第58話
湧き上がる歓声。
それがまた俺達を殺る気にしてくれる。
失礼、やる気にしてくれるのだ。
開会式は既に終わっており、今は1年生ブロック対抗の綱引きが行われている。
「・・・・。」
そして、俺は困ったことになっている。
視線の先では、黄色の鉢巻を身に付けた我がブロックの仲間達が相手の白に負けじと綱を引いている。
そこには何ら問題はないのだ。
問題は相手にあるのだ。
「優君と愛ちゃんが出てるね・・・。」
そう・・問題はこれだ。
正直2人を応援したい。
だが『ブロック長』と言う肩書き邪魔をして応援はできないのだ。
バァンとピストルが鳴る。
「白の勝ち!」
喜ぶ白の選手達。
もちろんベンチの者達だって同じだ。
まぁ・・こっちは悲痛な声がでてるけどね。
目に映るハイタッチをする優と愛ちゃん。
・・・昼にでもおめでとうと言おう。
《続きまして、2年生による障害物・・・え!?ちょ会長いったい何を──ぐふぅ!?》
シーン・・・と静まり返るグラウンド。
・・・これ何てホラー?
《あ〜失礼。放送部の者が何故か倒れたので生徒会長である私が代わる事になった。よろしく頼む。》
絶対にアンタが気絶させただろうに・・・。
哀れな放送部員よ・・アーメン。
「螢・・体育祭大丈夫かな?」
「いや・・間違いなく荒れるだろうな。」
《では今から障害物&借り物競走を始める。選手入場!》
ハッキリ言おう。
障害物&借り物競走はかなり荒れていた。
「ギャース!?何やこれは!?」
悲鳴が絶えないグラウンド。
だって・・ねぇ?
なぜグラウンドで跳び箱18段も跳ばなければならん!?
普通に無理だって!
さらに借り物競走ではお題がヤバいんだもん。
例えば・・『ブス』。
うん、悲惨な結果になったさ。
1番最悪だったのは在り来たりではあるが『校長と教頭のカツラ』だ。
まぁ俺だったら確実に固まっていたな。
ちなみにそれを引いた奴は・・うん、もちろん悲惨だったさ・・。
《続いて2人3脚だ。選手入場!》
俺達は言われるがままに入場した。ただ何も起こらないことを願いながら・・・。
《なお、この競技は急遽、障害物を設置した。保護者には予め確認はとってある。よって教師並びに選手に拒否権はないものとする。》
まてやコラ。
速攻で願いを裏切るな!
「・・・螢・・あれ。」
見たくない。
だが、そう思う気持ちと同時に見たいと言う好奇心がまたあるのも事実。
そして人間悲しいもので、好奇心がその気持ちを上回った。
そして奈緒の指差す方視線を向ける。
「・・・。」
全米が拍手喝采とはこの事だろう。
コースが昨日とは明らかに違うのだ。と言うよりは早苗の言うとおりに障害物が設置されている。
「・・私、自信ない。」
「ミー・トゥー。」
そんな気持ちのまま始まった2人3脚(障害物有り)だった。
確実に迫ってくる順番。
緊張はない。
驚きと戸惑いは多々あるがな。
「・・・ついにきたね。」
「ついにきたな・・。」
自分の足と奈緒の足を鉢巻きで結びつける。
チラリと隣を見ると・・美帆と和樹は余裕の笑みで俺らを見ていた。
普段は仲良しでも勝負となれば別なのが俺達だ。
4人で火花を散らしている。
肩を組む手にも、自然と力が入る。
「位置について、よぉ〜い──」
パァン!
ピストルの音と同時に俺達を含む、5組が走り出した。
負けたくない、その一心で走る。
それは最大の敵である2人も同じで必死な形相である。
始めのカーブを曲がりきった時には他の3組は遙か後ろを走っていた。
「螢、あれ!」
「何故に安全マットが!?」
コースには普通よりも大きめのサイズである、フッカフカの安全マットが敷かれていた。
そんな事には構わず普通に走ろうとマットに足を乗せたのだが・・・。
「きゃっ!」
「ぬぉ!?」
フッカフカである=足が沈む
この法則により、倒れた奈緒の道連れで俺も倒れたのだ。
「奈緒早く立たないと!」
奈緒の腕を掴み、立ち上がるのを手伝う。
「うん!負けられないもん!!」
「「お先に失礼!」」
奴らにリードを許してしまった俺達は直ぐに追いかけるためマットから脱出した。
だが障害物はまだ用意されていた。
だが、それらを何とか乗り越えて最後の一直線を激走する2組。
「「負けない!!」」
吠える和樹と美帆。
「「絶対勝つ!」」
叫び俺ら。
ゴールまで後少し!
異常なまでの声援。
黄色ブロックの皆の為にも負けられない!
ゴールテープを切る。
和樹達と同時に感じられた。
どっちが1位なのか知るため審判である生徒を4人で見つめる・・もとい睨みつける。
生徒はビクッとした後に4色の旗の中から、黄色の旗を空高く上げた。
わぁー!っと上がる歓声。
俺と奈緒は笑顔になり、喜びの声を出そうとしたのだが・・・
《おぉ〜。1位は火野夫婦だ!》
スピーカーから聴こえた早苗の声に
「「誰が夫婦だ!?」」
2人で突っ込んでしまった。
見事なシンクロだと思います。
もはや条件反射の域に達しています。
・・・それは横に置いてぇ、体育祭はどうなってしまうのだろうか?
※次回に続く
次回に続きます。