第40話
隼人も無事(?)退院し、日常が帰ってきた。
「あ〜ん♪」
「あ〜グフ!?」
ラブラブモード強制終了。
「隼人さんノビちゃいましたね。えい♪」
「あ、私もやるぅ♪」
愛ちゃん紫織ちゃんコンビは、そこら辺に落ちていたと思われる木の枝で隼人を突っつき始める。
「螢、味の方はどう?」
「美味いっす。」
「良かった♪」
うん、可愛い。
「何で2人は付き合わないの?」
「「五月蝿い!」」
「付き合えばいいのに。」
そう言ってため息を吐き、またパンを頬ばる。
和樹さん、もうそろそろ告白しようとしてたんだから、そんな事言わないでください。
「コラ〜!」
「きゃ〜!ごめんなさい。」
「キャハハ!」
笑顔の3人が俺と奈緒の目の前を横切った。
また・・・・優が苦しんでる。
もう、これは定番化しているな。
「ふう、痛かった。」
「お前、回復するの早くなったな?」
前は結構眠ってたのに。
「そうなんだよねぇ。何か病室で気を失ってから早くなったなみたい。でも、変なんだ。なんで気を失ったか記憶にないんだ。」
俺の脳にはキッチリ残ってますよ?
殴る美帆様の笑顔を。
「そう言えば愛ちゃんと話したのか?」
「うん。でも・・・葵の事を聞いてこないんだ。」
「そう・・・なんだ・・?」
そう言って笑顔で走り回る愛ちゃんを目で追う。
「聞けないんだよ、きっと。」
「俺も奈緒に同意見。たぶん愛ちゃん聞きたいんだと思うよ?でも、また隼人が倒れると嫌だから聞かないんだよ。」
和樹の言葉に奈緒はウンウンと首を縦に動かす。
「かもな・・・・。」
俺は曖昧に答えた。
だって人の気持ちや思っているは本人以外には分からないから。
「今日部活ないよな?」
「おう・・・どうした?」
真剣な顔つきで俺を・・・・いや、俺達を見てくる。
「放課後、話すから。いいか?」
「何で俺に同意を求め・・・・。」
分かってしまった。
俺は隼人が次に発するであろう言葉が分かってしまった。
ゆっくりと隼人の前に手を出す。
「引き受けた。」
それだけで充分だった。
意味を理解した隼人は苦笑しながら、俺の手を握った。
「ありがとう。」
「おう。」
なんか・・・・友情って感じがする。
「私達にも分かるように会話してくれない?」
「「以下同文」」
いつの間にか優まで混じって俺達の意図を知ろうと睨んでくる。
「放課後になれば分かるさ。」
俺はそう言って、また食事を再開した。
時間が経つのは早く、只今の時刻、午後5時。
場所、学校付近のファミレス。
「っで何で全員集合してるんですか?」
今から何があるのかは分からない優は疑問の声を上げた。
俺は隼人に目で合図を送る。
「俺達の出会いを愛ちゃんに話そうと思う。どう?」
「いいんですか?」
キラキラと目を輝かせる愛ちゃん。
明るく対処する隼人とは裏腹に暗くなる俺以外の3人。
知っているから。
この後、に隼人が口にする言葉を知っているから。
「それと葵の事・・・・知りたくないか?」
愛ちゃんの目からは輝きが消え、戸惑いの色になる。
「あの・・・でも・・。」
「どうする?」
「うっ・・・。」
愛ちゃんが俯き、10秒ほど沈黙が続いた。
「葵さんの事・・・・聞かせてください。」
上げた顔は真剣そのものだった。
「もちろん。螢。」
ここから俺の出番ですか。
意外と早かったな。
「あいよ。さぁてと・・・・初めに言っておくぞ?後で話すが俺と隼人は皆に隠し事をしている。美帆に関しては嘘までついた。」
「嘘って・・・何を?」
「後で話すって言ったろ?まずは俺達の始まりと今を愛ちゃんに話してからだ。」
「わかったわよ。」
ブスッとした顔になる。
当然と言ったら当然かな?
