山田と呪われた鎧
「やってくれたな、この大馬鹿者が!!」
なんという馬鹿だ! こんな馬鹿見たことがない! どうするんだこれ、研究所が滅茶苦茶じゃないか! しかも何で照れているんだ、誰も褒めてなんかないわ!! もうやだ、コイツ……
私は、目の前で正座をしている馬鹿を見下ろす。大体、コイツ何で、あの鎧を着てるんだ?
あれは昔、世界に絶望した魔術師が、怨み辛みを自分の命を媒介にして呪詛をかけたらしい、いわくつきの鎧だぞ! 前の持ち主は鎧の怨念に囚われて、気を狂わせながら死ぬまで戦ったらしいが……
だが、見た感じでは平然としている……? 呪いはかかってなかったのか? いや、そんなはずはない! こちらの調べでは尋常ではない類の、呪いがかけられてたはずだ。
「おい馬鹿、お前、その鎧着ていて何ともないのか? こう、破壊衝動や殺戮衝動などが沸いてこないのか?」
馬鹿の話によると、最初は耐えられないほどではなく、今では気にならないぐらいらしい。元より呪いに耐性があったのか、それともスキルを弱体化した呪術の影響か……
どちらにしろ、呪いの影響が少ない人間は非常に貴重だ。なんせ、世界中にはまだ解明されてない呪いの武具や道具がごまんとある。そういった物をコイツに装備させれば、呪いの種類、また武具本来の効能がわかる。
今回の件をチャラにしてやって、魔術研究所特別所員とでも肩書きを与えておけば、呪い関係の研究速度が数段跳ね上がるな。この鎧は餌付けとしてくれてやれ。うん、そうしよう。
ふふん。あの女所長、この俺のモード系ファッションに見惚れて無罪放免になったわ。俺、パリコレ出れるんじゃね?
何やら、魔術ナントカと言う役職まで与えられたが、まあ気にする必要はないだろう。必要な時にお呼びがかかるらしいから、それまでは好き放題させていただこう!
俺、街に行くんだ!
……解せぬ。何故、みんな俺を避けて通る? 俺が大通りの右側を歩けば、皆、左側を歩く。真ん中で立ち止まっていると、モーゼの如く、人が左右に別れていく。反復横とびを始めると、通りに誰もいなくなった。
もしかすると? 俺は僅かばかりの可能性を考える。俺のファッションセンスが先を行き過ぎたか? 愚民共は自分達の格好を見て恥ずかしくなったのか? 確かに俺は、茨城のドン小西と呼ばれるぐらいのファッションリーダーだ。だからと言ってそんなに自分を卑下する必要などないだろうに……
俺が、愚民共の卑屈さに心を痛めていると、東の方面から、馬に乗った鎧姿の兵士達が大勢やってきた。何だろう? エレクトリカルパレードかな?
「包囲せよ! 全員、戦闘態勢に入れ!!」と先頭にいた、偉そうな騎士が指示をだす。
敵襲か! と周りを見渡せば、包囲されているのは俺である。何故?
「都民から、大通りで暴れている怪物がいると報告があった! 王国第三騎士団の誇りにかけて、敵を討ち取る! 全員、かかれ!!」
なんという蛮族、なんたる蛮行! 俺はアリの反逆さえ許さぬ! この聖帝の新装備の力、その愚鈍なる眼に篤と見よ!
包囲していた兵士達が、一斉に俺に向かい、槍を突き立てる。が、槍が届く前に全員が崩れ落ちる。鎧から溢れ出る瘴気に当てられたのだ。
じりじりと後退して行く兵士達に向かい、
「この一撃、神の嘆きと知れ」
右手に持った、釘バットを大きく掲げる。
「滅びるがいい!! 愛とともに!!!」
釘バットを振り下ろした瞬間、何者かの刀によって、受け止められた。
「ちょ、ちょっと、待つでござるよ!」
おや、マイケルではござらんか? それに俺の腰に腕をまわしてるのは、誰でござるか? そう思ったときには、既に遅く、
「何やってんだ、クソ馬鹿がぁぁぁぁ!!」
それは奇麗なジャーマンスープレックスを決められた。
うむ、腰の入ったなかなかの一撃である――




