第36話
いつもと何ら変わりない朝の風景。
昨日見たテレビ番組の話しや、最近知った身の回りの事などで盛り上がる俺達。
それは当たり前の事。
笑ったり、少々ムキになって怒ったり、苦笑したり・・・・俺達にとって当たり前の事。
今日だって朝から当たり前な事をしていた。
チャイムの音が教室に鳴り響いた。
「よし今日は終わり。」
先生がそう言うとある者は教室を飛び出し、ある者は悠々と鞄から弁当箱を取り出している。
俺達はと言うと・・・・
「まだ大丈夫なはずだ。」
グラウンドの端の芝生で7人で昼食をとろうとしている。
「まだって・・・・・ホントかよ?」
「たぶんな。アイツ等さっき中庭走り回っていたから。」
「ふぅ・・・・見つからない事を願う。」
俺もだよ。
ファンクラブの奴等ときたら迷惑この上ない。
昼食時の場所移しもこれで3回目だ。
「はい、お弁当。」
「あ〜サンキュ♪」
いつもの様に弁当箱を受け取り食べ始める。
「美味い。」
「ありがとう♪」
最近になって、奈緒といるだけで笑顔になると気づいた。
「2人は相変わらず仲がいいね?」
和樹・・・・禁句だそれ。
「結婚しなよ。」
「「薦めなくてよろしい!!」」
ぐっ・・・・なんと言うバッドタイミング。
「ほら、息だってぴったりだし。」
昔からそうだ。
和樹は俺と奈緒で遊ぶ事がある。
何と言い返そうと思考を巡らせている時に偶々目に入った。
奈緒も気づいたみたいだ。
優と紫織ちゃんが無理に作っている笑顔だと言うことに。
昼休み10分前になって先に隼人達を教室に帰らせて優達に疑問をぶつけた。
「何があった?」
ただその一言で優は困った顔に、紫織ちゃんは泣きそうな顔になった。
「ねぇ、私達に教えてくれない?何があったのか・・・・。」
奈緒は優しく2人に接する。
優と紫織ちゃんは互いの顔を見てため息を吐いた。
「付いてきて・・ください。」
歩き出した2人の跡を無言で追う。
すると2人の教室についた。
「兄貴達はどう思う?」
優の人差し指の先を見つめる。
心臓が大きく脈打つ。
「あお・・・い?」
クラスメートと楽しそうに会話している女の子を見て、自然とそう声に出した。
「そんな・・・・でも葵ちゃんは・・・・。」
「今日、このクラスに転入してきたんです。私達、驚いて隼人さんと和樹さんに伝えるか伝えないか悩んでて・・・・。」
かすれ声で紫織ちゃんは説明をしてくる。
「兄貴・・・・どうする?」
どうする?
俺はどうすれば?
隼人と和樹をあの娘に・・・・会わせる?
「隼人と和樹には・・・・教えない。」
「そっか。」
納得する優。
それとは対照的に紫織ちゃんは反論してきた。
「何でですか?なんで教えてあげないんですか?」
教えてあげないんじゃない。
教えてあげれないんだ。
また精神が耐えれなくなって隼人が倒れるかもしれない。
それに和樹は──
「あの女の子は葵じゃない。だから2人に教えたって意味はない。違うかい?」
こんな事なら2人にはあの事は伏せて隼人が精神的ショックで倒れた事を教えておけば良かったと内心思った。
でも、もう遅い。
「その通りです。でもやっぱり」
「紫織!あの子は葵ちゃんじゃないの。」
遮る言葉は紫織ちゃんの大きな瞳から涙を流させた。
「でも・・・・だっ・・て」
奈緒に抱きつき涙流す紫織ちゃんを何とか泣きやませて、教室に戻った。
「何してんだ?次は体育だぞ?」
「あぁ・・・悪い。」
「?」
俺は何故か隼人の顔を見ることができなかった。
―――――――――――
「ヤバい!」
校門まで残り2メートルと言うとこでバカが叫んだ。
「どうした?トイレか?」
何とか普段通り会話をするが、やはり顔を直視できない。
「違う!小テスト悪くて先生に呼ばれてたんだ。」
「もう・・・・私達待ってるから早く行ってきて。」
私達・・・・か。
美帆さん勝手に俺等3人巻き添えにしたね。
「はい!」
返事をし走り出した。
「キャ?!」
「のわ?!」
そして衝突した。
バカ。
そして迷惑だ。
「痛てて・・・あ、ごめ!?」
最悪だ。
俺は隼人と衝突した女の子を知っている。
いや、皆も知っている。
「あの・・・・どうかしましたか?」
あまりにも似すぎているんだ。
「あ・・おい?」
「葵?」
しまった!
美帆と・・・・和樹まで気づいてしまった。
「葵?あお」
「隼人!落ち着け!」
両肩を掴み俺だけが見えるようにする。
隼人の瞳は揺れ動いていた。
マズい!
そう思った時には隼人は叫んでいた。
「葵!!くっ螢離せ!」
くそっ!
厄介な事になった。
「違うだろ!?この子は葵じゃない!」
「葵!」
「え?あの私」
和樹!?
くっ・・・・。
「和樹さん!」
「優!」
運良く通りかかった優が和樹を押さえている。
優は必死に和樹に呼びかけている。
和樹は優に任せよう。
「離せ!」
「落ち着けって!」
「うるせ!葵!」
『駄目だ!言うな!』
そう自分に言い聞かせたの口に出してしまった。
「葵は死んだんだ!」
誰もが俺の一言に凍りついた。
横で騒いでいた和樹に、和樹を押さえていた優も、後ろの奈緒と美帆も、前の紫織ちゃんも皆が凍りついた。
「でも葵は・・・」
「死んだんだ。頼むから目を覚ませ。頼むから・・・・。」
隼人の視線は葵にそっくりな女の子に向けられる。
「隼人?!おい!」
力尽きたように倒れる隼人を支える。
顔を見てみると瞼は閉じられている。
脳裏にある言葉が浮かんだ。
『2度ト目ヲ覚マサナイ』
「隼人―――!!」
俺の叫び声が辺りに響く。
まだ暑さ残る9月のできごと。
葵に似た女の子。その子を見て騒ぎ出す隼人と和樹。葵と言う名を持つ子と2人の関係。そして何故死んでしまったのか?それは近々、回想編で。