山田と闇ギルド
再び、スラム街まで戻ってきた。外はもう暗くなっていたので、下水道はさらに真っ暗だ。明るくなってから来ようかな? とも思ったが、この山田を侮るなかれ。俺は闇ギルドの詳しい場所なんか知らない。だから、夜を狙って来たのだ。
名探偵山田によると、虫というのは光に集まる習性がある。見よ! ポツポツと見える焚き火や魔道具の光に、薄汚い虫けら共がたかっておるわ! この虫けらの中からゴキブリを探し出せばいいだけの話だ。もちろん、聞き込み調査というものは足で稼ぐもの。
――さあ、物理的聞き込み調査の開始だ!
「おい、一度しか言わんからよく聞け。闇ギルドは何処だ?」
「ああ? 何だテメェ? ガハッ!!」
まったくもって腹立だしい。今、頭を叩き割られたヤツで20人目だ。何故、わざわざ一度しか言わんと説明してやってるのに、ああ? とか、何だテメェ? とか言うのだ! 知らんなら知らんと言え! 知ってるなら答えろ! まったく……
「ヤベェな、あの男。狂ってんのか? ギルドに話通してきたほうがよくねえか?」
「ああ、幹部の連中に任しておいたほうがいいな。ちょっと行ってくる」
小声で何か相談していた男の内、1人が逃げようとしたので、追いかけようとしたが、
「まあ、ちょっと待ってくれよ、兄さッ……」
まだ質問もしてないのに勝手に話しかけてきたので、頭を殴り飛ばしておく。まあ、100人ぐらいに聞いて、場所がわかったら御の字だと思っていたから、大した問題でもない。後、79人。締まっていこう!!
「おいおい、こりゃまた凄惨な風景だねぇ」
1、2、……3、奥にもう1人いるから4人か。全身を覆う黒いフードを着たヤツ。スキンヘッドの大男。奥にいるヤツは暗くてわからん。それと先頭に立つ、スーツに似た服を着る優男。そこらへんのゴロツキとは雰囲気が違うな。
「お前等、闇ギルドのメンバーか?」
「いやぁ、お兄さん、なかなか強いね――ッ! あっぶねえ!! 駄目だ、こんな狂人構ってられるか! さっさと殺っちまうぞ!!」
ほほう、俺の一撃を避けるとは。遂にゴキブリ共のお出ましか……
スーツの男が俺の後ろに回りこむ。それに気をとられた隙に、黒いフードが俺に向け、針のような何かを投げつけてくる。投擲は厄介だな! 回転するようにその何かを避け、その勢いのまま、スキンヘッドに釘バットを叩きつける。スキンヘッドは両腕につけた手甲で釘バットを防いだが、問題ない。釘バットを手放し、眼窩に親指を突き刺すと、
「死ね」
親指から瘴気を体内へ流し込む。これで一匹目。声にならない悲鳴を上げているスキンヘッドをスーツの男へ向かい蹴り飛ばし、フードを威圧する。一瞬だけしか体を強張らすことが出来なかったが十分だ。足元に転がっている釘バットを拾い、フードに投げつける。これで2匹目。
「待て! 降参だ!」
奥に潜んでいた、最後の1人が姿を現す。40歳ぐらいのレザースーツのような物を着た男だ。
「お前は、闇ギルドの人間か?」
「ああ、そうだ。俺がここのリーダーだ」
「教会を襲ったのは、お前等か?」
「そうだ、請け負った仕事だからな」
「誰に依頼された?」
「……それは言えん。クライアントの情報は流せん」
まあ、当たり前だな。簡単に吐くとも思ってなかったしな。
「わかった。言えないなら仕方ないな。――死ね」
「待ってくれ! 答える! 俺が答える!」
スーツの男が庇うように飛び込んできた。
「教会だ! あの古い教会のシスターに依頼されたんだ!」
……はぁ?
「どういうことだ? 自分で自分の教会を壊せって依頼してきたのか?」
「そうだ! 嘘じゃねえ! 信じてくれ!!」
スーツの男の話だと、一昨日の晩にシスターからかなり切羽詰った様子で依頼があったらしい。
「じゃあ、孤児院の子供を襲ったのは?」
「それは知らねえ。俺達はクズだが、子供に手出すほど落ちぶれちゃいない!」
「もういい、後は俺が話す」
スーツの男を制止するように、リーダーが会話に入ってきた。
「余りにもきな臭い内容だったんで、独自に調べたんだが……どうやらあの新しい教会に人質を取られてる。孤児院にいた子供数名が、保護という名目で教会内部に匿われているんだ」
「おそらく、教会側とシスターの間で何か話があったんだろう。ただ辞めますじゃあ周りの信仰者が納得しない。新しい教会に疑念も向く。だから賊に入られて存続出来ないように見せかけろ、とでもな。だが、女1人で壊せるわけもなく、周りに頼むことも出来ない。だから俺達に依頼したんだろう」
マジかー。
「恐らく、シスターには監視がついている。だが、一縷の望みを託し、お前に話したのかもな」
あれ? 俺、たしか動物愛護団体の件で来たんだが、いつのまにか重大な責任負わされてないか?
「初めからそう説明すれば、戦うことにならなかったんじゃないか? お前等の仲間、相当殺したぞ?」
「馬鹿言うな! お前、いきなり襲い掛かってきただろうが! だが、これでも裏家業だ。死ぬ覚悟のないヤツはウチにはおらん。気にするのはお門違いだ」
たいして気にもしていなかったが、許すと言うのであれば、許されてやろう。
しかし、俺の灰色の脳細胞がこの説明を憶えることを拒否し、王国が黒幕となった辺りで、スーツの男が説明の為についてくることになった。
俺、帰ったらそろそろ寝るんだ――




