらい意味がわかんないッスね!」


 さて、そろそろこの聖帝を無視するワンちゃん達におしおきをせねばなるまい。ゴロツキ共を背に、ワンちゃん達と向かい合う。


 しかし何故、ワンちゃん達はゴブリンの死骸を喰らい、更にはゴロツキ共を喰おうと取り囲んでいるのに、この俺には見向きもせんのだ? 『慈愛の塊かと思ったら山田だった』と言われるほどの俺に対し、この仕打ちはあんまりじゃないか?


「魔物だと思われてるんじゃないッスか?」


 殺すぞ、お前。


「その鎧から出てる瘴気が魔物と錯覚させてるんじゃないですか?」


 なるほど、ワンちゃん達もモード系鎧の虜というわけか。ならば、新技の1つでも披露せざるをえないな!


 俺は全身隅々まで瘴気を行き渡らせる。体に沿って纏わりついた瘴気をそのままの形で維持し、全面に押し出す。すると、あら不思議。


 刮目せよ、これが山田流分身の術だ。本人ではなく、分身が手出しするのだ。これで俺の心の平穏は保たれる。


 後はいつも通りに瘴気を制御するだけだ。俺は分身を歩かせ、シルバーウルフの前に立たせる。


 初めは様子見していたシルバーウルフ達だが、徐々にその鋭い牙や爪を振るい始める。だが案ずるな、元より瘴気の塊。物理攻撃など無意味に等しき行為。牙や爪は瘴気の体をすり抜けていく。


 フハハハハッ! 愚かなり、畜生共よ!! ならば次はこちらのターンだ!!


 俺は瘴気の体を操り、シルバーウルフ達に殴りかかる。だが案ずるな、元より瘴気の塊。物理攻撃など無意味に等しき行為。放った拳はシルバーウルフをすり抜けていく。


「どけい! 目障りだ!!」


 俺は怒りに身を任せ、分身を蹴散らす。何だこの役に立たない技は! まだその辺のミミズのほうが頑張ってるぞ!!


 どうやらこの山田を本気マジにさせたようだな。悪魔超人よ、お遊びはここまでだ。





 犬というものは、自分より格下の者に対し、視線を逸らしことをしない。敵意を持っているのなら尚更だ。


 ゴロツキ共はシルバーウルフにガン見されている。舐められているではないか! 愚か者共が!!


 俺は、目にも止まらぬ速さでシルバーウルフに振り向く。敵も然ること、瞬時に目を逸らす。


 シルバーウルフの目の前に回りこみ見つめると、完全にそっぽを向かれた。


 反復横とび視線合わせをすると、俯かれた。これはこれでむかつく。


 なるほど、貴様等からすると、視線を合わせる価値すらないということか……


 上等だ、覚悟しろ。貴様等は選択肢を誤った。もはやフラグ回収は不可能と思え!





 だが、どうすればいい? 森羅万象に通じる俺の脳が最適な方法を検索する。





 鎧だな! コイツ等、鎧が怖いんだ! 俺は鎧を脱ぎ捨てる。だが、一向に目を合わせてもらえない。


 釘バットか! そうだよね、駄目だよね、こんなの持ってちゃ! 釘バットを手放す。が、それでも目を合わせてもらえない。


 わかった! 視線の高さだ! 見下されてたら気分悪いよね! 視線の高さを合わせる為、シルバーウルフの前で正座をする。


 シルバーウルフは人間の大人ぐらいの大きさだ。その前に座れば、自然と俺が見下ろされる形になる。









「誰を見下してんだ! 挽肉にすんぞ、クソ犬がァァァ!!」









 俺は怒りに任せ、素手で大地を叩き割る。その光景を見たシルバーウルフ達は萎縮し、耳を折り、尾を足の間に隠し、腹を見せ、完全服従の体勢になった。


「何なんだろうな、あの人」「さあ、馬鹿なんじゃねえ?」「狂ってんだろ」


 そんなゴロツキ共の言葉も届かず、怒髪天を衝く俺の怒りによって、討伐依頼は終焉を迎えた。





「どうするんですか、コイツ等?」


 俺達の前にキチンと座っている、数10匹のシルバーウルフが並ぶ。


 放っておいてもいいのだが、またキャラバンや旅人を襲うだろう。変なものを食わせるわけにはいかない。かと言って、飼うには流石に多い。


 だが、流石の絶え間なき知恵の発信者である、この山田。瞬きする間に解決方法に思いつく。


「城に連れてくぞ」


 中野かマイケルに面倒見させよう。どうせアイツ等暇だろ?


 シルバーウルフは俺達の前に屈むと『背に乗れ』と目で合図する。俺達を乗せても走れるようなので、乗せてもらうとしよう。うむ、乗り心地は最悪だ。





 この速度であれば、夜通し走れば王都に着くだろう。そんな時、楽しいことを思いついた。


 背から飛び降り、先頭を走ると後方に向かい叫ぶ。


「よし、このまま王都に突撃だ! 者共、遅れるなよ!!」


「は?」「え?」「意味がわかんねッス」


 なあに、ただの賑やかしだ! 愚民共の驚く様が目に浮かぶわ――

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