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山田と罠

 情けない! なんという体たらく! 恥を知れ、痴れ者共が!!


「……もう、駄目ッス」


「……気持ちわりぃ」


「……あちこち痛いッスよ」


 走れぬならまだしも、ただ引き摺られるだけとは、何たる軟弱者か。おかげで出没場所を行き過ぎたではないか!


 まったく、シルバーウルフを探そうにも肝心のコイツ等はこのザマだ。これならその辺にいるオケラのほうがまだ役立つぐらいだ。


 しかし、策の湧き出る泉と評された、この山田。今しがた新たな策を思いついたわ! 崇めよ。


 はっきり言って、出没場所まで戻るのはめんどくさい。では、どうする? 


 答えはシルバーウルフにここまでおい出ていただくのだ。


 シルバーウルフと言うからには、狼だろう。オッサンではないはずだ。


 よく狼を血に餓えた獣と表現する。そうだ、ヤツ等は血の匂いに敏感なのだ。常飲してると言ってもいいぐらいだ。


 ――じゃあその血をどうするんだい? 俺の中のリトル山田が尋ねる。手っ取り早くゴロツキ共を八つ裂きにしてもいいが、圧倒的に血の量が足りない。


 だが、血と言えばヤツ等だ。これ以上に的確なモノが存在しうるわけがない!









「ヤマダさん。もう見慣れた光景ですが、一応聞きます。それ何ですか……?」


「見てわからんか。俺達の為に餌の役割を買って出てくれた、みんな大好きゴブリン先生だ」


 再三の活躍にもかかわらず、今回も協力を申し出てくれたのだ。きちんと先生と呼ぶように!


 今回も20匹ほどの先生を捕まえてきた。どれもこれも致命傷を負っており、虫の息だ。


「彼等には血液を提供してもらう。シルバーウルフを誘き寄せる罠だ」


 20先生もいれば、辺りは血の海だ。誰が見ても蝕の後にしか見えないだろう。5人の天使が降臨したのだ。


 ゴロツキ共は静かに俺を見ている。案ずるな、今回はお前等も役割がある。


「では早速だが先生方、血袋と化してくれ」


 先生方は虚ろな目で俺を見ている。すでに疑似餌になりきってるとは気の早い方々だ。


 俺は先生方の喉を切り裂き、血を辺りに散布する。その内、半分の先生を森に投げ込む。この先生方には撒き餌になっていただくのだ。


「……で、何で俺達に干し肉貼り付けるんスか?」


「くだらないことを聞くな。これも策の内だ」


 わざわざ、シルバーウルフにここまでおい出ていただくのに、ゴブリンしかいなかったらがっかりするだろ? これはサービスだ。









 準備は整った。後は待つばかりである。


 干し肉を貼り付けたゴロツキ共の周りに血を撒き散らしたゴブリンを放置し、半分を森に投げ捨てた。まさに自然のビュッフェパーティー。完璧である。もはや成功以外の未来が見えない。


 俺は「運が良ければ、助かるだろう」そうゴロツキ共に言い残すと、風下に身を隠す。隠れる場所などないが、地面に寝転がっていれば、獣如きに見つかりはしないだろう。


 しかし、横になると睡魔が襲いだすのが、この山田。残念ながら抗うことはしない。おやすみ。









「――――ォォ」


「――――さん」


 ん? 


「――きてください!」


 何か、うるさいなー。


「ヤマダさん! マジやばいッス!! 助けてくださいッス!!」


「ガルァァァッ!!!」


「やかましい! 静かにしろ! ブチ殺すぞ!!」


 ヒュプノスとの逢瀬を邪魔するとは不届千万! その罪、死を持って償え!





 目覚めた俺は辺りを見渡す。


 ――喰い散らかされたゴブリンの死骸。


 ――戦闘態勢のゴロツキ共。


 ――ぐるりとゴロツキ共を取り囲んでいる、10数匹の銀色のかわいいワンちゃん。





 いつのまにかムツゴロウ王国に迷い込んだようだ。





「ヤマダさん! 考えてること多分違います! コイツ等がシルバーウルフです!!」


 ゴロツキ共は身を寄せて守りを固め、干し肉を投げることで時間を稼いでいたようだ。超ウケる。


「そいつ等のサイズ、人間の大人ぐらいあるじゃん。干し肉ぐらい投げたところで一口で食っちまうぞ。時間稼ぎなんか不可能だろ?」


「じゃあ、何でアンタ、俺等に干し肉張っ付けたんだ!!」


 サービスだと言っただろうが! 愚か者共が!!


 しかし、余裕もなさそうなので、そろそろ助けてやるとする。


「畜生共よ! こちらを見ませい!!」


 俺は天を掴むかの如く右拳を大きく掲げ、現人神の顕現をアピールする。特に意味はない。


 だが、シルバーウルフは1匹たりともこちらの様子を窺おうとはしない。案ずるな、ウサギは寂しくとも死なぬから、ウサギと名づけられたのだ。




 しかし、畜生如きに無視されるのは、山田の権威にかかわる。


 動物愛護団体の真の力、とくとご賞味あれ――

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