山田とスラム街
ふふん。本日2度目の正座、2度目の説教である。だが、案ずるな! この山田の辞書に反省、後悔、自重の文字はない!! 崇めよ。
中野とマイケルの2人は聖女ごっこの為、また大通りまで来ていたらしい。そこで怪物が暴れてると都民から聞き、現場まで急行したそうだ。
中野は俺に説教をした後、倒れている兵士達を介抱している。悪役メイクして人助けとか、ププッ、超シュール。
「しかし、会うたびに禍々しくなっていくでござるな……。何を目指しているのでござる?」
ふん、こんな無知蒙昧なポンコツサムライモドキにこの崇高なファッションセンスがわかるはずもない。
俺がマイケルに瘴気を浴びせていると、どうやら兵士達の治療が終わったようだ。
「仕事増やすんじゃねえよ、馬鹿野郎」
「先に手を出してきたのは向こうだ。俺は何も悪くない」
「そもそも何で、大通りで暴れていたでござるか?」
暴れていたのではない、反復横とびだ。と説明するのにどれほどの時間を要するのだろう。それこそ時間の無駄だ。この限りある青春の数秒を無駄になど出来るであろうか? いや、出来るはずがない!
俺が反語を用いて、マイケルに青春の素晴しさを説いていると、先程の偉そうな騎士がやってきた。
「やはり異世界人というのは、どいつもこいつも野蛮なヤツばグアァッッ!!」
何を言うかわかったので、先に瘴気を纏わりつかせておいた。瘴気の扱い方もだいぶん慣れてきたな。
「お前、どんどん人間離れしていくな……」
大通りでの騒動が一段落ついた後、2人はスラム街へ向かうらしい。
どこの国にも日の当たらない場所があり、そこには小悪党やらゴロツキなどが屯している。だがそれだけならまだしも、中には治療院にかかる金がない病人や怪我人、孤児も数多く存在している。2人はそういった人々を救う為の活動もしていると言う。暇なのでついて行こう。
スラム街は王都の南西の奥、下水道にあった。一般人なら間違いなく、足を踏み入れる場所ではないだろう。
2人は早速、治療に取り掛かっている。俺が見てもわかるぐらい、治る見込みのないヤツを治療している。まあ、人それぞれでいいんじゃないかな……。ここにあると聞いていた、闇市場とか闇ギルドでも探してみようかな。
だが、そんな俺の様子を先程から窺っているヤツがいる。そこの通路の角だ。ばれないように視線をやると、2足歩行の子猫が俺を見ている。俺は懐の財布を手にぶら下げてみた。
――もっと近づいてこい。
――もう少しだ、がんばれ。
――そこだ! そこで手を伸ばすんだ!
「かかったな、馬鹿め! それは孔明の罠だ!!」
「二ャギャアァァァァ!!」
子猫は凄い勢いで逃げていった。他にすることもないので追いかけようと思う。ヤツが走れなくなるまで徹底的に追いかけようと思う。
俺が追いかけてきていることに気が付いた子猫が、チラチラと後ろを振り向きながら必死の形相で逃げている。振り向く度、俺が瘴気を出して驚かせる。子猫は涙目になりながら、必死に逃げる。そして遂に気を失うように倒れた。
「お前は何を考えてるんだ!!」
ふふん。本日3度目の正座、3度目の説教である。だが、案ずるな! まったく反省などしておらぬわ!! 崇めよ。
中野に介抱されて、気が付いた子猫が自分の身の上話を始めた。
この子猫は、住宅地区のはずれにある教会に隣接した孤児院から来たらしい。なんでも子供の人数が増えてきだして、生活が困窮しているらしく、小さな子供の為、数名の子供が出て行く決断をした。だが、子供を雇ってくれるところがあるわけもなく、行き着いた先がスラム街だった。
「そうか……」
中野はそう呟くと、俯いたきりしゃべらなくなった。
つまりこのニャンコ共は、腹が減ってるということだな。動物愛護団体の俺としては、由々しき事態である。すぐに孤児院に向かわねば――




