第45話
今回は和樹視点です。
「葵さん・・ごめんね?」
1人残った和樹は頭を下げ謝罪する。
「ずっと・・・此処に来なくて、ごめんなさい。」
謝っても許されるわけがない。
逃げたんだから・・・。
俺は・・・僕は葵さんの死から逃げたんだ。
「正直に言うと父さんがイギリスに来て欲しいって言われた時、イエスと即答したんだ。葵さんの死と向かい合う事が怖くて逃げ出したんだ。助かったとも思ってしまった。・・・・最低だよね?」
俯いたまま、自分を最低だと罵る。
「でも僕は・・僕はまだ葵さんが好きなんだ。」
『もし』と言う言葉がこの世には存在する。
人は過去を悔やんだ時などにこの『もし』と言う言葉を使用する。
僕だって今まで幾度となく使用した。
そして今も使おうとしている。
「僕は思うんだ・・・もし、あの日に戻れたら葵さんとその家族を救うのに・・・。もし、あの日がなければ今頃は葵さんと一緒に幸せに過ごせていたのかもしれない。もしなんて存在しないのにね?」
俯くと地面が濡れている事に気づいた。
雨かな?
そう思って空を見上げるが雲一つない夕方だった。
まさかと思い自分の頬を触ると濡れていた。
「泣いてるなんて・・・・情けないな。」
拳を握り締める和樹。
「好きな人のために涙を流す事は情けないとは思いません。」
声にギョッとして和樹は振り向く。
だが、そこには誰もいなかった。
空耳かな?
「葵さん・・・・僕は・・ホントに貴女が好きでした。今だって好きです。ただ・・・・貴女の死から逃げ出した僕に貴女を好きでいる資格はないですね。」
「そんな事ないです!」
再び和樹は後ろを振り向く。
「葵さん・・?」
そこには死んだはずの葵の姿があった。
「葵さんだって、和樹先輩の事好きだと思います。」
僕は何で勘違いしたのだろうか?
葵さんは死んだんだ。
それに葵さんはこんな大きな声で人と話さない。
「愛さん。いつからそこに??」
「一人称が僕に変わったあたりからです。」
それってかなり前だよね?
「愛する人の死を受け入れる事は難しいことです。隼人先輩だって螢先輩が居なければ立ち直れずじまい・・だったのかもしれません。たしかに和樹先輩が葵さんから逃げた事はいけないことだと思います。でも今ちゃんと向き合おうとしてるんじゃないですか?死を受け入れようとしてるじゃないですか?」
そっくりだと思った。
この子は・・・・螢にそっくりだ。
「それに私は、どんな理由であれ、好きな人のために涙を流す人は、好きな人を好きでいる資格があると思います。」
螢は他人の事を自分の事のように喜び、悲しみ、怒る。
今、僕を睨む愛さんのそう言う所も螢にそっくりだ。
「だから和樹先輩にも葵さんを好きでいる資格はあると思います。」
最後に微笑む彼女を見て、ますます螢に似ていると思った。
「ありがとう。」
「いえ、もし私が葵さんだったら、そう言いたいと思ったから口にしたんです。」
ほら・・・ね?
螢そっくりだ。
そう思うと笑ってしまった。
「な、なんで笑うんですか?!」
「プ・・ククク。愛さんがあまりにも螢そっくりだから可笑しくて。」
「誉めているのか貶されているのか分かりません!」
プクーと頬を膨らませる。
顔は葵さんそっくりで性格は螢そっくり。
面白い子だ。
「誉めたんだよ。」
「そうですか。クシュン!」
女の子らしい嚔をする愛さん。
すでに夕陽はもう半分ほど沈みかけ、街灯が点灯していた。
それに少し肌寒く感じられる。
「葵さん、また来ます。愛さん、帰ろうか?」
「あい。」
『また・・ね?』
葵さんがそう言った気がした。
「おはよう、螢、奈緒。」
朝学校に到着して2人に挨拶する。
「おは・・くぅ〜・・・・。」
挨拶の途中で螢は眠りに落ちた。
あ、奈緒が無理矢理起こした。
「おはよう、和樹。」
起きた螢は爽やかな笑顔で最後まで挨拶する。
「和樹、何か良いことでもあったの?」
奈緒は不思議そうに首を傾げながら僕にそう言ってくる。
「うん、僕の周りには良い人ばかりが居るんだって気づいた。」
「へぇ〜・・・・今なんて?」
驚いた顔で僕を見る螢と奈緒。
「だから僕の」
「「僕!?」」
声をシンクロする。
そう言えば一人称を戻したんだっけ?
「あはは・・・・そっか・・・僕・・・か。」
「ふふふ・・・僕・・ね?」
「そんなに嬉しい事なの?僕がまた僕と言うことが。」
「「うん。」」
息ピッタシだ。
何でだろう?
「ねぇ・・・何で2人はつきあわないの?」
「「黙れ!」」
また、今日と言える楽しい日々が戻ってきた気がした。
次回からはシリアスから一転します!・・・・あくまで予定っす。