山田と料理
さて、野営の準備は出来た。じゃあもう寝るのか? 違うだろ!
次は食事である。食料はゴロツキ共が10日分用意している。問題は内容だ。
だが、見たところ調理道具などは見当たらないが……
「飯はどうするんだ?」
「ええ。簡単なものになりますが……」
パンと干し肉を渡された。俺、昨日の晩飯もこれだったんだが。
「こういうときは、こう何か、アウトドア的な料理を作るんじゃないのか?」
最近では、猫も杓子も料理だ、飯テロだと騒いでいるではないか。
「いやー、食材とか料理道具って結構かさ張るッスよ。それに材料だって日持ちする物だけじゃ足りないッス」
「現地調達しないといけないですしね。水だって必要です。それなら、パンと干し肉で済ませたほうが早いんです」
なんという向上心の無さ、甚だ見下げ果てたわ! 衣食住の内、1つを削るなど愚にも付かぬ行為。
よかろう! ならば、この山田が真の漢飯というものを喰らわしてくれる!!
「ヤマダさん、料理出来るんですか?」
「愚問だな、誰にものを言っている」
三ツ星シェフも裸足でかけてく陽気なサザエさんレベルの俺に向かい、何たる言い草だ。恥を知れ。
最近のヤツ等は、やれ調味料だ、やれ調理法だと嘆かわしい。そんなものは言い訳であり、誤魔化しである。
この山田が宣言する。料理の良し悪しは食材の鮮度にあると言っても過言ではない。山田流アウトドア漢飯の真髄は現地調達による鮮度の確保にある!
「ちょっと待っていろ。晩飯の獲物を狩ってくる」
「え? 今からですか? もう日が暮れ――」
ふん、漢飯の食材など、どこにでもうようよおるわ。見るが良い、そこらに光り輝く生命の瞬きを!
「あ、帰ってきた」
俺は早速、捕まえてきた食材をゴロツキ共に見せる。
「ヤマダさん、それは……?」
「見てわからんか。みんな大好きゴブリンだ」
見よ! 腕の中で暴れ、もがいておるわ! この活きの良さ、この鮮度こそが料理の要!!
「……それ、どうするんスか?」
馬鹿か、お前は? こんなものオブジェとして飾っておくのか? 目障り以外、何者でもないぞ?
調理の本質とは、如何に素材の良さを引き出すかだ。よって調理法は至ってシンプルに行う。
ゴブリンのケツの穴から口へ杭を貫通させる。以上だ。
知っているヤツもいると思うが、これがなかなかコツがいる。失敗しても諦めず、何度もチャレンジしてくれ。
一応、レシピも紹介しておく。
材料――ゴブリン、木の棒
材料集めも一苦労だと思うが、こなせれば魅惑の漢飯の世界へ足を踏み入れることが出来る。
「わかったな? じゃあ食え」
「食え、じゃないッスよ! 世界中の料理人に謝ってほしいッス!!」
「ただの串刺しじゃないですか、超気持ち悪いんですけど……」
じゃあどうすんだよ、このゴミ……
「忘れ物なし、火の始末も問題なし、じゃあ出発しましょう」
ゴロツキリーダーの話では、今日中には森に着くらしい。そういや、シルバーウルフは草原にも出没するらしいが、他にゴブリン以外の魔物はいないのだろうか?
「いますよ。ただ、草原は身を隠す場所が少ないですから、魔物も多く無いですし、強いヤツもいないですけど」
「ヤマダさんは、この大陸をどこまでご存知です?」
この山田、まったくもってご存知ないわ!
「まったくだな。教えてもらう機会もなかったしな」
「じゃあ、俺が簡単に説明するッス」
大陸の中心に『法王庁』そこから東に行けば、俺達のいる『ワンコロ王国』
北に行けば、広大な荒野を挟んで海、多数の島々からなる『ニャン諸島共和国』獣人達の国だそうだ。
川を渡って、西に行けば、『ブリーダー帝国』法王庁と同じく人族主義の国らしい。
「北の荒野はかなり強い魔物ばかりッス。少なくともCクラス以下はいないッスね」
帝国も荒野の魔物もどうでもいいが、海か!
茨城の海人と呼ばれたこの山田。海に潜らずして何処に潜れというのだ!
もはや、このような下らない依頼などキャンセルして、海行くぞ、海!
「流石に無理ですよ。依頼キャンセルはペナルティが大き過ぎます」
じゃあ、さっさと依頼終わらすぞ。俺に考えがある――