「んじゃ、昔話・・・っても4年前だけど・・・・まぁいい始まり始まり。」
「ちょっと待って!」
和樹が止めに入った。
「何で隼人じゃなくて、螢が話すのさ?」
あぁその事ね。
「記憶上の問題。コレだけ言えばわかるだろ?」
「・・・理解した。」
そう・・・・記憶上の問題、そして誰よりも隼人の近くにいた俺が話すのが妥当なんだ。
「じゃ・・・始めるな。俺達の出会いは最悪だった。」
そう言うと2年組は全員苦笑した。
「あれは入学式の日・・・・」
――――4年前――――
桜の花びらがが舞う季節、当時新1年生として俺は入学式を迎えていた。
とある教室の壁に貼られたクラス割りの紙をドキドキ感を楽しみながら自分の名前を探していた。
「私と螢は同じ2組だよ♪」
俺の楽しみを奪ったのは言わなくてもわかるだろうが、あえて言おう。
現在の想い人だと。
「また一緒かよ!」
ツッコまずには居られなかった。
生まれてこの方、奈緒と違うクラスになったことがないのだ。(現在進行形)
「わ私だって、す好きで毎回螢と」
「分かったから早く教室に行こうぜ?」
「ムゥ〜・・。」
頬を膨らましながら俺の横を歩く。
何に怒ってんでしょうね?
教室に入ると他に生徒は来ていなかった。
どこに座ればいいのか分からずキョロキョロとしていると黒板の文字が目にとまった。
《席は自由だよん♪》
なぜに♪?
そう思いながらも1番奥の1番後ろに座った。
隣には当然のように奈緒の姿がある。
「どんな人達がいるのか?」
「さぁ?」
興味のない俺は適当に答えると奈緒はツマラナそうな表情になる。
「アンタにはワクワクとかドキドキと言ったら感情がないの?」
失礼な!
「ドキドキと言った感情なら先程のクラス割りの時にあったけど、奈緒によって消された。」
「なっ!?ちょ」
「火野螢!」
奈緒の声は俺の名前を叫ぶ声に遮られた。
てゆうか
「どちらさんですか?」
ドア付近で俺の名前を叫ぶ少年は間違いなく新1年生なのだが見たことがなかった。
「パァ―ス!」
俺の言葉は無視ですか!?
てかパスって・・・・
パス!?
少年は手に持っていたバスケットボールを俺めがけて投げた。
俺はキャッチできるように構える。
いきなりだったけど・・・・取れる。
そう確信したときだった。
ボールの軌道に本を読みながら歩いている別の少年が入ってきた。
「危ない!」
奈緒が叫んだが時すでに遅し、ボールは少年の頭に直撃した。
少年は持っていた本と一緒に倒れていく。
《ゴッ!》
骨と骨が衝突したような鈍い音がした。
「痛ったぁい!」
「痛たた、大丈夫?!」
解説しよう。
本の少年は勢い良く隣に座っていた少女の頭に頭を衝突させたのだ!
「大丈夫じゃないわよ!?何すんのよ?」
そうだよねぇ・・・・。
いきなり頭突きされちゃキレちゃいますよねぇ・・・・。
「あの人達がボールで遊んでたらしくて・・・・頭に当てられて、倒れた先が君の頭の上だったわけで・・・・。」
うんう・・・
あの人達?
もしかして俺が含まれてる?
って何でこっちを指さすの?!
「ちょっとアンタ達、教室でボール投げ合ってんじゃないわよ!?」
明らかに怒っている少女は俺と奈緒のもとへ歩み寄ってきた。
「ちょい待ち!俺達は何もしてないぞ?!」
「嘘をつかない!アンタ」
「螢は嘘ついてないよ!」
援軍!
これで勝てる。
まぁ戦ってるわけではないけど・・・・。
「彼女さんは引っ込んでて!!」
「「誰が彼女だ!?」」
しまった!
ついいつもの癖で・・・!
「だいたいアイツが急にボール投げてきたんだって!」
「「どれ!?」」
「「アレ!」」
必死になってボール野郎を指差す。
「でも君はあの友達とボールを投げ合ったって事には変わりないよ?」
本野郎も明らかにキレていた。
「君、瞳が青なんだ?」
場違いの台詞がさらに彼をキレさせてしまったらしく青筋が見えた。
「ちちょっと待って!ホントのホントに螢は何もしてないんだって!」
「親しい人の証言は当てにならないから。」
「いやだから!俺じゃなくてアイツが悪いんだって!」
「だいたい瞳の色は今関係ないだろ?」
コイツ手強いっす。
あ、あっちでも何かしてる。
「ねぇ・・・痛かったんだけど?!」
「いや〜ゴメン。ついウッカリ。」
ボール野郎は今ウッカリって言いましたか?
ウッカリ??
ピーピー!
日常モードから処刑モードへコードを変更します。
ピーピー!
変更完了。
「おい、お前。」
「何かな?」
コイツ空気を読めないんだな?
