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第39話

午後の授業は気がつけば終わりを迎えていた。

来週の連絡も終わり、3人が俺の机に集まる。


「よし、行くか!」


行くとはもちろん隼人の所へであり、鞄を手に持ち歩き出した。






「「「部活は?」」」


ブカツ?

何それ?













その言葉の正しい解釈をできた時、部員に対しての、とてつもない罪悪感が芽生えた。


「・・・忘れてました。」


「キャプテンがそれではダメっしょ?」




美帆の口撃は俺の精神に膨大なるダメージを与えた。


「人間は忘れる動物だ!」


苦し紛れの言い訳は


「馬鹿。」


あっさりと切られた。


「・・・・奈緒と和樹、あとは頼んだ。俺、部活が終わってから高速で行くから。」


「は?私も今から行きますけど?」


「へ?」


えっと・・・・。


「マネージャーの仕事は?」


いや・・・・そんな鋭い眼光を放たないで・・・。


「放棄!!彼氏が入院してるのに部活に行くなんてありえないから!」


ありえないのか??


「そっか・・・・。なら行ってこい。」


「言われなくても行くつもり。じゃ部活頑張って♪」


ニャハハと笑い声を発しながら美帆は教室を出ていく。

後ろには和樹が続く。


「っで?お前は何をしている?」


なぜか奈緒はその場を動かず、う〜ん・・・・と声に出しながら難しい顔をしていた。




「私は・・・・螢を待ちたい。」


ドキッとした。

可愛い顔で待ちたい、なんて言われちゃぁドキッとしちゃうって!


「ありがとう。」


だが、そんな気持ちを顔に出さずに会話を続けた。










「急げ!」


「待ってってば!」


焦っている俺は靴を履き替えている奈緒を急かす。


「早く!じゃないと奴等がくる!」


「分かってるから!・・・はい終了。」


よし!

コレで逃げられる。


「見つけましたぁ!!!」


「「!」」


力いっぱい声を張り上げた女子は獲物を見つけたハンターのようにギラギラした目で俺を見ている。

って冷静に解説している場合じゃねぇ!


「走るぞ?!」


「うん!」


「あ、待ってください!」


走り出した時だった。

あの嫌な足音達が聞こえたのは。


《きゃ―――!螢様!!》


刹那


奈緒の顔が曇った。

どうしたんだ?


《待ってくださぁい♪》




なんちゅうスピードや!?

このままじゃ追いつかれちまう。


ガシッ!


「え?」


「緊急事態だ!手、離すなよ?!」


「うん!」


曇ったと思いきや快晴ですか?

まぁ俺はその笑顔が何よりも好きなんだけどね。


握り返してきた手をさらに強く握り、走るスピードを上げる。

それでも病院の近くの交差点までファンクラブの連中はついてきていた

。間違いなく奴等はハンターだ。


「大丈夫か?」


「ハァハァ・・水・・・・。」

「お、おう。」


疲れた様子の奈緒を病院の敷地内にある中庭のベンチに座らせ、俺は自動販売機で冷たいお茶を買おうと移動する。

いざ、買おうと財布を開いて絶望した。

何故なら、財布の中には126円しか入っていなかったのだ。

1本しか買えない・・・。


しかたなく1本だけ買い、それを奈緒をに渡す。


「ありがとう・・・。」


美味しそうにお茶を飲む。

後で、

優あたりに奢ってもらおう。

そんな事を考えていると、奈緒は俺が何も持っていないことに気づいた。


「螢、飲み物は?」


ストレートな質問。


「俺は喉乾いてないから。」


上手く嘘をつく。

嘘が上手いって状況次第では最悪だね。

でもこの場合は良いと信じています!


「嘘つき。」


怒って表情とすまなそうな表情を足して2で割ったような顔をする俺の想い人。


「何言ってんの?嘘なんてついてない。」


「また、ついた。おおよそ、飲み物を買おうとして財布を開いたら130円しかなかったんでしょ?」


なんと・・・・!!

