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山田大地に立つ

 ――気が付けば、俺は見知らぬ草原で寝ていた。



 ここは何処だ?


 俺は先程、信号待ちしている人にいかにして華麗な膝カックンを決めるか考えていたと思うのだが。


 それに何か、誰かと喋っていた気もするが……? まあ、思い出せないのであれば大した事ではないと言う事だ。


「む?」


 俺の右手は何か薄汚い紙切れを握りしめていた。紙には下手くそな字でこう書いてある。


『そこから山の方へ向かえば、麓に街がある。取り敢えずはそこに行けばいい。間違っても森には向かうな』


 何故、俺はこんな訳がわからない事が書いた紙を握り締めているのだ? この聖帝に命令するとはいい度胸だ。


 それに森林愛好家の俺としては急に森林浴がしたくなった。コンクリートジャングルを生き抜いてきた俺には、自然と触れ合う機会が少ないのだ。


 紙切れを丸めてその辺に捨てた俺は森へ向かう。1万年もあれば紙切れも砂になるだろう。案ずるな、これは環境破壊ではなく、還元である。





 清々しいほどに禍々しい森を、拾った手頃な木の枝でアバンストラッシュの真似をしながら散歩する。


 時折り、妙にデカイ蚊や蛾が飛んでくるが、俺のアバストの敵ではない。慈悲はない。


 しかし、ここは日本のどの辺だろう?


 俺が住んでいた所にこんな森はない。カラフルなキノコも生えてなければ、毒々しい花も咲いてない。近所の鈴木さんちの庭がこんな雰囲気だったが多分違うだろう。


 となると、もっと離れた場所にいる? 自分がいつのまにか瞬間移動を習得した事を否定することが出来ない。


 俺が自分の才能の恐ろしさに沈思黙考していると、木の陰から第1森人が突然現れた。


 同じ森林浴愛好家としては、挨拶の1つもしておかなければ道義に反する。


「やあ、今日はなかなかの森林浴日和ですな」


 だが、この第1森人、少し様子がおかしい。


 背が低く、顔は稀に似た人を見かけるが、まぁ人間の顔じゃない。身に付けている物は錆びた剣に薄汚い腰ミノ。それに全身が緑である。


 いや、これが森林ヨーカーとしての正しいスタイルなのか?


 俺が森林ヨーカーとしての正しいあり方を思案していると彼は、俺に挨拶を返す事もなく剣を振りかぶり飛び掛ってきた。


 襲い掛かられれば、叩きのめすのが道義。相手になろう。


 俺は、何事もなく剣を避けると、木の枝を握り締めていた拳で殴り倒した。


「グガッッ」


 倒れた第1森人を観察してみる。背も低く、顔色も緑だ。なるほど栄養失調だろう。


 その辺のカラフルなキノコと毒々しい花を口の中に詰め込んであげた。


 やはり一日一善、良い事をすると気持ちも晴れやかになる。


 そろそろ森も飽きてきたことだし、街に向かおうかと思う。


 やはりシティー派の俺としては、腐葉土の湿った臭いと草花の青臭さが耐えられない。



 こうして俺は森を後にした――


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