よぉく分かった。
「俺を巻き込んどいて謝罪なしか?」
「ちょ!?螢落ち着いて。」
とりあえず今は奈緒をシカト。
「あ、ゴメン。」
頭を下げて謝罪の言葉を述べるが許す気は始めからない。
あるはずがない。
「天国逝けや。」
殴ろうと勢い良く手を振り上げた時だった。
「痛!」
後ろにいた本野郎の顔に拳がヒットした。
ヤバイよね?
これ流石にヤバいよね?
「飽きるほどに三途の川を・・・・見てきなよ!」
完全にキレた本野郎は俺めがけて拳をつきだしてきた。
俺は体を横に反らして攻撃を避けた。
「痛ってぇ!」
本野郎の拳はボール野郎の顔面に直撃。
「お〜ま〜え〜!」
ヤバい・・・・。
何とかしてこの危機を乗り越えなくては!
「痛ったぁぁぁぁ!?」
「さっきのお返しよ!」
振り返ると少女が本野郎の後頭部を殴ったと思われる図になっていた。
「貴様等!何やっとるかぁ?!」
あ、もしかして俺終わった?
そして現在職員室。
本当ならば今頃は体育館の中なんですけど?
そんな事を説教の最中に考えていたら、また怒られた。
「「「「「失礼しました。」」」」」
説教が終わり、職員室をあとにする。
「あのハゲうるさかったぁ。」
「確かにウルサかったねぇ。」
奈緒は少女に同意する。
「もとはと言えばアンタが全て悪いんでしょ?」
そう言われてボール野郎は笑顔で頷いた。
「まったく。私達はいい迷惑だった。ねぇ螢?」
「奈緒の言うとおりだ。」
「「「ねぇ君達付き合ってんの?」」」
「「ただの幼馴染!」」
当時の俺は奈緒に対して恋愛感情はなかった。
「まぁどうでもいいけど。」
どうでも良いのなら言うな!
「そうだ。本野郎さん。」
「誰が本野郎だよ?!」
「だって名前知らないから。」
「俺の名前は和樹。鏡山和樹だよ。」
「和樹、殴って悪かった。ゴメン。」
「いや俺こそ殴りかかってゴメン。」
よくよく考えてみれば俺と奈緒は無傷だ。
奈緒は当然だけど、俺は奇跡じゃねぇ?
「君の名前は?」
「火野螢。螢って呼んでくれ。」
「うん。悪かったね。コレからは宜しく。」
和樹からは完全に怒りはなくなっていた。
綺麗な青の瞳はいつまででも見ていたい、そんな風に思った。
「和樹・・・だっけ?叩いてゴメンね?」
「いや俺こそ頭突きしてゴメン。」
「良いのよ。全部コイツが悪いんだから。」
そう言ってボール野郎を指差す。
「ごめんなさい。」
ボール野郎は深々と・・・・本当に深々と頭を下げた。
「もう頭あげなよ?え〜と・・・・。」
「佐藤隼人が俺の名だよ。」
「隼人、顔殴って悪かったね?」
「いいよ、事の発端は俺だし。」
「そうだね。じゃぁもいいや。」
「ひど!」
「君達の名前教えてくれない?」
和樹は女子2人に話しかける。
「私は松本美帆。」
「私は下田奈緒だよ。ねぇ和樹ってハーフ?」
「うん、イギリスと日本のハーフだよ。」
3人は仲良く話し始めた。
すると必然的に俺の話し相手は
「螢よろしくな!」
隼人か・・・・。
「なぁなんで俺の名前知ってたんだよ?」
「いやいや、お前は俺覚えてないの?」
は?
何言ってんだコイツ?
「初対面だろ?」
そう言うと隼人はガックシと肩を落とした。
「何回・・・いや何十回試合したと思ってんだよ?」
試合した?
試合・・・・試合・・・・。
バスケ・・・・隼人・・・・・。
あ。
「東小の隼人か?!」
「やっと思い出したか。」
「ユニフォーム着てないから分からなかった。」
「鬼!」
いや事実だって。
「螢、美帆が5人でカラオケ行こうって。親睦会だってよ?」
「おっ!いいね。行く♪」
「俺も行く〜。」
「決まり♪」
出会いは本当に最悪そのものだった。
でも隼人があの場所から、あのタイミングで、あの速さでボール投げてなかったら俺達は今みたいに一緒に居なかったかもしれない。
出会いは最悪。
でもその後は全て最高だった。
あの12月21日さえなければ・・・・・・。
次回、愛にそっくりの葵という少女が登場します。そして12月21日に何が起きたのか・・・・作者頑張ります!