ふっ・・惜しいではないか。


「残念だけど金額だけが違う。」


「あら?それは、どうでだろうね?」


奈緒は全てを悟ったような顔つきになる。


「左ポケットに手を突っ込んでみたら?」


無言で左ポケットに手を突っ込む。

・・・・ハハハ。

うっそーん?!

掴んだを物を取り出して、鳥肌が立った。


「4円・・・・。」


全てお見通しなのでしょうか?


「まだ半分ちょっと入ってるから。」


「サンキュー。」


俺の金で買ったのに礼を言うのは何か違和感があるな。

まぁ・・・いいか。

そう思いお茶を飲む。


「あ、間接キス。」


「ブフッ!?ゲホ、ゲホ。」


喉が痛い・・・。


少し涙目で、睨むように後ろを見た。


「隼人!」


殴れ。

何の躊躇もなく脳がそう判断した。


くらえ!

必殺、右ス・・・・


「アハハハ、奈緒の顔が真っ赤だ!アハハハハ!」


え?っと思い、奈緒を見てみると真っ赤になってフリーズしていた。


『間接キス』


その単語が頭の中でリピートされた時、俺の顔が平熱を軽く超えた。


「間接キスだけで、その反応かぁ・・・・なんと若々しい。」


うん、コイツは鮫の餌にでもしてしまおう。



「貴様〜!」


「逃げるが勝ちってね。」


逃げ出した隼人を捕まえようと、追いかける。

だが部活と先程の鬼ごっこで疲労がピークに達してしまい、簡単に逃げられてしまった。


「畜生・・・!」


ひとまず奈緒の座っているベンチまで戻る。


「・・・・・。」


「・・・・・。」


目ヲ合ワサレナイデス。




五分後。


「病室に行こう?」


沈黙を破った俺は、やはり目を合わせれなかった。


「うん。」


そして、会話なしの状態で病室の前まできた。


開けたら、まず1発。

開けたら、まず1発。

開けたら、まず1発。

開けたら、まず1発。

開けたら、まず1発。

開けたら、まず1発。

開けたら、まず1発。


呪文のように何度も心中で呟き、気が済んだところでドアノブに手をかけた。


《ガチャ!》

開けたら

《バタン。》

閉める。

これ我が家の常識ね。


「なに・・・・してるの?」


「え〜っと〜・・・・言うなれば自己防衛機能が勝手に作用した。」


「え?」


言えない。

何で閉じたかは、言えない。


「奈緒・・・今日はもう帰ろうか?いや、帰るぞ。って開けるな!」


俺の『開けるな』を無視して、奈緒はドアを開けようとする。


《キィ〜。》


奈緒がドアを開けると、先程と同じ光景が目に入ってきた。


《バタン!》


ドアを閉じたて少し経ってから、俺達は静かに素早く、その場を立ち去った。



そして今、病院近くの交差点付近。


「見なかったことにしような?」


「それが賢明ね。」




そうドアの向こうは見なかったことにしたい。



地獄絵図。



恐怖のあまり、部屋の角で目尻に涙を溜めて震える紫織ちゃんと愛ちゃん。

必死に止めようとする優と和樹。

そして恐怖の対象である、隼人の胸ぐらを掴みつつ、殴る蹴るの美帆。

殴られている隼人は安らかに眠っていた。

口から血を流しながら・・・・。




あの美帆の笑顔は一生、脳から消えることはない。

恐怖。

そう、あれは恐怖だった。

そして俺達はその恐怖から逃げた。

見て見ぬフリをして5人を見捨てた。



夕焼けが隼人の口から流れる血の色と被った。
















「落ち着いてくだグフ?!」


「黙ってて。」


「美帆、落ちガハ?!」


「離しなさい。」


「きゃっ・・・!」




「あぅ・・・あ・・・・。」


「・・・・・。」







兄貴は鬼を見たことがあるか?俺はある。言っておくが鬼は絶対に怒らせないように努めなきゃ天国なんてすぐそこだぜ?

(火野優、後日談)

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