表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/44

山田と工業区画

 ワンコロ王国工業区画――別名、不眠地帯


 王国内では住居区画の次に面積を占める場所。

 手工業ギルドがあり、武具、服飾、靴など王国の生産の拠点である。ここで作られた物が商人ギルドによって、王国の大半で販売される。

 だが、この工業区画が不眠地帯と呼ばれる所以は、王国の生産品『魔道具』にある。ここで作られた戦争目的以外の生活魔道具は大陸中へ輸出されている。

 有能な技術研究所、大量生産が可能な土台、それによるコストの低下が一大産業にまでのし上げた。

 各国とも、魔道具の生産は行ってはいるが、今一歩、王国に追いつけていないのが現状である。


 しかし、そんなことも露とも知らず……





「フハハッ! 社蓄共が不眠不休で働いておるわ!!」


 職人達に睨まれたが、気にしないでおこう。しかし、みんな夜遅くなのに頑張って働いてるなー。ブラック企業しかないのかなー。


 王国の行く末を案じている俺だが、ふと1つのことに思い至り確認する。

 スーツの男に渡された紙だが、場所は書いてある。だが肝心の人物については何一つ触れていない。……嫌がらせかな?

 何はともあれ、ここにずっといてもしょうがないので指示された場所へ向かうとする。


 そこは工業区画にある酒場だった――





 酒場に着いた俺は一考する。まず酒場とは、酔っ払いという名のゴミ虫共が集まる掃き溜めである。ここでヘラヘラしながら入ろうとしようものなら、瞬く間にゴミ虫に舐められ、たかられるだろう。

 必要なのはインパクトだ。格闘技の入場シーンのように強いインパクトが必要である。


「ここは連邦捜査官ヤマダ・バウアーが制圧した! 全員ひざまずけ! 両手を頭の後ろで組め!!」


 勢い良く扉を開けると、釘バットをマシンガンに見立てて構える。

 酒場の客も初めは、「どこの馬鹿だ?」とか「何かのイベントか?」とか様子を窺っていたが、数秒も経たない内に「あれ、狂人じゃねえか?」に変わった。


 そして更に数秒後――


「ワッハッハッ! おい、どんどん飲め! 食え!!」「おーい、もっと酒持ってきてくれぇ!」


 お呼ばれしていた。


「あのいけ好かない教会潰したの、お前さんだろ?」


「ワシ等もかなりはらわた煮えくり返ってたからなぁ! ようやってくれたわ!!」


 みんなむかついてたんだなー。


「それで、狂人は工業区画に何の用事だ? 武具の仕立て直しか?」


「それなら、ワシんとこでやらせてくれ! その武器と鎧、じっくり見てみたかったんだ!」


「特に、その鎧な! どこで手に入れたんじゃ? 大昔におった魔王が身に付けていたと言われても信じれるくらいの禍々しさじゃ!」


 ふふん、やはり職人達は一味違うな。この神秘的釘バットとモード系鎧の虜になっておるわ! 崇めよ。


 む、いかん。俺としたことがあまりの喝采に本来の目的を忘れるところだった。褒め殺しとはやるじゃないか。これが諜報機関の手口か、侮れん……


「ここに帝国の諜報員が潜伏していると聞いた。そいつを捕まえにきたんだ」


「酒場に潜伏するとは意味がわからんな、それに口に出す内容でもないぞ。こりゃ依頼する人間を間違っとるな! 傑作!!」


 クソ爺ブチ殺すぞ。


「そこのマスターにでも聞いてみろ。何か知ってんじゃねえか?」


 カウンターの向こうにいる初老に差し掛かった男を指す。ダンディーコンテストがあれば、俺と張れるぐらいのダンディストだ。

 ヤツから話を聞きだすべきなのだが、この山田。最近、物理的説得やら威圧的交渉など不本意ながら脳筋のイメージが付きまとっている。

 ここは知的生命体山田の名に恥じぬ聞き込み調査をするべきではないのか? いや、すべきだ!


「君がヤマダ君か?」


 ぬ、先手を取るとはやるじゃないかダンディー。


「噂にたがわず、面白い人だね。猛り狂う時もあれば、聖人のような行動もする。まさに狂人だね」


 最近、狂人って呼び名が定着してきだしたな。解せぬ。


「僕が、君が探している帝国の諜報員だ」


 流石は名探偵山田。労せず利を得るとはこのことなり。


「いいのか、あっさりバラして。アンタを誘拐しに来たんだが?」


「ハハ、誘拐されるわけにはいかないが、同行はするよ。僕にも思うところがあるからね」


 ワケ有り物件か。こいつぁ地雷臭がプンプンするぜ! 


「仕事の引継ぎするから、少し待っててくれないかい?」


「ああ、わかった。終わったら声掛けてくれ」


 そんなこんなで、ダンディーと共に酒場を出た俺は、闇ギルドへと向かうことにした。


「僕を探してた依頼主はレトリバー王だろう?」


「詳しくは聞いてないが、そんなとこだろう」


「今は詳しく話せないけど、君も関ることになると思うよ」


 えー、やだー、完全に地雷じゃないですかー。





 ダンディーを無事送り届け、ギルドを後にした。まあ誘拐とは言っても、本人自ら一緒に来たんだから、酷いことにはならんだろう。

 ゴロツキとの集合時間まであと数時間。集合場所の南門に着いた俺は、道の真ん中で大の字に寝そべった。


 それでこう言われるんだ、きれいな顔してるだろ。ウソみたいだろ。寝てるんだぜ。と――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