山田と魔術
「……ヤマダさん、何してんスか?」
む? あれ? ここどこだ? 布団の中じゃない?
「何で、道のど真ん中で寝てるんですか……」
ああ、そういや、孤児院に寝床借りに行くの面倒になって、集合場所で寝たんだわ。
「気にするな、問題ない」
周りには、若干の人だかりが出来ていた。衛兵は遠巻きに見ている。コイツ等、俺がもし倒れてたらどうする気なんだ? 見殺しか? なるほど、これが都会の洗礼ってヤツか……
「一応、集合時間ですけど、行けます?」
「ああ、行こう」
都会の風は冷たいという言葉を身に染みて感じた俺は、何事もなかったように起き上がり、鎧に付いた砂を払う。
取り敢えず気にしてない振りはするが、腹は立つので衛兵に瘴気を浴びせておく。市民を護る仕事を怠った罰よ。これは天罰なり。
「俺は場所がわからん。お前等が案内してくれ」
ふふん、安定の丸投げである。だが、道を間違えたときは覚悟しろ。鬼の首を取ったかの如く責め立ててやる。
「大丈夫ですよ。間違えるような道じゃないです」
「そうッスよ! ヤマダさんは大船に乗ったつもりでついて来て下さいッス」
お前じゃないんだから間違えねえよ馬鹿、とも取れる発言だが、温厚の化身と呼ばれる、この山田。まだキレてないっスよ。
「このまま南に向かえば、森に当たります。そこから東に向いて進みましょう。運が良ければ早く遭遇するかもしれないですから」
「昨日説明した通り、シルバーウルフが目撃された場所、キャラバンや旅人が襲われた場所までは大体3日はかかるッス。まあ、のんびり行きましょうッス」
正直、3日も歩きたくない。帰りも考えると6日も歩かされるのだ。冗談じゃない。
シュッと行って、シュッと帰ってきたいのが本音である。何かいい方法はないか……
その時、俺の脳細胞が的確な手段を3通り提示してきた。
――1日で走り抜ける強行軍。……駄目だ、この貧弱な塵芥共では俺に付いてこれない。
――3人を担いで走る。……馬鹿野郎! 俺は聖帝だ! 黒王号じゃない!!
――3人をバラして運ぶ。……うむ、これが一番現実的だな。袋にでも詰めて、向こうで組み立てればいい。
「勘弁してください、全部声に出てます」
3人が離れた場所にある岩を背にして、恨めしそうに俺を見ている。何を恐れているのだ? アロンアルファは万能なるぞ?
「ん? お前等、その岩陰に何かいるぞ?」
3人が岩から飛び退いたと同時に、何者かが姿を現す。
うん、森林浴してたり、観光客だったり、いろんなとこにいる緑の小人だな。何だろう? 草原の草むしりでもしてたのかな?
「ああ、ゴブリンッスね。ここは俺等に任してもらっていいスか?」
あいつ等、ゴブリンだったのか! だって誰も教えてくれないしなー。
俺がいじけ始めると、3人は戦闘態勢に入った。案ずるな、ウサギは寂しくても死なない。
3人の武器は、まとめ役っぽい男が素手、後は剣と斧だ。
ふふん、小物に相応しき武器よ。オーラが足らんわ、オーラが!
だが、そんな俺の期待とは裏腹に、素手の男は何かを念じたかと思うと、何もない空中に魔方陣らしき何かを描き始めた。……何か指、光ってね? E.T.かな?
一瞬の内に魔方陣を書ききった男は、右の掌を前にかざし、何かを唱える。
『ファイア!』
その瞬間、掌から人の拳大の炎が飛び出し、ゴブリンに命中する。
1匹のゴブリンが炎に包まれ、それに戸惑った残りのゴブリンが、剣と斧に切り殺される。
魔法や! 魔法やで!!
ゴブリン共を全滅させた3人に俺は期待を込めた目で話しかける。
「お前、それ教える。俺様、魔法使う。俺様、ゴキゲン」
「なんで片言なんですか……ヤマダさん、魔術見たことないんですか?」
「呪術はあるが、魔術はない。魔法じゃないのか?」
「はい、魔法は過去に失われた技能です。俺が使っているのは魔術です。こう、指に魔力を込めて――」
はい、もう無理。何だよ、魔力を込めるって。気か! 気なのか! だったらカメハメ波撃つわ、馬鹿野郎!
「うーん、職種が魔術師なら魔力の制御は結構簡単なんですがね。ヤマダさんのその瘴気の制御と似てるところがあると思うんですが……」
チッ! やめだ、やめだ! この3匹揃ってもスライムぐらいにしかなれない外道共が。
やさぐれついでに辺りに瘴気を撒き散らしていると、3人が非難がましい顔で見てきたので勘弁してやる。感謝しろ。
「そろそろ日も暮れるッスから、この辺で野営するッス。大丈夫ッスか?」
夜通し歩くかと思いきや、ちゃんと寝るのか。
きりのいいとこで森でキャンプしようぜ! と提案すると、死にたくないから嫌だそうだ。
じゃあ、明日の晩はどうすんだ。森の近くでキャンプするんだろ? と聞くと、3人揃って、
「ヤマダさん! オナシャース!」
と答えが返ってきた。コイツ等、ほんとに冒険者か?――




