山田と移動手段
「なんスか、ヤマダさんの考えって?」
よくぞ聞いてくれた、烏合の衆よ。この現人神山田の有難き言葉、しかと耳に残すがよい!
「乗り物を作るぞ」
「乗り物? 馬車とかッスか?」
おしい! 肝心の馬がいないではないか。だが、惜しいので山田ポイント1点あげちゃう。
「ここには材料がない。とにかく森に向かうぞ」
数刻の後、俺達は森に着いた。
見渡す限り森である。取り分け感想はない。森の感想を求められても『木がいっぱいありますね』ぐらいしかないからな。大体、森嫌いだし。
「それで、ヤマダさんの考えてる乗り物はどんな物ですか?」
「それは出来てからのお楽しみだ」
最近では、高校生でさえ車を作る御時勢だ。彼奴等に出来て、この山田に出来ぬ道理はない。
まずは材料集めだ。4人が乗れるぐらいのサイズだから、丸太4本もあれば十分だろう。
俺は木を切り倒す為、森に入る。今こそ関東の与作と噂された俺の力を見せる時だ。刮目せよ。
――薄々とは気付いていた。自分を誤魔化し、気付いてないフリをしていた。
しかし、自分に嘘をつくという行為には限界がある。綻びとは小さなことから生じるものなのだ。
皆、嘘かと思うだろうが、俺は木を切る道具を何1つ持っていない。山羊座の如き俺の手刀でも木を伐採するのは難しいだろう。
だが、森の外にいるヤツ等の顔を見ろ。まさしく迷える子羊の目。迷える者を導くは神たる俺の宿命。
手にしている物と言えば、苦楽を共にした『釘バット』だが、コイツなら……強敵達の想いを乗せた、コイツなら……
「おい、斧貸せ。バットで木が切れるわけないだろ」
鈍器でどうやって切りゃいいんだ。木なめんなクソが。
「さて、切り倒し、枝を削いだ丸太が4本。コイツを適当に縄で縛って固定する。これが座席だ」
丸太を横に並べて縛っただけの、簡単な物だ。
「次に乗り物の動力兼車輪を調達する」
「今から野生の馬とか捕まえるんですか!? それに車輪の調達……?」
「まあ、ここで待ってろ。すぐ捕まえてくる」
「あれ? 昨日の晩にも同じことが――」
動力と言えばヤツ等だ。これ以上に的確なモノが存在しうるわけがない!
「あ、帰ってきた」
俺は早速、捕まえてきたモノをゴロツキ共に見せる。
「ヤマダさん。一応聞きますが、それ何ですか……?」
「見てわからんか。俺達に安心と快適な旅を約束する、みんな大好きゴブリンさんだ」
今日も彼等に活躍してもらうのだ、さん付けしろよ?
ちなみに20匹ほど捕まえたんだが、なんせ数が多いので縄で縛って引き摺ってきた。数匹死んでいたが、まあ些細なことだ。
「彼等には丸太を担いで、全力で走ってもらう。その上に俺達が乗るという寸法だ」
20ゴブリンもあれば、かなりの馬力と速度が期待できるはずだ。
ゴロツキ共は静かに俺を見ている。発想力の余りの高さに度肝を抜かれているのだろう。貴様等とは違う次元なのだよ。崇め奉れ。
「では早速、ゴブリンさん達この丸太を担いでくれ」
ゴブリンさん達は悲壮感漂う表情で俺を見ている。どうやら新時代の幕開けに喜んでいるようだ。
俺はゆっくりと丸太を持ち上げると、
「さあ――、聖帝十字陵の礎となれい!!」
ゴブリンに叩きつけた。
不覚! 余りにもコイツ等の顔がイラッとしたから、やってしまった。だが反省などしない。
「何やってんスか!」
「ただ、ゴブリン惨殺しただけじゃないッスか!!」
「そもそも、これ最初の時点で計画が破綻してますよ……」
おかしい……俺の計画では『サラマンダーより、ずっとはやい!!』をやるつもりだったんだが……コイツ等がムカつく顔してるのが悪い。
「騒ぎ立てるな、塵芥共よ! 俺が本気でこんなことを考えたと思っているのか!!」
ゴロツキ共は疑いの目で俺を見ている。嘆かわしい、信じる心を持っていないとは……だから貴様等は導かれんのだ!
「案ずるな、策はまだある」
神算鬼謀の才を持つ、この山田。新たな策が次から次へとダンゴ虫の如く湧き出てくるわ。
「貴様等、この縄を腹に巻きつけろ」
ゴロツキ共に1本の縄を渡し、腹に巻きつけさせる。最後に俺の腹に結び、俺を先頭に一列に並ぶ。所謂、スリップストリームだ。今日こそ音速の壁をブチ破ってやる。
「死ぬ気でついてこい。行くぞ! ガイア、オルテガ、マッシュ!!」
全身に力を込め、本気の一歩を踏み切る。大気が振るえ、大地が微かに振動したかに思える。
踏み切った大地は大きく抉れ、周りの景色を目まぐるしく変える土台となる。この速度なら、虫やゴミが当たるだけでも計り知れない暴力になるだろう。
これが今の俺の全力の走りだ。張れるのは悪魔の鉄槌ぐらいだ。
ゴロツキ共も静かなもんだ。自分達の作り出した神の領域に驚嘆しているのだろう。
よかろう、スピードの向こう側を見せてやる――




