第33話
奈緒が泣きやんで数分、俺達は病室に戻っていた。
「奈緒もごめんな?」
「ううん。それより美帆寝ちゃったんだ?」
「うん、泣き疲れて眠ったみたい。」
「そっか。」
隼人の腕の中で眠る美帆は安心しきった顔だった。
『美帆にはなんて?』
病室に戻る途中で奈緒は俺に聞いてきた。
『前に俺が倒れた時の疲労と言うことにしてある。合宿最終日ならあり得るだろ?』
『うん、そうだね。』
「とりあえず無事でよかった。いつ退院できるの?」
「明日にはできる。」
ここで隼人が目で俺に合図を送ってきた。
すまんが全くをもって何の合図かわからん。
いや、そんなウインクされても・・・・。
そして思った
「「隼人キモイ。」」
ナイスだ奈緒。
まさか言葉もタイミングも同じとはね・・・・。
でもナイスだ。
「はぁ・・・。」
「溜め息吐くな。」
「誰のせいだよ!?」
「お前のウインク。」
そんな潤んだ目で俺を見てきても無駄だ。
むしろ
「「隼人キモイ。」」
「こんの似た者・・・・ごめんなさい。すいません。誰も《夫婦》なんて言おうなんてしてゴフ!?」
右フックがキレイに決まる。
うん、やっぱり俺と隼人はこうでなくちゃな。
「螢さん痛いっす。」
「っでさっきは何を伝えたかったんだ?」
戦闘態勢をとりながら問いかける。
「もう遅いから 「美帆起きて。」 てめぇら帰れ!!」
語尾が荒くなったのは奈緒が隼人の言葉を遮ったからと考えて間違いないはず。
あ、起きた起きた。
「美帆帰るよ?」
「うん・・・。隼人。」
「ん?はいよ。」
「「なっ?!」」
人の目の前でキスをするか普通!?
「2人とも何で固まってるわけ?」
隼人にもう1発拳を入れる。
「俺も明日、合宿先から帰るから。気をつけてな。」
「え?今日が合宿最終日じゃないの?」
「合宿の練習が最終日。だから昼には帰ってくるさ。」
「なんだ。じゃ私達帰るから。」
「おう、気をつけてな。」
「螢もね?じゃね隼人。」
「うん、じゃね。」
「隼人、今日は早めに寝てね?」
「わかってる。じゃ。」
女2人を見送る男2人。
「手のサインならわかるんだ?」
「当たり前だ。っで俺に《待て》の合図をしたわけは?」
「あの・・・さ、明日」
「迎えに来てほしんだろ?」
「さっすがぁ!」
何年の付き合いだと思ってるんだよ?
少しくらいなら分かるさ。
「じゃ11時な?」
「おっす、じゃ」
また明日と言い合って病室をあとにする。
外に出ると雨はやんで、雲の間から月がでていた。
大丈夫・・・。
そう心で呟きながら合宿先に戻った。
―――――――――――
「おはよう。」
「おはよー♪」
下田家の前で待つこと3分して姿を現した奈緒と並び歩き出す。
「〜♪〜♪」
鼻歌とはご機嫌ですね。
しかもスキップしちゃってるし。
姉妹そろって同じ行動だね。
「何か良いことでもあった?」
前でスキップしている奈緒に問い掛ける。
「うん♪」
「へぇ・・・なに?」
「えへ、秘密♪」
「なんじゃそら?」
「なんじゃろね?」
笑顔でスキップをする奈緒はとても可愛らしく、つい俺も笑顔になった。
「奈緒おはよ!あ、あと螢も。」
俺はついでかよ!
「おはよう美帆。あと隼人も。」
朝から校門前で酷い仕打ちにあう男2人。
「全く俺らは・・・・・何かさっき視線が俺らに向いてないか?」
「「「は?」」」
各自それぞれの方向を見る。
「ホントだ。」
「なんで?」
「怖いね。」
「なんかした?」
「「「「・・・・・。」」」」
うん・・・・バラバラだね。
呼吸合わなすぎる。
でも相変わらず視線が向いてるね。
「火野先輩と佐藤先輩・・・・ですよね?」
「え?うん。」
誰この娘?
襟の刺繍からして・・・・1年?
「あの雑誌見ました!良かったら握手してください!」
雑誌??
あぁアレか。
「うん。良いよ。」
「ありがとうございます!」
女子生徒と握手する。
《あ!!》
周りの生徒・・・・主に女子が声を上げた。
『あ』ってなに?
次に隼人が握手する。
《あ―!!》
えぇ?!
もしかして俺等に向けての声なんですか?!
「ありがとうございました!!」
笑顔で礼を述べ女子生徒は去っていった。
何だったんだ今の?
そして先程から背中にヒシヒシと伝わってくる殺気は何?
振り向くと・・・・般若が見えた。
「奈緒サン?ドウシタノデショウカ?」
「別に・・・。」
上機嫌から一気に不機嫌に切り替わった。
長年の感、かなりヤバい。
「奈緒、な」
「火野先輩!私とも握手してください!」
「へ?」
「佐藤君、握手して!」
「は?」
気がつけば俺と隼人は大勢の女子生徒に囲まれていた。
あぁ・・・なんと言うことだ。
先程よりさらに強い殺気を感じる。
「火野先輩!」
「火野君!握手」
「佐藤さんサインを」
「佐藤君!こっち見て!」
「あの、わっ。」
「ちょっ、待てって!」
焦る俺達は気づきたくはなかったさ!
男子共からの殺意に満ちた視線を。
《ピー!ピッピッピー!》
Why?!
なぜに笛の音!?
「アンタ達!他の生徒の邪魔だから散りなさい!ほら、散った散った!!」
この人、救世主だ!
あぁ段々と女子達と視線が散っていく。
「あの、ありがとございます。」
「ありがとです。」
いまだに背後から殺気を感じますね。
できれば、コッチをどうにかしてもらいたかった。
「アンタ等次は自分で」
《ピッピー!》
「こらそこ食べながら歩くな!」
救世主の女子生徒は走ってどこかえ行ってしまった。