山田と呪い
俺としたことが、憧れのジャキガニストになれると思った所為で、少々取り乱したぜ。まだ右腕が疼いてやがる。
「……話進めていいか?」
あ、はい。
「今回、お前に呪いをかける話だが、呪いと言うには大げさだ。要は、『制約と誓約と成約』の呪術だ。今どき、こんなモノするやつはいないがな」
製薬と成約? 薬箱の営業かな?
「例えば、戦闘時に魔術しか使わない制約、まあ、制限だな。それを破れば命を失う誓約。こちらは文字通り、誓いの意味合いだ。これで呪術が成立すれば、新しい力や強化の恩恵が受けることができるという成約」
ふーん。
「だが、制限するもの、誓うものが小さければ成立しない、大きければリスクが増える。結局、自力で戦ったほうが確実だ。だが、お前の場合は強化ではなく、弱体化だ」
な、なんだってー。
「まずは、皆殺しの『スキルを使わない』制約、破れば『スキルを消失する』誓約。これを成立することで受けれる恩恵を『スキルを維持する』にする。成約が決まった時点で恩恵を受けることができるから、まあ、弱くなっただけの呪いみたいなものだな」
なるほどなー。
「ああ、理解しなくていいよ、時間の無駄だから」
めっちゃ理解しとるっちゅうねん。アレだろ? 薬箱の契約したら、営業マンが「これも置いときますね」って栄養ドリンク箱の上に置いてって、サービスかな? って飲んだらカッチリ金取られたって話だろ? せめて箱の中にいれろよな、邪魔なんだよ。
「じゃあ、パパッと術式組むから、呪われてさっさと帰れ。お前みたいに暇じゃないんだ」
そして、俺に『制約と誓約と成約』の呪術が行われることとなった……
「どうだ? 体調の変化とかあるか?」
「いや、特に無い」
「呪術は問題なく成功した。これで、お前がいくら怒っても皆殺しのスキルは発動しないはずだ。よかったな、存分にキレてこい。じゃあな」
と、すぐに部屋を追い出された。別に寂しくなんかないんだからね!
だが、俺にも真の目的がある。
俺、絶対あの鎧着て帰るんだ……
俺は、再び『エンチャントルーム』の前まで来た。中の様子を窺うが、相変わらず隙がない。しかも、皆、やけに苛々している。床には数本の剣と腕輪が、叩きつけられたかの如く転がっている。物を粗末にするな! もったいないお化けが出るぞ!
俺は扉の前で思索する。唸れ、俺の灰色の脳細胞よ!
――潜入するか? いや、顔がバレてる。
――変装するか? いや、釘バットでバレる。
――物理で説得するか? いや、脳筋ではないが保留だな。
――所員が帰るまで待つか? いや、そんなに待ちたくない。
そのとき、俺の灰色の脳細胞が答えを導き出した。
この『エンチャントルーム』の隣は倉庫部屋になっている。中には用途はまったくわからないが、いろいろある。そう、ここに火を点ければいいのだ!
学生の時に面白がって授業中に火災警報器を鳴らすと、皆、一斉に教室から出てきた。名づけて『火災警報器作戦』完璧である。崇めよ。
だが、俺の作戦に唯一の誤算があるとすれば、火の勢いがちょっとだけ強かったのと、爆発したの2点だけだ。
火の勢いと爆発の威力は予想以上に大きく、隣の『エンチャントルーム』までおよび始めた。火災に気が付いた所員達が必死の消火活動に当たっている。しかし、俺はそんなときでも慌てふためかず、KY山田と恐れられるほどの、空気のような存在感で鎧に近づいて行く。
ついに、念願の鎧を手に入れたぞ! 危なく、所有者がいれば、殺してでも奪うところだった。
――俺、モード系として街に繰り出すんだ。
早速、鎧を着てみたが、
――体中に鳥肌を立たせる、悪寒。鳥肌が出るほどかっこいいってことだな。
――身から湧き出るように溢れ出す、憎悪。周りの嫉妬を一手に引き受けてるってとこか。
――全身を包み込むように纏わりつく、瘴気。洗練されたオーラが眼に見えているんだな。
――留まるところを知らない、破壊衝動。
俺、呪われてるやん。




