山田と教会
俺は今、街中を駆け抜けている。それはもう全力でだ。もちろん孤児院に向かう為だ。俺が駆け抜けた後の石畳が、削岩機で削られたような有様になっているが、緊急事態だ。許されてやる。
「もっと速く翔けるニャ! スピードの向こう側を見せるニャ!!」
大分懐いた子猫は、俺の兜にしがみついている。俺が孤児院の場所を知らない為、ナビゲートしてもらっているのだ。ん? よくよく考えれば、コイツしゃべってるよな? まあ世の中、ご飯と鳴く犬や猫がいるぐらいだ。しゃべる猫がいてもおかしくないだろう。
「止まれ、貴様!」
と、衛兵共が沸いて出てきた。瘴気で蹴散らしてもいいが、ここは新しいスキルをお披露目してもいいだろう。
「神の戯れの中、眠りつくがよい」
俺が自分の威厳を示すかの如く、右手に持った釘バットを杖を突くように地面に叩きつけると、辺りに悪寒が走った。目の前にいた衛兵共は、次々と血の気が引いていき、泡を吹いて倒れていった。この一方的に敵を威圧する能力、これを『不運と踊っちまった』と名づけよう。
「すごいニャ! タロウは化け物ニャ!!」
ふふん、もっと褒めよ。俺は褒められて伸びるタイプだ。
「これ、教会か?」俺の第一声はこれだった。たしかに教会と言われれば、面影は残っている。外壁はボロボロ、穴が開いてる箇所も見える。建物の頂にあるはずの信仰のシンボルも見当たらない。中に入れば、さらにひどい有様だ。床板は所々抜けており、天井からは数箇所、空が見える。もちろんイスなどない。
奥からシスターらしき人物が出てきた。歳は50前後ぐらいだろう。俺のストライクゾーンからは外れているな。日ハムのピッチャーなら3回3分の1投げて大炎上だ。6失点は堅いな。
シスターは俺の兜にしがみついている子猫を見ると、大喜びで抱えあげ、抱きしめた。
「何とお礼を申し上げてよいのか、感謝の言葉もありません……」
「感謝はいらん、何故こんな状況になっているのか教えてくれ」
シスターの話によると、ここ数ヶ月、何者かの嫌がらせが続いているらしい。時には、孤児院の子供が襲われ怪我したこともあったと言う。
「ですが、昨晩、教会が賊に襲われてこのような状態になってしまいました。子供達に怪我がなかったのが、不幸中の幸いでしたが……」
「何故ギルドに調査を依頼しないのだ?」
「寄付を頂いているのですから、教会が余分な貯えをすることはありません。今までは教会と孤児院を維持する為に全て使わせて頂いてました。ですが、教会がこの有様ではもう……」
「わかった。ギルドからは俺が依頼を出しておく」もちろん担当も俺だけど。
俺は有り金を全部シスターに渡そうとした。シスターはずっと固辞していたが、最終的には受け取った。余りにも俺が酷い表情をしていたのだろう。
――動物虐待は絶対に許さん。この世に髪の毛一本残せると思うなよ?
ちょうど教会を出たところで、中野とマイケルに遭遇する。訳を話し2人に孤児院の護衛を頼むのだ。2人は快く引き受けてくれた。特にマイケルなんかは「なん……だと……?」などと、非常に不愉快極まりない態度だったので瘴気を浴びせ続けていたら、中野のバックドロップを喰らった。解せぬ。
「正直、怪しいのはもう1つの教会でござるな」
マイケルの話では、数ヶ月前に建った教会があると言う。ほとんどの教会は、この大陸の中心に存在する『法王庁』の管轄らしい。
「しかし、新しく出来た教会は、法王庁の直轄でござる。司祭も枢機卿団から派遣された人物と言う話でござる」
ほほう。
「ここの教会は、昔からある故、一般市民に深く支持されているでござる。新しい教会の方は直轄故、急速に貴族からの支持を集めているでござる」
なるほどな。
「ストレートに言えば、ここの教会が邪魔ということでござるな。しかし、このような卑劣なことを直接するとは思えんでござる」
コイツなにげに有能じゃね?
「つまり、俺に新しい教会を潰して来いってことだな。まかせろ。ブレイク工業ばりに更地にしてきてやる」
「そこはまだ調査中でござる。教会が犯人と決まったわけではござらん。山田殿に潰してほしいのは、手段のほうでござる」
1つの手段を潰せば、また新しい手段を探す。最終的には自ら動き出す事になる。そこをマイケルは狙うらしい。
「いるでござるよ。足のつかない非合法の集団が」
どんなヤツからでも、金さえ払えば依頼を受ける『闇ギルド』という手段を潰せということか――




