第53話
遅めの更新をお許しください。
──バタン!
力強く閉められるドアの音に続き
「優!おりてきなさい!」
お袋の呼ぶ声がした。
あの後、俺は紫織を置いて走って帰ってきていた。
殴られた体が痛むのを堪え、リビングに移動する。
「なに??」
「あんた紫織ちゃん知らない!?」
慌てた様子で騒ぐお袋に驚き、
「・・・は?」
うまく返答できなかった。
だがお袋はまだ騒ぐ。
「まだ家に帰ってないのよ!!」
「え?!」
壁にかけてある時計に視線を移すと既に6時を過ぎている。
そして窓の外は真っ暗闇。
俺は慌てて家を飛び出した。
「ちょ・・まち・・さ・・・!」
玄関からはお袋の声が聞こえるが無視。
早く・・・捜さないと!そう心が叫んでいる。
・・・・。
どれだけ走ったのだろう?
息はゼェゼェ、足はガクガクと悲鳴をあげている。
生憎、腕時計を身につけておらず、現在の時刻が分からない。
「どこに・・居るんだ・・よ!?」
俯いていた顔をあげると公園があった。
この公園は家からは決して近くはなく、寧ろ遠くに存在する。
ここまで全速力で走った自分に拍手を送りたいものだ。
いや・・・まてよ?
喧嘩する度に紫織は決まっていつも、その公園のブランコにいる。
って事は───
だが、そんな期待は裏切られた。
しばし呆然とした後、また走る。
気がつけば隣町付近まできていた。
「ゼェゼェ・・ゲホ。」
住宅街の外灯の下で、壁に背中をつけ、休憩をとる。
あまりのキツさに頭がガクッとうなだれる。
「あの・・。」
そんな俺の上から声がかかった。
よく知っている声。
毎日・・毎日・・聞いている声。
俺はガバッと勢いよく顔を上げた。
するとどうだろ?
ビクッと体を動かしす紫織が立っていた。
だが俺だと分かった瞬間にその場で座り込んだ。
「紫織ちゃん?!」
「・・・・。」
紫織は俯いて黙っている。
とにかく無事よか──
「ぐす・・ひっぐ・・・。」
泣 い て い る!?
「紫織ちゃん!?」
「優・・くん。ひっく・・私・・道わかんなくて、迷子になって・ぐすん・・歩き回って・・」
それっきり黙り込む紫織。
数十秒後、意を決して口を開いた。
「さっきは・・ごめんね?僕・・紫織ちゃんに八つ当たりしちゃった。怒鳴って・・ゴメンね?」
分かっている。
今更謝ったって言った事実には変わりない。
でも本気で紫織に近づかないで欲しいだなんて思ってないと言うことを知ってほしかった。
本当は逆なんだ──!?
そこで俺は気づいた。
あぁ・・そうなんだ・・・。
今目の前で泣いている女の子を俺は───。
「・・近づくなって言うのは??」
「嘘だから!」
「・・・うん。許してあげる!」
彼女にはやはり笑顔が似合っていた。
「公衆電話があるとこまで行こう?そこで家に電話して向かいに来てもらおう?」
そう言って立ち上がる俺だが・・・・紫織は立ち上がらない。
「私・・もう歩けない。」
ウルウルとした瞳で上目遣い・・当時の俺にはノックアウト寸前にさせられそうになる程に強力だった。
「だったら・・おんぶしようか?」
「・・・いいの!?」
自分の顔が紅くなるのがわかる。
夜で良かった・・・。
そう思いながら片膝をつき、彼女を受け入れ万全状態になる。
そして背中に重みを感じたので、立ち上がった。
「ぐぅ・・迎えの電話で兄ちゃんを呼んで、おんぶ変わってもらうかな?」
「・・・なんでかな?」
「重いか─痛っ!」
頭に衝撃が走った。
えぇもちろん痛いですよ。
だが兄貴に変わってもらいたいのには勿論ワケがある。
体が限界を迎えつつあるからだ。
「レディに重いは失礼でしょ!?」
「ごめんなさい。」
それから暫くは無言だった。
だけど今のうちに言わなくてはと思い、沈黙を破った俺だった。
「僕さ・・ずっと紫織ちゃんの側にいるから。もう絶対・・1人にしないから!」
今回の出来事は全て俺の責任だ。
道の分からない場所に紫織を置いて帰って・・・つらい思いをさせた。
これは罪だ。
罪は償わなくてはならない。
だったら大切なモノを捨てでも彼女のそばを離れない。
そう心に誓ったんだ。
いよいよ次回で優の話は終わりです。